第35話 ポイント
俺は片手に
一本だけ伸びたそれが人形の表面を突き抜け、内部に浸透して行く。
さあ、使えそうな知識を俺に与えてくれ。
そう願った矢先だった。
[ポイントを消費して魔導書を閲覧しますか?]
頭の中にそんな文字が浮かび上がった。
糸を通して俺の頭の中に直接尋ねられているような感覚だ。
なんだ、これは……。
ポイントって……何のことだ?
とにかく言えることは、魔導書はそう易々と読ませてはくれないということだ。
初回だけがサービスだったってわけか。
この言葉の意味をそのまま捉えるなら、ポイントを消費すれば魔導書を読めるということ。
問題はそのポイントが何なのかが分からないことだ。
俺のステータスにポイントの項目などなかったし、それに関するもので思い当たる節も無い。
ただ、閲覧するか否かを尋ねられているということは、違った見方をすれば俺の判断次第で閲覧が可能であるとも取れる。
事態は切迫しているし……他に良い案は思い浮かばない。
ポイントが如何なるものかは不明だが……やってみるか……?
俺は糸に意志を伝えた。
[はい]と。
すると、先ほどと違う文字が頭に浮かび上がる。
[ポイントを消費しました。適切な魔導書を開示します]
そう言われた途端――、
「うっ……」
あの時と同じ、俺の中に膨大な知識が流入してくるのを感じる。
だがそれは、ほんの一瞬だった。
我に返ると、手の中には普段と変わらぬ黒ウサギの人形がある。
今ので……何か得ることが出来たのか?
すぐさまステータスを確認してみる。
〈ステータス〉
[名前]ルーク・ハインダー
[冒険者ランク]F
[アクティブスキル]
裁縫 Lv.10(強度+2 長さ+1)
構造解析糸 Lv.3
構造改変糸 Lv.3
無体物縫製 LV.1 NEW!
[パッシブスキル]
影縫い Lv.2
「!」
増えてる。
無体物縫製というスキルが。
魔導書の内容自体を選ぶことは出来なかったが、ともかくスキルは増やすことに成功した。
無体物縫製……。
無体物ということは……光や空気、水など、これといって形の無いものの事だろう。
それを縫製――縫うことが出来るということだろうか?
能力を試してみる前に他に変わった所はないか確かめる。
すると……ある場所に目が止まり、唖然としてしまった。
影縫いのレベルが……下がってる!?
確か
それが急にレベルダウンだなんて……。
思い当たるものといえば……。
「……!」
まさか……これがポイント消費ってことなのか!?
このタイミングでのレベルダウン。可能性としてはかなり高い。
レベルを消費して、魔導書を閲覧……そういう仕組みなのか……。
しかし、レベルが下がったということは……。
気になってすぐに糸を放ってみた。
試しに近くを飛んでいた蝶の影を縫ってみる。
すると、蝶はハラリと地面に落ちた。
糸を解いてやると再び飛び始める。
影を縫う力は無くなっていない。
恐らく不可視効果も失っていないだろう。
そもそもそれらはレベル2までに修得した能力だ。
レベル3は何が変わったのか分からずじまいだったが、何かを失った可能性がある。
ともかく、今まで通りの能力を保持出来ていて安心した。
これからは魔導書閲覧は慎重に行わないといけないな。
では、改めて無体物縫製のスキルを試してみよう。
対象はどこにでもありふれている目の前にある空気だ。
俺は
だが、見た目は何も変わっていない。
空気を縛ったのだから当然と言えば当然なのだが、これではちゃんと能力が発揮出来ているのか不確かだ。
とりあえず、縛った空気の中に手を入れてみる。
すると、違いがなんとなく分かった。
そこだけ不自然に空気が動いていないというか、周りには風が吹いているのに、そこだけは無風だった。
縫製というくらいなので、その空間を縫い上げると、糸を外しても空気の流れは止まったままだった。
なるほど、ちゃんと出来てるようだが……使い道がいまいち思い付かないな……。
だが、無体物というくらいだから、もしかしたら雷や熱、はたまた音や匂いまで縫えるかもしれない。
それだけで可能性は広がりそうなのだが……。
このスキルを今の俺達が置かれた状況にどう活用出来るだろうか?
そう考えた所ですぐに閃いた。
「そうか……!」
空間が縫えるなら、あのニブルゲイトも縫えるかもしれない。
早速、俺はその計画をエーリックに話した。
だが裁縫能力のことは伏せて、あのニヴルゲイトを閉じる手段があるとだけ伝えたのだ。
「本当にそんな事が出来るのか……?」
「ああ、信じられないのは当然だと思うが、今の俺達に出来るのはそれくらいしかない」
「……」
「どのみち、あのゲイトをこのまま放って置いたら、周辺の町へ被害が拡大して行くだけだ。今、この時に閉じておくべきだと思う」
「……」
彼はしばらく黙っていたが、心が決まったようだった。
「分かった、ルークの案に賭けてみるとしよう」
「その際に一つ頼みたいことが」
「なんだ?」
「俺がゲイトを閉じている間、見張りの
「なるほど、それは結構な大役だ。それでは蒼の幻狼の方々にも活躍してもらわないとな」
振られた側の彼らは浮かない顔をしていた。
特にラルクは呆れたように言ってくる。
「おいおい、本当にそんな案に乗っていいのか? どうせいつものお裁縫でなんとかしようって言うんだろ?」
「お裁縫……?」
エーリックはその単語に首を傾げた。
「そんな事で死んじまったら元も子もない」
そう吐き捨てたラルクに俺はこう告げる。
「なら、お前達はこの森にずっと閉じ籠もっていればいい。この作戦は俺とアリシア、そしてエーリックの三人で行う」
「……」
ラルクは面白く無さそうな顔を浮かべていた。
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