第26変 応援戦隊フードレンジャー

 時計を見る。応援団の練習まで、まだ三十分以上もあった。この時間は何をしようかと考えていると、荷物を持った久保が近づいてくる。


「それでは裕様、練習頑張ってください」

「ああ。気をつけて帰れよ」

「はい。裕様と一緒に帰れないのは残念ですが、裕様の応援団で活躍する姿を楽しみにしています。それでは失礼します」


 久保は一礼し、教室から出て行った。

 ……何か焦ってたように見えたが、気のせいか?


「流石だよ、花織。まるで風のように早い……。でも僕はすぐに花織に追いついてみせるさ」


 なるほど、これのせいか。


「裕、君なら素晴らしいスターになれるさ。なんだって、裕だからね」


 そう言い、晴翔は教室から出て行った。教室は次第に誰もいなくなり、ついには俺一人となる。

 そういえば、小倉さんはどこにいるんだ?


「なに、キョロキョロしてるの」

「ひっ」


 急に話しかけられ、つい驚いてしまう。その反動で変な声を上げてしまった。


「……そろそろ行くわよ」

「は、はい」


 俺は席を立つ。


「あ。ねえ、ちょっと職員室に寄ってもいいかしら? まだ課題を提出してないのよ」

「課題? あ」


 急いで机の中を漁る。そこから一枚のプリントを取り出した。プリントは驚くほど真っ白だ。

 ……完全に忘れていた。


「あの、この課題の期限って今日までですよね……?」

「そうだけど。って、あんた、まさか」

「そ、そのまさかです」


 俺は鞄から筆箱を取り出し、急いで課題に取りかかる。集合時間まであと十五分だ。


「何やってるのよ!」

「す、すみません」

「口じゃなくて手を動かす!」

「す、すみません!」


 全力で問題を解いているが、全然終わらない。


「その、まだ終わりそうにないので、先に行っててください。待ってもらうのは申し訳ないので……」


 そう言うと、小倉さんは時計を見る。


「そうね。そうさせてもらうわ」


 小倉さんは席を立ち、教室から出ようとする。俺はその姿を見た後、プリントに目を向ける。

 問題を解いていると途中で手が止まった。

 やばい、ここは俺が苦手なところだ。これ、どうやって解けばいいんだ?


「……そこはこの公式に当てはめればいいだけよ。分からないなら、教科書を見なさい」


 目の前に、既に行ったはずの小倉さんが立っていた。


「苦手なんでしょ? あんた一人だと時間がかかりそうだから、特別に私が教えてあげるわ。だから早く終わらせなさい」

「ありがとうございます……」


 数十分後、小倉さんの教えもあり、なんとか課題を終わらすことができた。

 急いで先生に課題を提出し、集合場所に向かって走る。集合時間はすでに十分もオーバーしていた。


「もっと早く走れないの? ほら、足を止めない! こうなったのは誰のせいなの!?」

「す、すみません」


 息切れしながら、小倉さんに謝る。

 

「あんたがちゃんと課題終わらせてたら、こうはなってなかったんだから!」

「す、すみません!」


 何かさっきもこんなやり取りしたような……。

 そう考えながら走っていると、やっと集合場所に着く。


「すみません。遅れました」


 俺は肩で呼吸をしながら、扉を開けた。

 その瞬間、教室中に戦隊モノの音楽が鳴り響く。それと同時にマントをつけた人がたくさん飛び出してきた。


「みんな、油断してはならない! 彼らは本当に最後のヒーローなのか……。おい、君」


 大柄でいかつく、赤いマントをつけた人が俺に話しかけてくる。

 何なんだ。普通に怖い。


「は、はい」

「君の名前、好きな食べ物、好きな言葉を言ってくれ」

「え?」


 言うのを渋っていると、鋭い目で睨まれる。

 怖っ!


「え、えっと、洲本裕です。好きな食べ物は、あ、アップルパイです。好きな言葉は……『何とかなる』?」

「洲本裕……」


 その人は名簿帳らしきものを見て、何かを確認している。


「洲本裕だな。よし、君はヒーローのようだ。よろしくな、アップルブルー」

「アップル、ブルー?」

「ここでの名前だ。さて、次は君の番だ」


 よく分からないまま何かが進んでいく。

 大丈夫か、小倉さん。


「……小倉志乃です。好きな食べ物は、甘いものなら何でも好きです。えっと、好きな言葉は『諦めない』です。みなさん、よろしくお願いします」


 完璧な自己紹介だった。


「君は小倉志乃だな。君もヒーローだ。スイートホワイト、よろしくな」

「は、はい」

「それでは、次は俺たちが紹介する番だ」


 赤いマントの人の横に、他の人がぞろぞろと並ぶ。そして謎の自己紹介みたいなものが始まった。


「まず、俺は3年2組のミートレッドだ」

「私は同じく、3年2組のヨーグリーン」

「あーしは3年2組のタピオカシアン! よろー」


「ぼ、僕は3年、ごごご、5組の、のりブラウンです」

「うちは3年5組のあまざけバイオレットや」

「……俺? ……ジュース、オレンジ」


「俺様は天下に輝く2年1組の田中智、じゃなかった……ラーメンゴールドだ」

「うーす、2の1のあんぱんシルバーっす」


「俺は2年5組のおでんイエロー。よろしくな」

「えっと、2年5組、かぼちゃブラックです」


「1の3、ハンバーグレー。ほら、次、いっちゃんだよ」

「いっちゃんじゃないもん! えっと吾は暗黒に浮かぶ黄泉の魂。漆黒の、えーと、マシュマロピンク!」


 何なんだ、これは。見た感じ、2年5組以外は癖が強い、というか変な人ばかりだ。いや、こんなことやるっていうことは変な人なんだろうな……。


「そしてここに、アップルブルーとスイートホワイトが加わる」


 ミートレッドがそう言うと、他のみんなにじっと見られる。

 ……まさか、あれをやれって言うんじゃないよな。


「おい、早くやらんか」


 合ってた。


「1年4組のあ、アップルブルー! ……小倉さんも」

「……1年4組のスイートホワイトです」


 そう言った瞬間、教室中に歓声が湧く。

 

「今日から君たちも応援団の一員だ。よろしくな」

「は、はい」


 何でだろうか、胃が痛くなってきた。

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