異世界転生なら無職(すっぴん)でも素敵な日常を送れますか?〜無職スタートの冒険勇者は無双の条件をまだ知らない〜
那雪尋
第1話無職でも転生してもいいですか?
カチカチ、カチカチ
もうすぐ夜が明けそうな時間、俺は自宅警備員をしつつ今日も徹夜でレベル上げをしている。
やっているのは今流行りのMMORPG。オンラインの仲間と自由気ままなプレイをすることができるのが人気の理由なのだが、俺が気に入ってるのはそこじゃない。
このゲームは他のMMOに比べてジョブが遥かに多い。最初は下級職から始まるのだが、レベルを上げるにつれて上級職へとジョブチェンジすることができる。そこから更に派生して特殊なジョブになることもできる。
そのやり込み要素の多さに魅力を感じてほぼ毎日徹ゲーをしてジョブのレベルを上げている。手を動かしてないと意識が飛びそうだ。
ジャーンジャジャジャジャーン!
賑やかなファンファーレと共に画面にはレベルマックスの文字が大きく映りこむ。
「これで78個目のカンスト——次はどの職ジョブでやるかな」
まだカンストしてないジョブを探す為にゲーム内のジョブリストを開く。
そこに1つだけどうしてもカンストさせたくないジョブがあった。
「無職はやりたくないんだよなぁ‥‥」
ゲーム内の無職、すっぴんとも呼ばれているジョブは一番弱い職である。武器はどの分野も装備できるが、下級職の武器に限る。上級職でやっと装備できる伝説級の武器が装備出来ないのは辛い。簡単に言うと縛りプレイみたいなもんだ。
なんだよ無職って。自分のことを言われてるようで少し傷つく。
いやいや、俺は無職じゃなくて自宅警備員なんだから大丈夫だ。自分で自分を慰めつつ、俺は画面を閉じた。
「ゲームで無職をやることは一生ないな」
そう言って自分のベットに倒れ込んで眠りにつこうとするが、こういう時に限って喉が乾いてたりする。
ゲームをしてるとなにも感じないのにな。いっそのことゲームみたいな世界に行ってみたいものだ。
なんて妄想をしながら、飲み物を取りにいく為にベットから体を起こして一階へ向かおうとした。
一階の階段を降りようとしたその時、徹ゲーの弊害がここでやってきた。
俺は階段を踏み外して勢いよく転げ落ちた。打ち所が悪かったせいなのか、それとも眠気のせいなのかどちらか分からないまま俺の意識は消えていった。
「ゥタさん‥‥ショウタさん‥‥ショウタさん! 起きて!」
誰かが呼んでる?
目蓋を開けて周りを見ると自分がいる周囲のみ灯りで照らされており、周囲より奥の方は暗くて見ることができない。
前方に振り向き直すと、こちらを覗きこんでいる女の子がいた。
驚かされたが可愛いのは見てすぐに判った。
少し白みがかったブロンド長髪に青い瞳。あまり主張はしてないけれどしっかりある胸。
「あなたは?」
名前の分からない彼女に質問をした。
「私は女神カナと言います。ショウタさん」
落ち着いた様子で自己紹介をする女神。
女神は俺に宣告をした。
「ムトウショウタさん。あなたは階段から転落して死んでしまいました」
死んでしまった。その事実に俺はあまり驚きはしなかった。
「あら? 驚かないのね」
不思議そうな口振りで言われた俺は、返答する為に口を開く。
「そりゃ‥‥あんだけ徹夜でゲームして寝不足の状態で転けたら誰でも死んじゃいますよね‥‥自分でも情けない死に方だと思ってます」
「そうよね。あんなに盛大に転けたら死んじゃうわよね————マヌケよね」
女神はボソッと呟いた。
女神は俺に同情するかのように‥‥‥‥ん? この女神、急に口悪くならなかったか?
俺はじっと女神の顔を見つめると、俺の視線に気付いた女神は軽く咳払いをして話し始める。
「ムトウショウタさん‥‥あなたの21年の月日は短かったでしょう。そんなあなたに質問をします。もし生き返れるとしたらどうしますか?」
「生き返れるんですか?」
女神の質問に驚いた俺は質問に質問で返す。
女神は少しムスッとした顔でこちらを見て、俺の質問に答えた。
「生き返れます! 生き返るための選択肢は2つ。1つ目、もう一度日本で人生をやり直す。日本に生き返るならあなたは1からやり直し。つまり、赤ん坊から人生を始めてもらいます。ただし、もう1つの方はその姿のままで始めることができます」
「もう1つの方って‥‥‥‥?」
少し緊張しながら静かに尋ねる。
すると女神は両手をパチンと合わせてこう言った。
「異世界です! 異世界に行ってもらい、魔王を倒して欲しいのです。現在、魔王は少しずつではありますが着実に侵略への道を歩んでいます。それを止めるための冒険者になって欲しいのです」
彼女から放たれた言葉に俺は驚いた。
それと同時に嬉しさも湧き出る。
異世界って‥‥あの異世界か! ゲームや漫画でしか見ることの出来なかった世界に行けちゃうのか!
「さぁ‥‥どうします?」
「異世界に転生させてください!」
「話が早くて助かるわ! 早速始めるわよ」
急に友達口調になった女神はブツブツと呪文を唱え始める。
「えっ? ちょ‥‥ちょっと待て」
周りに円陣のようなものが現れたので俺は慌てて呪文を止めさせる。
「なぁによぉ。もう少しで唱え終わる所だったのに」
気怠そうに言う女神。最初に会った頃の可愛さはそこには無かった。
「もっとこう——異世界の説明的なものが欲しいんだけど」
「さっき説明したじゃない。魔王が侵略し始めてるって」
「そうだけど! もっと細かく教えてくれよ」
「そんなの向こうに行ったら分かるわよ! 呪文唱えるの疲れるんだから早く終わらせたいの!」
この女神さっきと全然態度が違うぞ。俺との初対面の時は演技だったのか!? ちょっと可愛いと思ったけど損した気分だ‥‥。
色々と諦めた俺は女神の言う通りにすることにした。
女神が呪文を唱えるのを待っていると、女神は何かを思い出したかのように言う。
「忘れる所だった。ショウタ、この中から武器を選びなさい」
女神が指をパチンと鳴らすと武器が俺の周りに現れた。剣や弓、短剣や銃など多分野にわたる武器を見て俺のボルテージは最高潮になった。
「この中から選んで良いのか!?」
「一つだけね。選んだのがあんた専用の武器になるわ」
この女神、実は良い奴なのでは?
なんて事を考えながら俺はどの武器にしようか吟味する。
「雨叢雲剣にエクスカリバー、グングニル! どれも有名な武器ばかり! こんなのすぐに決められないぞ」
「早く決めなさいよーーどれを選んでも最強だから大きな違いはないわよ!」
女神はその様子を少し引いた目で見つつ、迫り立てるように言った。
〜三十分後〜
「決めた! 男なら誰しもが憧れるエクスカリバーを俺は選ぶ!」
力強く告げた声を聞いてカナは目を覚ました。
「ふわぁ。決めたのぉ? じゃあ転生させるわよ」
「まさか寝ていた訳じゃないよな? 俺が必死に選んでいる時に」
そんなこと無いわよ。と言いつつ口元の涎を袖で拭き、カナは改めて告げる。
「ムトウショウタ、あなたを異世界に転生させます。苦難はあると思いますが、あなたの勇気と力で世界を救うことを期待しています」
「ありがとう。女神カナ」
お互い形式的な言葉を言い終え、再び呪文を唱え始めた。すると、円陣から光が全身を包み込んだかと思うと、次は下に落下するような感覚に襲われた。
光の中で頭上の方から微かに女神の声が聞こえた。
「言い忘れてたけど、私も向こうにいくから! ちゃんと探しなさいよー!」
俺はにっこり微笑んでこう答えた。
「そう言う大事なことは先に言えぇぇぇ!」
続く
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