#019 新たなる村長"アルフ"④

「ん~、そろそろ、朝かな?」


 新区の朝は早い。


「うぅ、さむっ!!」


 空が徐々に赤みを帯びてくると、集められた見習い職人たちがゾロゾロと布団から這い出して来る。


 正直なところ、もう少し寝ていたいのだが……それはとある理由からオススメ出来ない。まぁ、睡眠時間は充分すぎるほど取れているので、これ以上寝るのも体に悪いだろう。


 因みに、俺は参加していないが、夜は共用スペースで"ドル"を賭けてちょっとしたレクリエーションが開かれているようだ。Dとは、ドルイドコインの略称で、給金とは別に配布される歩合制の報酬だ。


「お、グラムじゃないか、今日も早いな」

「あぁ、おはよ。それじゃあ」

「お、おぉ」


 かけられた挨拶を適当に流し、まずは温室に水やりに行く。大した作業では無いが、種を発芽させるのには適度な湿り気が重要で、俺は小まめに水を注すようにしている。





「お、グラムじゃないか。今日は、先に並ばせてもらったぜ!」

「あぁ、俺の分は残しておいてくれよ」

「はははっ、まぁ、メニュー次第かな?」


 共有スペースに戻ると、すでに"列"が出来ていた。この列が出来るのは日に日に早まっていき、今では明け方から並ぶ者が出るしまつだ。


「は~ぃ、道をあけてくださ~い。料理が通りま~す」

「「おぉ~~」」


 朝食の登場に歓声が上がる。食事は台車で運び込まれるが、まず目につくのはその品数の多さだ。1つ1つはシンプルな料理だが、肉・魚・野菜と毎回20を超える料理の中から、好きな組み合わせを選ぶ形となる。


 列が出来るのが早くなる理由はココにある。メニューは早い者勝ちで、選べる品数はDを払う事で増やせる。極端な話、最初に並んだ人が人気のメニューを買い占めることも出来るわけだ。まぁ、どれも信じられないほど美味しいので実際にはそこまでの奪い合いは起きないが、それでも自分の好きなもの、まだ食べていないものを食べるために、日に日に列は長くなっていく。





 食後は、そのまま流れで午前の仕事が始まる。当初はいかにサボるか考えていた者もいたが、今ではDを求め、殆どの者が真面目に働いている。いや、むしろ賭け用のDを稼ぐために残業を望む声もあるほどだ。


「よし! 今日も一日、頑張りますか!!」

「うっし。今日は(賭けに)負けねえぞ!」


 とは言え、俺は温室の仕事があるので別行動だ。水やりは済んでいるが、昼には育った苗の引き渡しがあるので、それらの選別と、補充の苗を用意しておく。





「へぇ、このウドンとか言う料理、食いにくいけどなかなか美味いじゃねぇか!」

「そうか? 前に食べたけど、イマイチだったな。それより、俺は断然、オヤコドンだな」

「そっちも美味そうだな」


 昼食は、朝と違って3種類から好きなものを選ぶ形になる。一応、Dを払えば一品追加できるが、基本的に昼は節約して軽めに済ませるのが定番だ。そして空いた時間を昼寝に費やす。俺もやっているが、少しでも仮眠をとると午後の仕事が驚くほどラクになる。


「つかよ、まさか馬で1日で来れるドルイドに、こんなに美味いものが溢れているなんて、知らなかったぜ」

「俺も。しかも、見た事も無い食べ物も多いよな」

「やっぱり農村だから、食べ物が豊富で、新鮮なんだろうな」


 そして午後の仕事は、俺も建築作業に加わる。


 しかし、建築方法もそうだが、こうやって何をするのか、ある程度自由に選べるのは非常に面白いシステムだと思う。現場には子供や女性もいるので、危なくない仕事や力が必要ない仕事は優先的にその人たちに割り当てられるものの、それ以外は結構自由度が高く、自分の体力に合わせてマイペースに働ける。まぁ、サボりは歩合に響くので、D欲しさに殆どの者が意欲的に働いているけど。





「思ったんだけどさ、ルードとドルイドって1日で来れるんだよな?」

「何を今更」


 夕方、再度温室で苗の状況を見た後、ようやく仕事から解放される。そして皆が足早に向かうのが共用スペースだ。ここでは、働きぶりに合わせてDが毎日配布される。まぁ、喧嘩になるので実際に配布されるDの差は、3段階しかないそうだが……それはさて置き、その後はお待ちかねの夕食だ。


「いいから、まずは乾杯だ!」

「「かんぱ~~ぃ!!」」


 夕食は、朝・昼とはまた一風違った形式となる。料理は基本大皿料理で最初からテーブルに並べられており、それを好きにとってその場で食べるなり、部屋に持ち帰って食べるなり出来る。早い者勝ちなのは朝食も同じだが、当然この場でそんな事をすれば命の保証(比喩)は無い。お互いが譲り合い、共に夕食を楽しむ。


「くぅぅ~~~、美味い!!」

「メシは美味いし、酒も美味い。おまけに仕事もラクだから、ドルイドは天国だよな」

「仕事は一時的なものだけどな。それに、ルードも景気がよかった頃は、多分こんな感じだったんだぜ?」

「そうかもな」


 いや、俺は混ざらないけど……夕食の場ではDを使って酒が購入できるので、基本的には食事よりも酒盛りがメイン。そしてそのままDを賭けてレクリエーションが開かれるわけだ。


「それで話は戻るけど、1日で来れるなら、ルードでもコノ料理を売りだせば、儲かるんじゃね?」

「コレがルードでも食べられるなら、それはウケるだろうな」

「いやいや、そんな簡単にいくかよ。確かに珍しい料理は多いけど、見慣れた料理も普通に美味い。違うのは料理じゃなくて、シェフの腕だろ?」


 部屋で夕食を食べた後は、川沿いにある露天風呂に入る。風呂を利用するのにもDが必要になるので敬遠するヤツは多いが、慣れてしまえば欠かせない。これはシェフに聞いた話だが、実は一番金がかかっているのは風呂なんだとか。


「それはそうかもだけど、別にシェフが魔法で料理を作っているわけじゃないんだ。だったらさ、弟子入りでもして覚えちまえば済む話だろ?」

「「たしかに……」」


 風呂を出た後は、体が冷える前に布団に潜り込み、ぐっすり眠る。




 これが、早くも気に入ってドルイドに留まりたくなっている、俺の1日の流れとなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る