第38話 高2で中退、最後の1年は通信制で

 高丸君がD高等学院に入学した年、私は、備作教研でもう一人の生徒を受け持つこととなった。光原拓雄君はこの春、商業高校を2年修了と同時に「転入」という名の「退学」をした。しかし、大学に何とか進みたいということで、備作教研に来た。とびぬけた学力があるというわけではないが、基礎学力はおおむねしっかりしていた。

 国公立大学や難関私立大学などは無理にしても、どの大学も厳しいというほどではない。

 1年あれば、現役で行ける大学はある。本人は、経営学を学びたいと言っている。

 

 彼は早速、国語と英語を学び始めた。

 私立文系学部の受験では、数学を受験すると有利になるところが多いが、あいにく苦手だとのこと。商業高校出身とはいえ、簿記もそれほど得意というわけではない。ただ、最近の私立文系学部の中には、2教科で受験できるところも多い。ならば、英語と国語をしっかりとやればいいというわけで、私と同学年の男性教師が国語、私が英語を教えることと相成った。

 もっとも、このままでは光原君は高校卒業資格を得られない。高認という手もあるが、彼は、そういう試験でバリバリ結果を出していくようなタイプでもない。

 幸い私には、D高等学院の伝手がある。後に詳しく述べるが、このD高等学院は以前、大検予備校だった。私が定時制高校にいたころ、通信教育で大検の科目を学ばせてもらったこともあるし、ちょうどこの年、高丸君を紹介していたこともあり、光原君にもD高等学院を紹介した。

 彼は3年時だから、高校在籍時の単位の多くが卒業要件に認定される。あとは、不足分の単位をD高等学院のスクーリングとレポート提出によって補えばいい。そちらは先方にお任せして、私と国語担当の教師はそれぞれの教科の基礎から固め、入試問題対策へと入っていった。冬場には、面接指導も行った。入試の面接では、先生方にかなり突っ込んだ質問をされたと言っていたことを、今も覚えている。

 翌年春、光原君は関西のある私立大学の経営学部に無事合格できた。


 大検や現在の高認もそうだが、単位制の定時制高校や通信制高校は、以前の学校で取得していた単位を、合格要件や卒業要件として認めてくれる。何も始めからご丁寧にやり直す必要などない。確かに「単位制」というシステムは、「進級、そして卒業」に向けて積み上げていくという、従来の高等学校や小中学校の硬直したシステムに風穴を開け得るものであることを、光原君の例を見ていて痛感させられる。

 この手段は何も、国公立大や難関私大に進む学力上位層のためだけにあるのではない。今や、大学等の進学率は5割を超している時代。これは使い方次第で、誰もが有効に活用し、道を開けるシステムである。

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