第7話 二つ目の試験

 前回クリアした試験の部屋の先、また通路を越えた場所には一つ目の試験と同じ様な部屋が広がっていた。

「物理系職業適性試験2」

 俺はそう宣言する。


 ゴゴゴ……


 試験1と同様に地中から魔獣が現れる。しかし今回はそれだけは無かった。両脇の壁から、剣を持った人型の魔獣が現れたのだ。

 甲冑を全身にまとい、頭の甲冑の隙間からは赤い光を出している。一歩一歩確実にこちらに近づいてはいるが大して速くない。

「三対二かよ」

「あれを倒すと強くなるの?」

「一応そういう事になっているらしい」

「私がいても訓練が始まったみたいだし、魔法で攻撃してあげよっか」

「いや、俺の試験だ。支援してくれるのはありがたいが、あくまで俺の攻撃が中心になるようにしてくれ。まあ、相変わらず武器がないから、勝てるかは怪しいがな」


 俺がそう発言した瞬間、目の前に短刀が落ちてきた。

「これは……?」

 刀身の長さはあの騎士の三分の一程度でまっすぐ伸びた剣だ。だが刀身は完全に綺麗な銀色ではなく一部が茶色く錆びついている。

 これで戦えという事だろうか。

 戦闘において武器が錆びついているというのはあまりよくないはずだ。

「なあ、錆を落とす魔法とかは無いのか?」

 俺は短刀を拾って、アリスに見せる。

「私は知らないよ。王都とか行けばあるのかもしれないけど」

「そうか」

 なら、こいつで戦うしかないよな。


 俺が剣から目を離して魔獣の方を見れば、芋虫型魔獣は同じ場所にとどまっているが、人間型の魔獣はあと少しで間合いの中に入ってきそうになっている。

「悩んでいる訳にもいかないか。……アリスは自分の命を優先してくれ。俺は二匹とやり合ってくる」

「分かった。でも、危ない様だったら助けるから」

「ああ、行ってくる」


 俺は短刀を持ち直して、構え、そのままの姿勢で右側の人型魔獣に飛び込む。

 瞬間的に切り込む。

 キンッ!

 その攻撃ははじかれ、俺は後退。そのまま走って、左側の人型魔獣の後ろに回り込む。

 どうやら、芋虫型魔獣より、いや俺よりも速さは遅いらしい。

「はぁぁ!」

 魔獣がこちらに向く前に首に腕を回し短刀を突き刺す。

 その瞬間、魔獣は脱力して、俺に体重をかけてくる。

「死んだか」

 俺は踵を返して、残りの魔獣に目を向ける。


「『ホーリーアロー』」

 アリスのその一言で、三つの閃光が瞬いて、次の瞬間魔獣の胸元に三つの光の矢が突き刺さっていた。

 そして、魔獣は後ろ向きに倒れる。

「危険だったか?」

 一応俺の試練だったから俺の方に来るかと思ったが、アリスの方に行っていたのか。

「うん、こっちに向かってきていた」

 魔獣は試練対象とかは関係ないのか。

「後一体は俺がやるよ」

 俺は走って、芋虫型魔獣の元に向かう。

 後ろを向いており俺には気付いていないみたいだ。


 俺は短刀を振り上げて、

「キャーー!」


 突如背後から叫び声が聞こえる。

「どうした!」

 振り返ってみれば、殺したはずの二匹の魔獣がアリスの首と内腿に剣を突き立てていた。


 やばい。

 魔獣は殺しきれていなかったという事か。

「キュイー」

「うっ……!」

 更に背後からは芋虫型魔獣の頭突きが背中に当たる。


「アリス、大丈夫か!」

「動かなければ大丈夫みたい!」

 どうする。先に助けるか。でも芋虫型魔獣は動きが速い。助けている間にどちらも死亡なんてことは避けたい。


『残り五秒で我らは攻撃を始める』

 アリスの方からどすの利いた声が聞こえる。

 これはつまりあの魔獣から出されている声という事か。

 でも、これで決まった。アリスを救う。


 地面をけって俺のできる最大の力で走る。

 ザッ、ザッ

 俺と同等の速度で後ろから近づく音が俺の真後ろに来たタイミングにサイドに回避。そのまま、速度を落とさず駆け抜ける。

『残り、三、二、一』

「させるか‼」

 ゼロを言いかけた、瞬間、俺は魔獣にタックルをかまし、両魔獣は体勢を崩し、攻撃するに至らなかった。

「大丈夫だったか?」

「うん、ありがとう!」

 元気な様子で飛び跳ねながら、喜ぶ。


 でも、まだ戦いは終わっていない。


 俺はすぐに、短刀を構え、芋虫型魔獣の魔獣の頭突きを防ぐ。

「がはっ」

 しかし、頭突きの圧力によって俺とその後ろにいたアリスは後方へ飛ばされる。


 忘れていた。この魔獣相手では捕食者でも攻撃を防ぎきれない。

「キュイー」

 何でもいい、何か食べ物がないと。

「アリス、食べ物はあるか」

 立ち上がりながらアリスに質問する。

 しかしその間に魔獣はまじかに近づいており、

 ドンッ!

 今度は俺単体で後方に飛ぶ。

「木の実なら!」

「投げてくれ!」

 そう叫ぶと四つの木の実が宙を舞う。

 それらは上手い事俺の口の中に入る。半ば丸呑みにする。


「ステータス」

 身体能力40、魔法適性40(食料獲得の幸福感により10上昇)と言う文字が書かれた、窓が表示される。


 この前よりも強い。

「さあ、来い」

 魔獣は俺の声に反応したようにまっすぐ向かってくる。

 俺は短刀を構え待ち構え、そして魔獣が間合いに入った時、脳天に思いっきり突き刺した。

「ギュイーー‼」

「死ねー!」

 暴れ続ける魔獣を力で抑え込む。

 俺は剣を掴んだまま魔獣の横に周り、剣を抜き、今度は背中に刺す。さらに大きくなる抵抗を感じながら、剣を引いていき脇腹まで到達したとき、

「はあ!」

 歯を体内で回転させながら抜き放った。

 魔獣はもう動かなくなった。


「騎士は?」

 俺は騎士が体勢を崩したところ見る。

 魔獣は動かなかくなっており、目の赤い光も無くなっていた。


「勝った」

 今回は前回よりも手こずった。

「終わったの?」

「ああ、そういう事だ」


 ※※※


「ステータス、職業変更」

 そう呟くと、宙に窓が表示される。

 窓の中には、最弱奴隷、捕食者、農民戦闘員、騎士、守護騎士の五つが書かれている。


「騎士」

 そう唱えると、身体能力30、魔法適性11、身体能力上限値50、魔法適性上限値50、【特殊能力】鉄製の武器を持つと身体能力値が上昇する、と書かれた窓が、


「守護騎士」

 と唱えると、身体能力30、魔法適性11、身体能力上限値100、魔法適性上限値100、【特殊能力】自身が守りたいと本心から願う対象が視界内にいるとその者のステータスにプラス10した値になる。ただし、上限値を越える事はできない、と書かれた窓が表示された。


 ※※※


「これは、強いな」

「ステータス、いっぱい上がった?」

「ああ、そんなとこだ」

 俺はアリスの満面の笑みに対して、微笑みで返す。

「じゃあ、帰ろう」

 俺はそういう。


 本心から守りたいと思う、か。


 今はそうは思えない。

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