触れる独り言
日々曖昧
BLUE
「なんで私たち、セックスするの?」
突然だった。
もう付き合って一年が経つ彼女に、よりにもよって行為の最中に聞かれて、相応しい答えが出てこなかった。
でも、嫌な気持ちにはならなかった。多分僕も同じようなことを考えたことがあったから。ただ、答えはないものだと途中で投げ出してしまっただけで。
「なんでだろ。なんでだと、思う?」
情けない。ぼそりと自分の声が頭の中で呟いた。
しかし、僕の心の声とは反して、彼女は笑っていた。
「わかんないから、すんのかな」
彼女はいって、僕にキスをする。
それから僕らはいつものように重なったけれど、正直僕は彼女の質問の答えを頭の中で探してばかりいた。
「あんまり気にしないで」
全てが終わったあと、シャワーで濡れた髪の毛の水気をバスタオルに吸わせながら、彼女はいった。彼女がいうには、ふと頭に浮かんだだけで深い意味はなかったらしい。
じゃあ、僕の今抱えている、薄い水色みたいな思考は、深い意味などないものなのだろうか。
そんなふうには、どうしても思えなかった。彼女がかつての僕と同じような疑問を抱いたということが、なんだか運命的だったのも手伝って、僕は見事に、出口の不明な暗闇に迷い込んでしまった。
「意味のないこと、嫌いなんだ」
付き合いたての頃、彼女がいっていたことを思い出す。
デートの帰りに、助手席でいうことか。と少し苛立った気持ちは、まだ胸の中で消化不良を起こしていた。
彼女の言いたいことはなんとなく理解できるけれど、世の中の大半のことには意味なんてない。意味は後付けするもので、先天的にもたらされることなんてそうそうないのだ。
かといって僕のように、意味のないことを知りながら見ないふりをするというのは、なんだか愚かな気もする。セックスだってそうだ。割り切れもしないくせに、忘れた素振りで誤魔化していたのだ。
「さっきの話さ」
こちらに背を向けてスマートフォンを光らせる彼女に、僕は語りかける。
「本当に気にしないでいいよ」
「いや、違って」
なんでこうしようと思ったのか、明確に言葉で表すことはできない。でも、こういうものに答えを探すこと自体がズレているのかもしれないのだ。
疑問に感じてしまった。多分、それだけの事だ。
「僕ら、別れよう」
彼女は理由も聞かず、僕に背を向けたまま、小さく頷いた。
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