第5話 お母さんの病気

「今日はもう遅い。うちに泊まっていきなされ」


夕飯を食べた後、ハサンさんに勧められた。


「夕飯を頂いた上に、そんな、ご迷惑じゃないですか?」


「マモルおにいさん、泊まっていかないの?」


ミミに、上目遣いで聞かれる。


「ん?う~ん・・」


「遠慮なさらず、どうぞゆっくりしてくださいな。ミミもお世話になったのだし」


ハンナさんからも言われる。


「そ、そうですね。じゃあ、お言葉に甘えようかな」


「やったー!」


ミミが、小さなこぶしを上げる。


「・・ミミ・・そんな大きな声を出してどうしたの?」


すると、奥の部屋から女の人の声が聞こえた。


「あ!お母さん起きた!!」


ミミは目を輝かせると、奥の部屋へ走り出した。


「・・お母さん、具合はどう?」


「・・少し寝たらだいぶ気分がいいわ。それにしても、そんなにはしゃいじゃってどうしたの?」


奥の部屋からは、母娘の会話が漏れ聞こえてくる。


「・・そうなの、じゃあお礼を言わないとね。そのおにいさんを呼んできてくれる?」


「うん!」


タタタタた!


「マモルおにいさん!お母さんが会いたいって!!」


居間に戻ってきたミミが、俺のところに来て手を引っ張る。


「え?わ、わかったから引っ張らないでくれるか?」


俺は戸惑いながらも、椅子から立ち上がった。


「あの・・よろしいんですか?」


そして、ハサンさんとハンナさんの方を見て確認する。


「「ええ、どうぞ会ってやってくだされ(いな)」」


二人が笑顔でうなずく。


俺がミミに引っ張られながら奥の部屋に入ると、ベッドの上に女の人がいた。


女の人は上半身を起こして、肩からカーデガンのようなものを羽織っている。


髪の毛の色は亜麻色で肩まであり、色白で頬と耳たぶだけが桜色に染まっている。


クリクリっとした大きめな目が、ミミにそっくりだった。


「ど、どうも・・はじめまして、マモルといいます」


俺はあんまりズカズカと近くに行くのもあれかと思い、部屋に入ってすぐのところに立ち止まり、頭を下げた。


「はじめまして、ミミの母親のミーナと申します。この度は、ミミが大変お世話になったようで、本当にありがとうございました」


ミーナさんは、俺の顔を見るとふわりと微笑んで、小さく頭を下げた。


「マモルおにいさん、そんなとこに立ってないで、こっちに座って!」


ミミが、ベッドのそばの丸椅子をペシペシと叩く。


ミーナさんも、笑ってうなずく。


「あ、ああ」


俺はおずおずといった感じで、ベッドに近づき椅子に座った。


「黒髪に黒目・・ノーザン王国ではあまり見かけない・・イーサン皇国のご出身ですか?」


ミーナさんが、首を少し傾けて聞いてきた。


ノーザン王国?イーサン皇国?・・なんだそれ?


よく分かんないけど。


「え、ええ。と言いますか、もっとずっと遠くの・・東の方といいますか・・」


「まあ!それでは東島の?」


東島?


「まあ、そんなところです。ハハハ・・」


よく分かんないけど、あまり追求されないようにしとこう。


「そういえば、お身体の具合はいかがですか?」


「はい、今は気分も安定しています。でも、まだ熱はあるようで・・」


確かに、頬と耳が少し赤いな。


「風邪をひいたとか?」


「ええ、もう十日になるのに、なかなか熱もひかず時折、咳も止まらなくなるのです・・」


「お母さん、ご飯もあんまり食べないんだよ」


ミミが心配そうな顔で、俺のことを見る。


「喉が痛くて、食欲も湧かないのです」


「それは良くありませんね。体力も抵抗力も落ちてしまいますし。お医者さんとか、お薬とかはどうしているんですか?」


「医者というものは良く分かりませんが、このような田舎の村には治療師様もおりませんのじゃ」


いつの間にか、部屋にいたハサンさんが、白い眉毛を下げて言った。


「薬は?」


「今日ミミが採りに行った薬草はありますのじゃが、ポーションほどは効かないしのお・・」


ポーション?そういうのがあるのか。


じゃあ、それを使えばいいのに・・。


「じゃあなんで、ポーションを使わないんですか?」


「なにをおっしゃる!ポーションなんて、あんな高価なものを使えるわけがなかろうて」


「そ、それもそうですね」


高価って、どんだけ高いんだろ?


「じゃから、庶民はこうして地道に寝て治すしかないのじゃ」


ハサンさんの言葉に、4人が顔を伏せる。



・・・どうにかしてあげたいな。




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