間話1 元上級パーティ〈ゲイツ視点〉


 ゲイツとティアナは森の中に身を潜めていた。



 ルーク達が事を終え、状況が好転するのを待っていたのだ。



「急に辺りが静かになったみたいだけど、もう大丈夫なんじゃないかしら?」

「そ、そうか……?」



 ティアナはそう言うが、ゲイツはどうにも思い切りが付かない。



 ルークに頭の毛を全て根絶やしにされてしまった事が切っ掛けで、どういう訳か自分の力に全く自信が無くなってしまったのだ。



 常に何かにビクビクしている感じで落ち着かない。



「ここに、いつまでもこうしているわけにもいかないでしょ?」

「ああ……そ、そうだな……」



 彼女に促されるように繁みから顔を出し、街道の方角を探ってみる。



 確かに彼女の言う通り、辺りは何事も無かったかのように平穏を取り戻していた。

 ここからカダスの町が見えるが、あのニヴルゲイトとかいうのが無くなっている。



 ――ルークが片付けてくれたのか……?



 ともあれ、これで人里まで帰ることが出来る。

 武器も食料も装備品も何も無い状況だから、早く町へ帰らないと心許ない。



 ――そういえば途中で別行動に出たラルクは今頃どうしているだろうか?



 気になりはするが、他人の心配をしている余裕は彼には無い。



「と……とりあえず、アーガイルまで戻ろう」

「そうね」



 意見がまとまり、揃って街道へと出てすぐの事だった。



「そこの兄ちゃん達、ちょっと面貸せや」

「……」



 説明せずとも野盗だと言わんばかりの風体をした男達が現れ、ゲイツ達を取り囲んだのだ。



「この状況、何も言わなくても分かるよなあ、ああん?」



 集団の中の一人がナイフをチラつかせてくる。



 こんな奴らゲイツ達にとっては赤子の手を捻るような輩だったが、やはり立ち向かう勇気が出ない。



「早く出すもん出さないと大変なことになっちゃうかもよ? ぐははは」



 別の男が馴れ馴れしくゲイツの頭をぺちぺちと叩いてくる。

 ゲイツの体は萎縮したように小さくなってしまう。



「ううっ……お、俺は……」

「お? なんか言いたげだな?」

「俺は……Aランク冒険者だぞ……!」



「……」



 一瞬、沈黙が過る。



「今の聞いたか? こいつAランクなんだとよ!」

「見えねー」

「ウケるー!」



「……」



 野盗達は腹を抱えて笑い始めた。



「こんな、なよなよしたAランクがいるかよ! 吐くならもっとマシな嘘を吐けよな」

「ち……違っ……」

「ああん?」

「す、すみません……」



 恫喝されると胸がドキドキして何も言えなくなってしまう。



 ゲイツが狼狽えていると、野盗達のターゲットは傍にいたティアナに移った。



「何も出さねえってんなら仕方がねえ。代わりにこの姉ちゃんを貰って行くぜ。人買いに売り飛ばせば結構な金になりそうだからな。ぐしし……」



 ギラ付いた男達の視線がティアナに向けられると、彼女は引き攣った表情を見せ、体を震わせた。



「ひっ……!」



 小さな悲鳴を上げた直後、彼女の足下にポタポタと温かいものが流れ出て、水溜まりが出来始める。



 それに気付いた野盗の一人が、慌てて飛び退いた。



「うわっ!? こいつ漏らしやがったぜ!」

「きったね! 大丈夫なのか? この女……」



「うう……」



 散々なことを言われティアナは泣き崩れてしまった。



 ルークに何かされて以来、彼女はちょっとした感情の変化で漏らしてしまうような体になってしまったらしい。



 ゲイツは呆然と立ち尽くしながら思う。



 ――俺達は確かに上級パーティー、蒼の幻狼だったはずだ……なのに、どうしてこんな事になってしまったんだ……。



 ただひたすら、嘆くのだった。

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