第11話 仲間を募集しよう

 僕とルルアはニニアーナさんと一緒に代車を引き、なんとか道具屋の中まで運搬した。


「ふううー。これでバッチリです。ナジャさんにルルアさん、どうもありがとうございます!」


「どういたしまして! 今回もナジャのおかげで楽勝だったね」


「ルルアが運んでくれたから上手くいったんだよ。ところでニニアーナさん。ここに魔法効果のある腕輪とかある?」


「あ! ありますよー。腕輪フロアはこの奥です。お礼に少しなら安くしますから、是非是非」


 ちょっと薄暗くて、人二人も通れないような狭い通路奥には両サイドに棚が並んでいる。埃をかぶっている腕輪もあるし、ほとんど人気のないフロアみたいだ。


「ナジャって腕輪に興味があったんだ! 知らなかった」


「ん? いや。ちょっと今後のことも考えて、準備をしておこうと思ってさ」


 どうやら僕のギフトは、発動させることによってクエストクリア時の経験値やスキルポイントを増やしてくれるようだ。でも、僕だけがそのポイントを貰い続けるとどうなるか。あっという間にパーティメンバーとの実力に開きが生じてしまう。まあ、ルルアとは最初から差があったわけだけど。


 どんなに強い冒険者でも、本当に困難なクエストを一人でクリアすることはできない。SRランク以上の冒険者達はそこをちゃんと解っていて、とにかくパーティ内のバランスを重視するんだ。だから僕のパーティ(まだメンバーはルルアのみだけれど)も、僕だけが強くなって置いてきぼりにしてはいけない。開いているLv差を、少しずつ縮める形にしていきたい。


 ではどうするのかっていうと、この前本を読みあさっていて解決策を見つけた。そこまでレアな腕輪じゃないはずだから、きっとここの道具屋にもあるはずと思ってたんだけど、やっぱり置いてあった。


「ニニアーナさん。この腕輪が欲しいんだけど、いくら?」


「割譲の腕輪ですかぁ? 誰も買いたがらないから、もう捨てようと思っていたくらいなんで、上げますよ」


「それは悪いよ。原価30Gくらいだよね? はい」


 僕はカウンターに座っているニニアーナさんにお金を渡すと、彼女は湧き上がる汗を布でふきふきしながら、


「ありがとーございます。ナジャさんはたった一日で仕事を片付けてくれるし、処分に困ってた腕輪まで買ってくれるし、もう頭が下がりますぅ」


 と涙目になりつつペコペコされちゃった。全然大したことはしてないのに、逆に悪い気がしてくる。


「ねえねえ。その腕輪ってどんな効果があるの?」


「つけている者が得たスキルポイントと経験値を、任意の数だけパーティメンバーに分けることができる腕輪なんだ。これで僕が過剰にポイントをGETした時、仲間に渡せばバランスが悪くならずに済むんだよね」


「えええ。いいのー? ナジャが働いた分なのに」


「いいんだよ。僕だけがどんどん強くなっていっちゃったら、パーティを組んでいる意味がなくなっちゃうから」


「ナジャ……いろいろ考えてくれてるんだね。見てて! あたしが前衛として、バリバリ活躍してみせるからっ」


 そう言いながら細い腕に力を込めて、力こぶを見せてくるルルアだったが、少しもこぶになっていないから不思議だった。なんでこんなか弱い感じなのに、あんな恐ろしいパワーが出るんだろう。


「うん。僕も頑張っていくから、改めてよろしく! じゃあニニアーナさん、僕達はこれで失礼します」


「あ、はいー。本当に感謝の言葉もないです! いつもここにいますから、良かったら遊びに来てくださいね」


 僕らは道具屋の店主さんに気に入られたらしい。その後すぐにあまかぜ亭に向かい、報酬を受け取ることにした。


 ◇


「あら。仲間を募集されるのですね。では、こちらの用紙に記載をお願いします」


 あまかぜ亭に行くと、受付にいたのはモヒカンおじさんではなくて、僕らより少し年上のお姉さんだった。達成報酬とポイントを受け取った後、そろそろ本格的に仲間を募集してなくてはいけないと思ったので、とりあえず冒険者ギルドを通して募集を呼びかけてみることにした。


 口頭で誘うっていうのも普通にあるんだけど、ちょっと僕はそういうの苦手なんだよね。根がコミュニケーション苦手というか、なんというか。


「やっぱり募集するなら、回復役は外せないよね!」


 ルルアはニコニコしながら、僕が書き込んでいる用紙に見入っている。いつだって楽しそうな彼女は、どんなにメンバーが増えてもムードメーカーであることはきっと変わらない。


「うん。まず回復役は必須で、できれば前衛がもう一人欲しいところなんだよね。それと、シーフも欲しいんだけどどうかな?」


「え? どうして? ナジャ……もしかして盗賊団でも作るつもりなの?」


「違うよ。クエストでも道に罠があったり、宝箱に化けている魔物がいるじゃないか。そういう危険を察知して解決してくれる存在が必要かなーって」


「そっかー! あたしまだ難しいクエストはしたことがないから、全然知らなかった! じゃあシーフさんも募集で! あ……そうそう。ナジャ、女の子だけで固めるとかはやめてよね」


「え? なんで?」


「何でって! 女の子ばっかりのパーティじゃいろいろと不安じゃん。いろいろと」


 そうかなー。別にいいと思うんだけど。ルルアの思考が僕には謎だった。


「あー! 今の顔は、やっぱり女の子で固める野望を持っていたでしょ!? ダメだよ、絶対ダメ!」


「そんな野望は持ってないよ! ……ちょっと疑問はあるけど。よし! これで募集してみよう」


 僕が書き込んだパーティメンバーの募集用紙はこんな感じ。


 =========

 【パーティメンバー募集 No.1351788】


 ・現在魔法使いナジャと武闘家ルルアの二名しかおりません。上のランクを目指したい回復職の方、戦士などの前衛ポジションの方、はたまたダンジョンの罠解除などに詳しい方。いつでもお声がけお待ちしています。

 =========


「ではこの内容で募集いたしますね。他のギルドにも手配しておきますか?」


「はい。宜しくお願いします!」


 冒険者ギルドは街毎に存在している。あらゆるギルドで募集をかけることができれば、それだけ早く良いメンバーと巡り合える可能性は高くなる。逆にここのギルドだけで募集したら時間がかかってしまいそうだ。


 とかいろいろと思案していると、脇からルルアがひょこっと用紙を覗き込んで、


「ねえねえ。内容としてはしっかりしてて良いと思うんだけど、ちょっとインパクトに欠けるんじゃない?」


 と感想を漏らした。まあ確かに。その言葉に受付嬢さんも僕も唸ってしまう。


「うーん。じゃあどうしようかなー。もうちょっと細かい内容まで書いたほうがいいのかなあ」


「ちょっとあたしが書いてみる! 貸して」


 パッと受付嬢さんから用紙をもらったルルアが、サラサラー……と内容に加筆していく姿を見て、僕は最初彼女の隠れた才能を見つけたような気がした。しかしながら、それは買い被りであったことが解るのはほんの数秒後だったわけで。


「できたー! これでもう募集ひっきりなしでしょ!」


 =========

 【パーティメンバー募集 No.1351788】


 ・現在魔法使いナジャと武闘家ルルアの二人しかおりません。上のランクを目指したい回復職の方、戦士などの前衛ポジションの方、はたまたダンジョンの罠解除などに詳しい方。いつでもお声がけお待ちしています。


 ……が、そんなに待っている時間もないかもしれません。

 ちなみにリーダーであるナジャは『落ちゲー』というギフトを持っていて、普段も戦闘中もキラキラしているんですよ。あなたもそんなキラキラパーティの一員になりませんか?

 ちなみにハイリザードマンも一発で倒しました!


 期間限定です! 

 高待遇! 簡単軽作業! アットホーム! そんなパーティで活動したいというそこの貴方!

 お声がけ待ってまーす!

 =========


「ちょっと待って! 僕はキラキラなんてしてないぞ!」


「そんなことないよー。あたしの目にはキラキラして見えるもん」


「ルルアはきっと僕らと見えている世界が違うね……。高待遇とか簡単軽作業とかは、クエストによると思うんだけど」


「気にしない気にしない! このくらいアピールしないと、そもそも志願者自体来ないかもしれないよ。もしダメだったら、また新しく内容を書き直せばいいじゃん」


「まあ、確かにそうかも。じゃあこの内容でお願いします!」


「は、はあ。承りました」


「やったー! 初めて仲間を募集するね。どんな人が来るのかなー? あたしワクワクしちゃう」


 受付嬢さんの呆気にとられた顔とは対照的に、うちの幼馴染みは雲ひとつない青空みたいな笑顔を見せる。いざ募集してみると、なかなか志願者は来ないっていうのはよくあることらしい。


 ところが、予想しているよりもずっと早く、意外な志願者が現れたんだ。

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