第14話 アフロ
「あ、ごめん。待たせた?」
次郎が話しかけると、真奈の顔に驚きの色が広がった。
(何であなたが驚くんですかねぇ)
呆れる次郎。そんな次郎を不良たちがにらんだ。昨日の不良たちとはべつの学校だ。
「何だてめぇ!?」と反りこみの入った不良A’が唾を飛ばす。
「その子の知り合いですけど。ね?」
「あ、はい。そうです! いやぁ、待ちましたよ」
真奈は不良たちの間を抜け、次郎の横に立つ。その顔には笑みがあった。
(これが光の住人か)
真奈の素直な態度に、次郎は胸が熱くなった。
「ということなんで」
次郎は真奈を連れてさっさとその場を離れようとする。しかし、「ちょっと待てよ」と不良A’に肩をつかまれる。
「何ですか?」
「知り合いだか、なんだか知らねぇけどよ。痛い目を見たくなかったら、引っ込んでろ」
「と言われてもしてもねぇ。彼女も嫌がっているみたいですし。ねぇ?」
「えぇ、まぁ」と真奈は頷く。
「ほら、彼女もこう言ってますし……」
「どうしたんだ、お前ら」
そのとき、下駄の音がして、次郎たちのもとへ歩み寄る気配があった。学ランを羽織り、下駄をはいたアフロの大男である。時代錯誤な格好に、次郎は言葉を失う。
「兄貴!!」
不良たちが声を上げる。彼らのボス的存在らしい。確かに、それだけの存在感はある。
「こいつが俺たちのナンパを邪魔するんです!」
不良A’に指をさされ、次郎は眉をひそめる。
「人助けをしただけですけど」
「なるほどねぇ」とアフロは次郎の後ろに控える真奈を見て、目を細めた。「ほぅ。確かに、声をかけたくなる可愛い子がいるな。よし、皆でカラオケに行くか!」
「おお、いいね!」
「兄貴、ナイス!」
盛り上がる不良たちに、次郎は冷めた視線を送る。
「嫌です」
いきなり会った見ず知らずの人とカラオケに行くとか、拷問以外の何物でもない。
「あぁん?」
「ノリが悪いな」
と不良たちはさげすむが、カラオケに行くよりも馬鹿にされる方がましだった。
「まぁ、そういわずに、一緒に楽しもうや」
アフロがにこやかな顔で近づいてくる。しかし、その目の奥は笑っていない。
「そうだぞ」と不良A’がにやつく。「兄貴の提案には従っておいた方が良い」
「……何でですか?」
「今日は暑いなぁ」とアフロがわざとらしく学ランをはためかせる。そこで次郎は気づいた。アフロの胸ポケットに、ゴールドの称号があることに。
「あの人、ゴールドランクです」と真奈が息をのむ。
「お? 気づいちまったか? かぁ、やっぱり、俺のあふれ出る才能はばれてしまうか」
アフロは自慢げに語るが、次郎は面倒くさそうに首の後ろを撫でた。正直、ゴールドは怖くない。
そのとき、「てめぇら、ここで何をしている!」と声がした。新たな不良集団が現れた。次郎はその顔に見覚えがあった。北高の不良AとBである。不良AとBは不良集団にガンを飛ばしながら、ゆっくり近づいてくる。
「ここは、南高の奴らが来ていいところじゃねぇぞ」と不良A。
「ぷぷっ」と不良A’が笑う。「只校(次郎の高校)に乗り込んで、返り討ちにあった雑魚の北高が何か言っているよ」
「あぁん?」
「あ、お前は」と不良Bはアフロを認め、狼狽する。「南高の朱雀!」
にやっとアフロは笑った。
「くくくっ、今日はあのクサダサリーゼント野郎はいねぇのか? あいつは只校の奴に負けたらしいな。俺が慰めてやろうと思ってよ。ああでも、そうか、今はママに泣きついているのか」
「ぐっ」と不良AとBは悔しそうに奥歯をかんだ。両者の間には因縁があるらしい。面倒なことになりそうだと思い、次郎はフェードアウトしようとした。が、不良Aが次郎に気づき、「あぁ!」と声を上げる。
「て、てめぇ」
「……どうも」
次郎は控えめに頭を下げる。
驚いていた不良AとBだったが、何かを確信したように口元をほころばせた。
「そうか。お前は、今から、南高の朱雀をボコるところだったんだな」と不良A。
「いや、そんなつもりはないですけど」
「お前からしたら、南高の朱雀も赤子みたいなものだからな」
「いや、だから」
「ほぅ」とアフロは目を細める。「ずいぶんな自信だな」
「当たり前だろ」と不良Aが答える。「こいつこそ、玄ちゃんを倒した張本人なのだから」
「南高の朱雀も楽勝だよ。な?」
「いや、あの、俺の話聞いています?」
「ほぅ。面白い。なら、上等じゃねぇか。その喧嘩、買ってやるよ」
「えぇ……」
こうして次郎は、なぜか、南高の朱雀と戦うことになったのである。
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