6 酒屋の新メニュー ①



「そうだったのか、そりゃ武器も持たずに大変だったな、シンタ」


 マスターがタバコを咥えながら、ふむと頷いた。


 俺たちは依頼を終え、酒屋に戻ってきていた。俺の横ではライアンがカレーライスを頬張っている。


「……う~ん、うんめっ、うんでも、ほれが、ひょんど、とぉりぃかかってっ……ひょんとに、な、ひょかったよっ!うんーめっ!(う~ん、うんめ。そんでも、俺がちょうど通りかかってほんとに、な、よかったよ。うんめーー)」


おいおいおい、なんて言ったんだ?


「そんな、リスみたいに頬張りながら喋るなよ、ほら水飲んで」


 俺はコップに水を注いで、ライアンに渡した。ライアンは「あんがと」と言ってコップを受け取り、そのままぐぃっと一気に飲み干した。その一部始終をそばで見ていたリリィは、クスクスと小さく笑っていた。


「~~っかーーー!ほんとに旨かった!ご馳走さん!てかよ、武器がないなら俺の古い剣一つくらい分けてやろうか?」


「え、いや、流石にそこまでは!ちゃんとお金貯めて自分で買うことにするよ」


「そっか!シンタは真面目だな!てか、まだなんか腹減ったな……マスター、甘いもんとかない?」


 ライアンは少しだけ口を尖らて、頬杖をつきながらマスターに言った。


「甘いもんなら……そうだな、クッキーかチョコレートだな」


「んーなんかもっとさっぱりしたもの!!」


「じゃあ、フルーツだなルーシュならあるぞ。」


「……っ!ルーシュ!!」


 ルーシュという言葉を聞いたリリィは、その言葉に目をキラキラと輝かせた。それとは対象に、ライアンは少し物足りなそうな微妙な反応で、


「ルーシュか~……んじゃあ、それで!」


 と、マスターに伝えた。

 それを聞いたマスターは、ちょっと待っとけよ~と言って裏へと入って行った。


 そうか。このゲームの世界では料理もある程度作れたりしたけど、デザート系はあんまりなかったな。今日は暑かったし、カレーライス食べた後に食べたらうまいのは……あ、そうだ。


「マスター!ちょっと厨房のもの、借りてもいいですか?ライアン、ちょっとだけ待っててよ!」


 そう言って、俺も裏の厨房へと入って行った。



 ******



「んで?なにか作るのか?」


 マスターは首を傾げて俺に尋ねた。

 そんなマスターに対して、俺は自慢気な表情を浮かべて口を開いた。


「実はですね~、アイスクリームを作りたいと思います!」


「あ~いす、くりー、む?」


 マスターは再び首を傾げた。


「冷たくて口の中にいれると溶けてしまう、あまーいデザートなんですよ。今回は即席ですぐにできるものを作ってきたいと思います!」


 そう言って俺は準備を進める。


 そう、ここにはアイスクリーマーも無いため、すぐにはアイスが固まらない。(アイスクリーマーとはアイスを作る機械のことだよ☆)冷凍庫で冷やすとしても1時間以上はかかってしまう。


 そこで俺が用意したのは小さい袋と大きい袋、氷と『セル』だ。この『セル』と呼ばれる半透明の小さな結晶になっている粒は、俺の現実世界でいう塩のことだ。


 次は材料。


 この世界での砂糖は、この薄いピンク色の結晶のことで『シュク』と呼ぶ。このシュクは溶けると、色が消えていくので、そのまま使うことができる。このゲームでは自分で料理も作ることができたから、だいたいのことは把握できていた。あと他には……ミルクとクリーム、卵も必要だな。俺は冷蔵庫の中を見せてもらい、材料を手に入れた。よし、この辺の材料は現実世界と変わらないな。


 俺は材料と道具を作業台へ持っていき、さっそく作り始めた。……と、その前に手をしっかり洗わないと。


「よーし、作るぞ~」


 まずは、ボウルに卵の卵黄とシュクを入れて、白っぽくなるまでよく混ぜる。そこにミルクとクリームを入れて、更に混ぜ合わせる。混ざったら、混ぜ合わせた液体を小さい方の袋に流しいれ、しっかり口をとじる。大きい方の袋には氷とセルを入れて、さっきの小さい方の袋を大きい袋の中に入れ、またしっかりと口をとじる。


「あ、そうだ。なんか大きめの布とかってありますか?」


「そうだな……お、これなんかどうだ?」


 マスターは白い大きめのタオルを俺に手渡した。けっこう頑丈そうで、大きいしこれなら大丈夫そうだ。「ありがとうございます」と言って、受け取った俺は先ほどの袋をその白いタオルで包み込んだ。


「さ、これで準備完了です」


「準備、完了……?んで、これからどうするんだ?」


「これからですか?これから~これを~……」


 全力で振り回すんです。

 俺はぐるぐるぐるぐると布で包んだ袋を10分ほど振り回した。


「……はぁはぁ、はぁ……こ、ここれで…これは完成です…な、中身を早く…溶けないうちに、盛り付けて…おえ、もってき、ましょう……」


 マスターが包みを開けて袋の中を覗く。


「おお!なんだこれは!」


 袋の中では、しっかり固まったアイスが出来ていた。良かった。少量だったから、すぐに固まったな。


 氷に塩をかけると、融解熱の原理で氷の温度が-10度近くにまで下がる。今回は氷と塩と同じセルの力で急速に冷やすことで、冷凍庫よりも早くアイスをつくることができるんだ。卵黄はあってもなくてもいいけど、俺はあった方が好き。


 俺とマスターは透明のガラスの器にアイスを盛り付けて、その上にルーシュもコンカッセ(小さなサイコロ上にカット)して盛り付け、二人のもとへ運びにいった。



*****



「な、なんだ、これ?なんかうまそう……」


運ばれてきた初めて見るアイスを、二人は物珍しそうに見つめ、ヨダレを垂らしていた。


「さ、これほっとくと、どんどん溶けて来ちゃうから早く食べて食べて。はい、マスターも」


「お、おう、ありがとな」


 そして三人はゆっくりと、アイスを口の中へと運んだ。


「「「っ!!」」」


「「「お、おいし~!!」」」


 三人はそう言って、揃って幸せそうな笑顔を浮かべた。


「なんか冷たくて甘いし、カレーの後にぴったりだな!」


「ルーシュともめちゃめちゃ合う~!」


「こんなに美味しいなら、店でも出してぇくらいだな」


 よかった……三人とも絶賛してくれた。

 現実世界での俺はレストランの厨房で働いてたから、それが役に立ったな。まあ、今回は家庭で作れる簡単レシピだけど。


「今回は即席の簡単レシピなので、店に出すなら材料は同じなんですけど、ちょっと作り方が違うんでまたよかったら教えますよ」


「おお!ほんとか!それは助かるなぁ!」


 こうして俺は酒屋の新メニューの制作を手伝えることとなった。




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