充足

 家に着いて背負っていた渚を玄関の叩きにおろした時、彼女は「ただいま」と言った。

 沸々と湧き上がる感情に、いつの間にか高野は泣いていた。


「大丈夫? どしたん、気分悪りの? うちおっかし事言うてもた?」


 驚いた愛しい転生体は背伸びして上着の袖で涙を拭って来た。それがどうしようもなく嬉しくて愛おしくて、抱き寄せる。小さな手が頭を一生懸命撫でてくれて、そのとんでもなく優しい感触がしたので、更に涙を流した。幸せで涙が溢れるという衝動を、高野は生まれて初めて体験した。

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