第16話 次元の魔王について

 南高の朱雀は、『次元の魔王』について物々しい表情で語り始めた。

「やつは襟戸高校の生徒だ」

 襟戸高校は、魔法都市で最難関の魔法学校である。当然、魔法都市のエリートが集まっているから、プラチナの生徒がいてもおかしくはない。

「そして、やつは『次元魔法』が使える」

「次元魔法? ふーん」

 次郎は感心したように鼻を鳴らす。次元魔法は、魔法使いの約0.1割しか使えないとても珍しい魔法だ。それが使えるということは、やはりプラチナに値するだけはあると思う。

「あとは、性格が悪い」

「性格が悪い?」

「ああ。ゴールド以下の魔法使いを見下し、ゴミのように扱う。学校では、ゴールドの生徒を椅子にしたり、シルバーの生徒を意味もなくぼこぼこにしたり、やりたい放題だとか。襟戸高校の教師も手を焼いていると聞く」

「へぇ。いじめっ子っなんですね」

「いじめっ子なんて生易しいものじゃない。奴は悪魔だ。かくいう俺も、一年前、ゴールドに昇格したとき、奴と戦ったんだが、右腕と左足を折られた挙句、その場で頭の髪を刈られて、坊主にさせられた。あいつは、マジで頭がおかしい」

 当時のことを思い出したのか、南高の朱雀は青白い顔になって、ぶるっと震えた。

「ふぅん」

 他人をいたぶって喜ぶ。確かに、性格はかなり悪そうだ。しかし次郎にとって、相手の性格なんて関係ない。大事なのは、彼と戦うことだ。

「それで、彼とはどこで会えるんですか?」

「襟戸高校に行けば会えるんじゃないか? ああ、でも、最近は学校にもほとんど来ていないと聞いたな」

「写真とかあるんですか?」

「これだ」

 南高の朱雀が画面を見せる。そこには、金髪の少年が映っていた。この世に対し、反抗的な意思を持つ目つきだった。

「なるほど。ありがとうございます」

「まぁ、なんだ。奴はとんでもなく強い。お前も勝てるかわからないくらいに」

「……だといいんですけど」

 そのとき、次郎のスマホが鳴った。恵麻からだ。帰りの遅い妹を心配しているようだった。

「あ、すみません。俺はそろそろ、この辺で」

「ああ、頑張れよ」

「はい」

 次郎は淡々とした表情で、真奈のもとへ戻る。満面の笑みを浮かべた不良たちが次郎を迎える。

「さすがだな」

「これで奴らも俺たちのことを馬鹿にできねぇなあ」

「あ、はい」

 不良たちに声をかけられるが、次郎は適当に返事して、真奈に話しかける。

「お姉さんが心配しているみたいだし、帰ろうか」

「あ、はい!」

「んじゃ、俺たちはこれで」

 次郎は不良たちに軽く会釈して、そそくさとその場を離れた。真奈が、また変な輩に絡まれないように、喫茶店まで彼女を送ることにした。

「あの、これ」と真奈に筆記用具を渡される。

「ありがとう。ごめんね。俺のせいで」

「あ、いえ、大丈夫です。それより! お強いんですね!」

「まぁ、そうみたいだね」

「そうみたい?」

「俺、実力試験とか受けていないから、俺の実力がどんなものかよく知らないんだけど、ただ、ゴールドを倒すだけの力はあるみたい」

「へぇ。でも、絶対にプラチナ以上の実力がありますよ! お姉ちゃんと一緒だ!」

「……恵麻さん。プラチナなの?」

 あっさりと知ってしまった。

「え、あ、知らなかったんですか?」

「まぁ、何となく、そんな予感はしていたけど」

「やばい。そうとは知らず、話しちゃった……」

 顔が青くなる真奈。恵麻にかなり怒られるようだ。だから、次郎は苦笑する。

「大丈夫。知らないふりをしておくから」

「……すみません。それで、さっき、『次元の魔王』がどうのこうのって聞こえたんですが」

「ああ。その『次元の魔王』と戦ってみようかなって」

「どうしてですか? 相手は、現在、最強の魔法使いですよ?」

「どうして? そうだなぁ。氷室さんのことを知りたいと思ったからな」

「えっ、お姉ちゃんのことを?」

 にやっと笑った真奈を見て、次郎は失言に気づく。

「まぁ、知りたいといっても、あれだよ? プラチナって知らなかったからさ、プラチナがどんなものかを知りたい的な」

「ふぅん。なるほど」

「絶対にわかっていないだろ……」

 にやついた顔が、すべてを物語っている。

「でも、そうか。お姉ちゃんのことを知りたい紅さんが、『次元の魔王』と戦うのか……。これはもう、運命ですね」

「なんで?」

「だって、『次元の魔王』はお姉ちゃんの元友達だったから」

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