第17話 ふたり、山を下る
部屋に戻って荷物をまとめ、玄関ロビーに降りる。宿泊代を支払うためにフロントに声をかけると、先程の女性が段ボール箱を抱えてロビーまで出てきた。
「これ、息子と娘のですけれど……」
箱の中には雪山用のブーツが2足入っている。僕たちは、何度も礼を言ってそれを履くと、吹雪の中外へ出た。
昼間とは比べ物にならない寒さだったろうが、あまり感じなかった。
僕は使命感に燃えていたし、これから始まる二人きりの大冒険への高揚感が全身を燃やしていたのだ。
地図アプリを開き、目的地を麓のバス停に設定すると、僕たちは出発した。
千歳さんはマフラーに顔を埋め、僕の後をいそいそとついてくる。よし。必ず連れて帰ってやるからな。僕は勇ましく前を歩く。スマートフォンをくるくると回しながら、自分が向かっている方角を確認する。合っている。合っているぞ。僕についてこい、恵梨香。
「あれ?」
15分程歩いた頃だった。現在地のマークが、ルートから大きく外れていることに気付いた。こまめに確認していたつもりだったが、現在地を示す青い点が、思っていた場所とは違う所で光っている。
「おかしい、さっきまではルート上にあったのに」
「大丈夫?」
マフラーの上から覗く目が不安そうにこちらを見ている。
「大丈夫、大丈夫。だと思う……」
僕は画面の雪を手で拭き取り、もう一度現在地を更新した。青い点は動かない。
「おかしいな、曲がる場所を間違えたかもしれない」
これまで辿った道を画面上で戻ると、どうやら本来曲がるべき角の手前で曲がってしまったようだ。
「ごめん、千歳さん、戻ろう」
僕は道を引き返した。俯きながら着いてくる千歳さんの表情は見えない。
今度はじっくりと確認しながら道を選び、現在地も執拗に更新しながら進んだ。合っている。合っている。
合っているが、バスの時間まであと5分を切っていた。
「千歳さん、走れる?バスがもう来ちゃうんだ。走ろう」
僕は返事を待たずに走り出した。だってもう、走らないと間に合わないんだもの。
千歳さんも着いてきてくれたのでとりあえずほっとした。スピードはかなり遅かったが、歩いているよりはましだ。
間に合ってくれ、頼む。頼む。僕は祈りながら走る。
振り返ると、千歳さんは思っているよりも遥か後方にいた。
走っているのか歩いているのか微妙なスピードで、なんとかこちらに向かって来てはいるようだ。
僕は千歳さんを待った。
下り坂で転びやしないかと心配だったし、街灯の少ないこの道では、はぐれたら大変だ。
早く、早く。
心の中で千歳さんを急かす。千歳さんが3メートル程の距離まで近づくのを待って、僕は再び走り出す。千歳さんとの距離はまたみるみると離れていく。また少し待って、見失わない距離まで近づいたら、走る。そんなことを繰り返しながら山道を下った。
前方にオレンジ色の街灯に照らされたバス停が見えた時には、思わず叫んだ。
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