その二 S〇GAの人は言いました。
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さて、私ことカナードは今年で七歳になりました。
いやー、子供の振りするのって難しいのね。割と恥ずかしいんだこれが。
そしてやはり立ちはだかった最大の敵、そう! それは乙女風に言えばお花摘み。
要するにトイレ問題である。しかし私はこれを案外すんなりと克服、ここら辺は気持ちや感覚がある程度身体に引っ張られてるためだと思われるのよね。
克服できた理由はもう一つ、いつかセ〇の偉い人が、男が最初に触るコントローラーがアレだと言っていたのを思い出してね、コントローラーなら仕方ないかと思ったら、案外すんなりと克服しちゃったのよね。
「兄さん、なんか難しいこと考えてる顔だね」
「おや? アル」
「黙り込んじゃって、何を考えてるんだい?」
ゲームの通り、一年後には弟のアルことアルファスが産まれました。その弟が私に話しかけてきた。
「いやー、世の中平和だなあってね」
「兄さんは発言がいつも年寄り臭いよ」
「そうかな?」
まあ、実は中身は二十四だからね。あれから七年経ってるんだろって? 私は永遠の二十四歳になったのよ。
「そうだよ」
アルのヤツが私を年寄り臭いと言っていたところで、向こうからメイド数名と私達くらいの年齢の姉妹が歩いてくるのが見えるわね。
「兄さん、アレって」
「エレンツ侯爵の娘だね」
メリンダとソニア。ゲームではハインツの許嫁になるメリンダと、私ことカナードの許嫁になるのがソニア。
このソニアって子が曲者なのよね……
「兄さん……あの二人のうちの片方が凄く不細工なんだけど」
「シ! 聞こえちゃうだろ。あと女の子にそんなこと言っちゃだめだよ」
「う、うん。分かったよ、でも……」
「言いたいことは分かるけど。でも、だ」
アルの言うことは分かる、中身が女の私から見てもソニアって子は凄く醜いのだ。
姉のメリンダは綺麗な子なのにソニアは正直醜い。
ゲーム内でもオークプリンセスという仇名で呼ばれている、身も心も醜いという凄い設定のキャラだ。確かにアレは醜い……目は左右で大きさが違うし、鼻はブタ鼻で歯並びは凄く悪い、頬は垂れてるし、ケツ顎で唇はカサカサで下唇だけがやたら厚い。これが許嫁とかもはや虐めや嫌がらせの類じゃないのよ……お父様とお母様は何を考えて息子の許嫁にアレを選ぶのか……
姉妹の所に執事風の男性がやってくると姉妹と何やら話しをしてるわね、少しするとメリンダの方が男性と一緒にお城の方へと向かった。
「姉の方がどこかに行ったね」
「そうだね」
アルと一緒に様子を見ていると、とんでもなく頭のおかしい光景が繰り広げられることとなった。
「ボバハハハハ! 姉上は呼ばれてどこかに行ったようですね」
女性の声とは思えないダミ声ね、ボバハハハってどんな笑い声よ……隣のアルなんて怯えちゃってるじゃない。
「ボバハハハ、そこの貴女」
ソニアが一人のメイドに話しかけてるわね、メイドは三十前後といったとこかしら?
「はい、お嬢様なんでしょう?」
「今日の天気はどうかしら?」
ソニアはメイドの一人に天気を尋ねた。
「兄さん、見ればわかる事をなんで聞いてるんだろう?」
「分からない」
私は素直にアルの質問に答える、実際分かるわけがない。
「はい、今日は晴天にございます。お嬢様とても良い天気です」
メイドさんは静かに質問に答えた。当然の答えよね、見れば誰にでも分かるほど今日は天気がいい。
「ボバハハ、ブボ! ブボ!そ、そうよ今日は天気がいいわ」
いちいち笑ってからじゃないと話せないのかしらアイツ? しかもむせてるし。
「私は天気が良いから気分がいいわ!」
「それはようございます」
意味の分からないやりとりね。
しかし、ゲームでも酷かった性格のソニアを実際に見ておくのはきっと後に役立つと思うので、
私はよく観察しておくことにした。
「アルも良く見ておくんだ」
「わかったよ兄さん」
私は保険のためにアルにも見せておく、アルは小さいながらに正義感の強い子だ。
もし私が失敗したらきっとアルがソニアをどうにかしてくれるはず。
「そう言えば貴女には子供がいましたね、私と同じくらいの歳の子が」
「はい、娘がおります。お嬢様と同じ歳でございます」
「貴女の旦那さんは?」
「おりません、病気で亡くなっております」
普通の世間話のように聞こえるが雲行きが怪しい、私がゲームの知識を持ってるからそう聞こえるのか?
「ボバハハハ、それはいい。貴女は今この時をもってお暇に出します」
「え? 何故です?」
「天気が良いからクビです。娘ともども路頭に迷いなさい」
は? ソニアは頭がおかしいのかしら?
「兄さん! あの子何言ってるんだ? あの女の人クビって仕事が無くなっちゃうんじゃないか」
「分からない……何の意図でそう言ったのか」
天気が良いからクビってパワハラどころじゃない、理不尽そのものじゃないのよ。
これがソニア・エレンツ公爵令嬢……ゲームじゃ語られてない部分。
想像以上の悪役……いや極悪令嬢ね、七歳にしてこのふるまい。
「ボバハハハ! 愉快な顔ねぇ」
「お嬢様、私、何か粗相でも致しましたでしょうか?」
「だから言ったじゃない、天気が良いからクビ。深い理由は無いし別に誰でもいいのよ、たまたま貴女なだけよ」
「そ、そんな……」
女性は膝をついてうなだれてしまったわね。
現代日本でもここまでの理不尽は無いわよ、難癖ってレベルじゃないもの……しかし、ここで怒っても仕方ないわね。
ひとしきり笑った後ソニアはどこかへと行ってしまった。
ソニアの姿が見えなくなるのを確認して、私とアルは急いで女性の元へと向かった。
「大丈夫?」
私が声をかけると女性はゆらりと立ち上がる、そして私達の姿を確認すると。
「お見苦しい所をお見せしました……」
女性はうつろな目でそう言った。
あんなもん見せられた後だから、何とかしてあげたいと思ってしまった。
そうだ確かレンスターが人手を欲しがっていたわね。
私はレンスターが人手を欲しがっていたことを思い出し、女性にその事を伝えることにした。
「ねえ、良かったらうちで働かないかな? 事情はよく分からないけど、クビになっちゃったんだよね?」
「兄さん?」
私はアルに目配せをする、アルも理解したのか頷いた。出来の良い弟で助かるわぁ。
「え? よろしいのですか?」
「うん、うちの執事のレンスターが人手が足りないって言ってたからね」
人手不足これは実際本当の話なのよね、私が口利きすれば悪いようにはならないと思うの。
「あ、ありがとうございます」
女性は私の手を取ると泣きながらお礼を言ってきた。
私とこの女性との出会いが後に大きな転機になるとは、この時の私はまだ知らなかった。
そして、この日やはりと言うか、私と兄の婚約が決まったのであった。
そしてここで知りたくもない真実を一つ知ってしまった……
メリンダを婚約者に出す条件がソニアも貰ってやることだったなんて……
オマケで婚約させられてたなんて、カナード王子に同情するわね。
まあ、今は私のことなんだけどね。
ああ、私は悲しい。
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