第39話 子供達救出
俺は冒険者ギルドで聞いた森へやって来た。
森の外にはリック達の姿は無い。
……森の中か更にその先、ゴブリンの住処まで行ったんだろうか。
むしろその可能性は高そうだ。
山側の森の中は段差が大きい。
草に隠れている崖も有る、それよりも山側の崖の一部に洞窟があるという話しだった。
その洞窟からゴブリンが出てくるらしい。
恐らくリック達はそこにいるか、洞窟の中に入った可能性は高い。
俺は草だらけの歩き難い不整地を、崖の方面に苦労しながら進んで行く。
山側に近づくと地肌が顕になった崖が見えてくる。
所々岩が突き出ていたり、凹凸の岩肌や草で隠されがちになっている洞窟を見つける事が出来た。
「洞窟の前にいないとすれば、やはり中に入ったか」
舌打ちしながらも洞窟探索に俺は挑む事にする。
……しまったな、紐や松明の準備が無い。
暗い洞窟の中に入っていくのに明りは必需品なのは誰でも解るだろう。
紐も移動経路を迷わない為にも必要になる。
脱出の為に振り向いただけで、景色は意外なほど様相を変える。
おかしな方向に入っていって迷う危険性だってある、それを避けるためにも紐は必要だ。
「明りは仕方ないか、小さく火魔法を使えば何とかなるだろう」
入って行く道順は石を拾って、壁に印をつけて目印にしていく。
段差を乗り越え、小さい穴には這って進む。
狭い穴を抜けると広い空間に出た。
案の定、この広い場所に多くのゴブリンが密集し騒ぎ立てている。
ゴブリンの向こう、壁側が明るくなっているから、誰かが松明を灯しているのが解る。
こんな所にいるんだから、リック達に違いないだろう。
リック達は危惧していた通り、多数のゴブリンに囲まれ、逃げられなくなっている様子。
正にモンスターハウス状態だ。
そんな中に剣を持って飛び込めば、自分まで囲まれて身動きが出来なくなるだろう。
そんな状態になるのが一番危険だ、ゴブリンに嬲り殺しにされる。
広範囲攻撃に炎は有効だけど、洞窟内で考えなしに使うのはヤバイ。
閉鎖空間で炎魔法なんて使ったら、酸素を燃やし尽くし命に係わる。
……先ずは
「
ガガガガガガガガ!!!
前方全方位に
ゴブリンの壁が薄くなった頃、剣を抜き斬り崩しに掛かる。
ここでも囲まれ、疲弊したらたちまち危険な状態に追い込まれるから注意が必要だ。
血路を開いた先、壁際にリック達が追い込まれていた。
「コスタノ!」
「待ってろ、直ぐに行く」
やっとリック達に追い付いたか。
三人は囲まれつつも必死の応戦で持ち堪えていたようだ。
それでも体力的な問題で、救出が遅れたら危ない所だった。
「コスタノ、ごめん」
「僕達を助けに来てくれたんだ」
「今は良い、気を抜くな」
振り向くとゴブリンの数は増え始めている。
どうやら、奥から増援が湧き出してくるようだ。
一気に数を減らさなければ、逃げ道を塞がれ危険な状態に追い込まれるだろう。
……どうする、どうやって一気に数を削れば良い。
俺は電撃の魔法剣を思い出した。
放電の乱射なら、仕損じても感電する奴が沢山いるだろうな。
「コスタノ……」
「皆、俺の後ろに隠れろ、魔法剣を使う」
「魔法剣だって!」
驚くリック達。
俺は魔法で剣に電流を溜めて行く。
やがてパリパリと放電が始まった。
放電する剣を横薙ぎにしながら遠くまで放電した。
バシシシシーーーンン!!!
洞窟内は紫電の光が迸り洞窟内に、在り得ないほど強い光を齎した。
小型の雷のような電気の軌跡はゴブリンの群れを直撃し、感電させ、内部から焼いて行く。
肉や毛髪の焼ける嫌な臭いが煙とともに立ち込める。
今いる洞窟内のゴブリンの群れは一瞬で一掃出来た。
「皆、今だ、逃げるぞ」
倒れているゴブリン達を踏みつけながら出口に向って走る。
「穴が小さいから一人づつしか行けないよ」
「良いから早く行け、後が支えてるんだ」
「いて! 頭打った」
リック達を先に通し、俺は倒れ臥しているゴブリンに魔法で火を放つ。
燃えるゴブリンでしばらく追手は追い付かないだろう。
俺も続いて小さな穴を這って出る。
一行は入り口直ぐの空洞に出た。
「コスタノ、助けに来てくれて有難う」
「コスタノは魔法まで使えたんだ」
「魔法剣なんて始めて見たよ」
「安心するのはまだだ」
俺は土魔法で這い出してきた穴を塞ぐ。
「ゴブリンを焼く炎で中が酸欠状態になれば良いけど」
洞窟の中が酸欠状態になれば、魔物とて生きていられないだろう。
後日、下手に冒険者が入り込まなければ良いけど。
そのためにも入り口を土魔法で塞いだんだ。
初めて見た魔法に言葉が出ないリック達。
「はあ、リック達が助かって良かったよ」
洞窟から無事脱出して、新鮮な空気を吸って一心地つけた。
「コスタノは魔法まで使えるんだ」
「そんな事初めて知った」
「俺達にも魔法、教えておくれよぅ」
「勝手に冒険に出るような奴には教えられないよ」
教えても出来ないだろうけど。
申し訳無さと、俺の言葉に愕然となるリック達。
中には泣きそうな顔をしているユーイがいる。
実力の違いを目の前で見せ付けられて、思い知った事だろう。
「ああ、言っておくけど、俺が魔法を使う事も、魔法剣の事も秘密だからな」
噂の一つでも捜索者の耳に入ったらお終いだ。
短くて残念だけど、この街も潮時なのかも知れない。
「解ったよ、親分」
「兄貴とぼくは呼びたいです」
「もう命の恩人に逆らいません」
「何なんだ、親分とか兄貴ってのはよ」
この時以来、リック達は俺の子分のようになってしまった。
商工会長の更なる怒りを買わなければ良いけど。
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