その九 イベントの無い月が有ってもよくないか!
さて、五の月となった、五の月なんて言い方だが要するに五月のことだね。
ここらはゲームを作ったのが日本のメーカーだからだろうね。ほぼ言い方変えただけの元いた世界基準なんで。
クレアと図書館での会話の後、少しだが会話をする中にはなったが、今のところそこまでだった。
さて、ずっとクレアを追いかけているとストーカーだと思われてしまうからね、選択肢付近じゃない時期は自然にふるまわないと。
僕たちにも生活があるからね。
さて、それじゃあ今日はどうしようかな?
そう言えばニーナの姿が見えないな。少し前から僕に隠れて何かやってるようだけど、今までが僕につきっきりだっただけに少し気になってしまうな。
と、言うことでニーナを探してみよう。
「ニーナの行きそうな場所か、そう言えば僕はニーナの趣味とかは知らないな。もう十年ほど一緒にいるのに知らないなんて、主として失格じゃないか」
僕はそう呟きながら廊下を歩き散策する。
そうか、この十数年僕は自分がどう助かるかばかり考えていた気がするな、今を思うと勿体ない事をしているんだよなぁ、ゲームでは語られない部分でも世界は動いているんだし、もっと視野を広げるべきだった、普段の生活も楽しんでいるつもりであったが、根っこの部分ににはクレア・アージュの影があったのかも。
ん? カン、カコンと木と木がぶつかる様な音がするな、確かこの辺りには稽古場があったな、僕は中身が日本と言う平和な国にいたせいか、どうも剣の稽古は苦手だったな。
何気なく稽古場を覗いてみると、そこには僕の探し人がいた。
ニーナが教官と模擬戦をしていた。
しかもこの教官は我が国の防衛隊の部隊長も務める歴戦の猛者であった。
「そうだ! どんどん上達しているな。だがまだ脇が甘い!」
教官の木剣がニーナの短刀を打ち払い、ニーナの足を引っかけた。
「あう!」
バランスを崩し倒れたところ、教官の木剣の剣先がニーナの顔を捉え突き出された。
「上達はしているが、たまに変に大振りになるな」
「ふぅふぅ、難しいです」
「しかし驚きだ、この短期間でここまで腕を上げるとは」
「いや、まだです。もっと腕を上げないと」
ニーナはそう言って笑った。結構強いように見えるけどなぁと僕は思うんだ。
ニーナはまだまだと言った顔で少し休憩をとっている。
彼女は何故急に強くなろうとしているのか? 僕はそう思いつつも影からニーナたちの様子を見守っていた。
そして訓練を再開した二人、そして二十分近くも打ち合っている、ハンデ付きとはいえあの教官相手にあそこまで打ち合えるのが凄いと思う。
僕だと五分も持たないだろう、ランニングをしているから体力だけなら続くとは思うが戦いでは勝手が違う。
ニーナが身体を左右に小刻みに揺らして的を絞らせないようにしている、しかし教官は木剣を横薙ぎで払いニーナのフェイントを止める強引だけど効果的だ。
いつの間にか僕は二人の闘いを夢中になって見ていた。
そして夢中になって見ていて数分後、教官の袈裟懸けの斬り下ろしを地面を滑るようにくぐって躱す、そしてニーナが教官の足元を武器を持っていない左手で払う、バランスを崩した教官に向かって地面すれすれのところから体を捻り右手に持った短剣を突き出すと、教官はたまらずに今まで使っていなかった左手で短剣を払った、バランスを崩しながらでも短剣を払いのけるのは流石であったが、あの教官をあそこまで追い詰めるニーナも凄かった。
「なんと!」
教官はそう言うと体勢を直しニーナに向かって拍手した。
「いや、まさか左手も使わされるとはな。おそれいった」
「はぁはぁ、ふう。……ありがとうございます」
僕は心の中で拍手を送っていた。
教官はニーナにアドバイスをしておりニーナも熱心に聞いている、僕は静かにここから離れることにして他の場所に向かった。
すると今度は柱の陰から何かを伺ってるケツが二つ。
ユリアーナとライネスだった。
「そこの女どきなさいな! クレアのキュートな笑顔が見えないじゃないの!」
「押すな!」
ストーカー予備軍共が何をやってるんだ?
「お前たちは何ストーキングしてるんだ?」
「「ほうわ!」」
「飽和?」
シーといいながら人差し指を口に当てて僕の方を見る二人。
「クレアに見つかるじゃありませんこと!」
「見つかったらどうするんだい」
「どうするもないだろ、普通に話しかければいいじゃないか」
僕は思ったことを口にした、するとユリアーアナは顔を真っ赤にして首をぶんぶん振る。
「そ、そんなことできませんわよ! 恥ずかしい」
「ユリアーナはクレアと話すとき凄い顔で話してるものな。アレはたから見ると虐めてるように見えるもんな」
そう、ユリアーナはゲーム内ではクレアに意地悪をする悪役のような立ち位置なのだが、実は酷いツンデレで好きな子の気を引くために悪戯する小学生男子のような娘なのだ。
「く……仕方ないじゃありませんの。クレアのあの笑顔見たら頭の中がパニくっちゃってどうしても意地悪をしてしまうんですのよ」
「まあ、分からなくもないかな。で、ライネスは?」
「クレア……あぁ、素敵だ」
ライネスはうっとりとクレアを見つつ、指で前髪を高速でクルクル回していた。
だからその指の動きがキモいんだって。
「コイツは重傷だな」
「そうですわね」
「ふおおおお!」
なんで、こんなヤツのルートがあるんだろう? 放っておいても自爆しそうなのに。
そうこうしているうちにクレアは行ってしまったようだ、そして二人は何故かショックを受けている
「大丈夫かこいつら?」
ゲーム内では何もイベントの無い月はこうして終わりを迎えた
そういえば来月には我が兄上ハインツが指導教官候補として……わかりやすく言うと教育実習生としてこの学園に講師としてやって来るのだったな。
油断のできない要の部分だぞっと。
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