俺がライトノベル作家と分かったとたんにあの娘がグイグイくる
もりし
第1話 真由菜に振られる
「ちょっと、何なん? 私、あんたの事なんて、何とも思ってないんやけど……」
「え? でも……」
高校二年の春。俺、片山ユウトは公園に呼び出した
「でもって何なん? 私、忙しいんよ。それに今日はリョータも来るって聞いたから来たんやけど。おらへんやん」
梅本リョータは俺の親友だ。イケメンでスポーツ万能で、クラスの人気者。いわゆるイケテる男子だ。
校則を破って、若干茶色に染めている。
本人いわく、ビールを髪にかけたら脱色できたって話だけど、ホントかね?
普段の登下校もバッシュだし、良いもの履いてる。見た目のあか抜けてる男子、それがリョータという生き物だ。
リョータを狙ってる女子も多かった。そして今の真由菜の発言を聞いて、彼女もその一人だと分かった。
「あんたになんて構ってられへんから。ほんじゃね」
そう言って真由菜は、踵を返して去っていく。
俺はそれを見送ることしかできない。
どんどん小さくなっていく真由菜の後ろ姿をただ目に焼き付けている。
この寂しい景色を俺は忘れる事はないだろう。
「あれぇ? おかしいなぁ。真由菜ってお前に気があると思ったんやけどなぁ」
リョータが公園の隅から顔を出した。
「全然ないやん……お前の口車に乗った自分がアホなだけやった……」
俺はリョータに恨みがましい目を向けた。
「あいつ、よく俺らのグループに顔出すやろ? お前とも良くからむし」
それはリョータがいるグループだからだろう。俺は確かにそのおかげで真由菜と話す機会が増えていた。
「ええわ。何かアホな事やってもうたわ。真由菜の事は忘れるわ」
「そうかぁ。今度、他校の知り合いおるから、遊び行くか?」
「ホンマに?」
「あー、聞いとくわ」
「頼んだわ。楽しみにしとくわ」
そう言って、軽い男を演出していた俺であるが、しっかりと傷ついていたし、未練タラタラであった。
真由菜とは、漫画やアニメ、ライトノベルなどの話が合うし、楽しく付き合えると思ったのだが、やはりリョータの様なイケメンが好きなのだろう。
ちなみに告白したのは、リョータが真由菜は俺に脈があるから大丈夫だと言われての事であった。
何故、そんな台詞を信じたのか。自分でも後悔している。
ようするに俺はアホであると、関西風にいうなら、ノータリンである。
とにかく、こうして俺の高校二年生にして、一大決心したすえの告白イベントは、あっさりと終了した。
自分が世の中の主役で、真由菜がヒロインで、これから俺と真由菜のラブストーリーが始まるんだと、能天気に考えていた俺は、冷や水を浴びせられる結果となったのだが、一つだけ得るものがあった。
どうやら、俺は物語の主人公じゃないらしい。
もう完全なる脇役キャラであるという事を、残念ながら、確信した日でもあった。
◆◆◆
失意のまま自宅に戻り顔を洗う。決して泣いてるからじゃない。本当だ。信じてくれ。
顔をあげると、そこにはなんて事のない、黒髪の童顔男子。
「おっと、メガネ、メガネ」
俺は黒縁のメガネをかけた。自分の容姿を確認する。
「はは、こりゃ、フラれるわ」
俺と真由菜がそもそも釣り合う筈がないのだが、恋は盲目とはよく言ったものである。
織部真由菜は、美少女で可愛いタイプの女子だ。
蠱惑的な容姿でくるりとした瞳が可愛らしい黒髪ツインテイル女子。
まさしく俺の理想的な美少女なのだ。
声優志望で、養成所にも通っているという。その辺りもポイントが高い。今やなりたい職業ランキング上位に上がってくる声優さんだ。
真由菜なら、人気声優になれそうである。
だから、俺は彼女と仲良くなろうと挑戦した事がある。
小説を書いてみたのだ。
【カクヨム】というサイトを知っているだろうか?
俺はカクヨムのアプリで、小説を書いている。
異世界転生モノである。よく素人が投稿している内容ではあるが、俺も例にならってテンプレートなストーリーを書いている。
これがわりと好評で、総合で週間ランキングで十位以内に入った事がある。
今は三十位くらいではあるが、更新すればそれなりにpv数も上がるし、もしかしたら才能あるのかもしれない。
真由菜に振り向いてもらいたくて書いていたのだ。
要するに、カクヨムで小説を書いたら、出版社の目に止まって本が出るのではないかと俺は考えた。
そうすれば、声優を目指している真由菜が、俺に興味を持つはずだと。
何故なら、ライトノベルと言えばアニメになる可能性も高く、作家デビューしたなら真由菜もこんな感じで──
「え? 片山君って、小説出したん?」
「うん。出したでー」
「スゴい! 片山君って何か他の人と違うと思ってた」
「そうなん? じゃあ、今度どっか遊び行かへん?」
「うん。行く行く。わあ、楽しみやなー」
──みたいな妄想をしていた。
人気声優と、人気ライトノベル作家の恋愛。そして、いつかブログか何かで、『僕たち結婚しました』的な! ぐはー! 想像しただけで、嬉しくなってしまう。
要するに、ライトノベル作家としてデビュー出来れば、そうそう邪険にはされないだろうという浅はかで、恋愛経験のない高校生がやりそうな妄想の末、俺は小説を書き始めたのだ。
だが、現実は甘くない。
出版社の目に止まる事もなく、俺は半年間ただ小説を書いているだけであった。
それも当たり前の話なのかもしれない。書いてみて分かったのだが、読む事と書く事は全く違う。
じわじわとpv数を伸ばしているが、妄想通りに上手くいくワケもなかった。
俺は呆気なく真由菜に振られてしまった。
そのため俺は小説を書き続ける理由はなくなってしまった。
だが、今や読者もそれなりにいるし、止めようにも止められない。
真由菜に振られた今日でさえ、俺はスマホをいじって、小説を書いているのだった。
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