56 取引
どうぞどうぞとその場にいた四人の子供らに一人の三枚のクッキーを渡し、銅貨の支払いは最後へとまわす。
クッキーならば食い逃げされても我慢できるが、せっかく働いて貰った給料の半分を持ち逃げされたら少し凹む。故に先払いとしてクッキーを支払い、釣りをし終えたら銅貨を支払う事にしたのである。
「ありがとう、おねぇちゃん!」
ボロボロの服に顔には埃をつけて笑う少女は大変可愛らしくもあるが、いかせん良い気持ちにはなれない。それはこんな子供が何故こんな細く、汚い身なりで過ごしているのかが私には理解できない為だ。
私の有する記憶の中で子供とは綺麗な服を着てそこそこ肉付きの良い子であり、私やアルノーでさえも服はともかく肉付きは良い方であった。エスターやヒエムスの村の子らもここまで骨の浮き出た子はいなかったと記憶している。
「おい! エサつけたぞ!」
「ほんと! ありがとう! 君もさぁお食べ」
餌をつけてくれた年長の男の子もそこそこ痩けていて、あまり見た目は宜しくない。それでも私に向ける視線はまだ警戒心を抱いていて、この歳で人を怪しむことのできるなんて、悪い意味での英才教育を受けているのだろうと感じられた。
そんな少年にもクッキーを三枚て渡せばほんの少しだけ頬を緩ませ、チラリとこちらを見た後に背を向けて食べ始めたのである。
その姿の可愛いこと可愛いこと。
背中越しだが必死に頬に詰め込む姿が見てとれ、あまりの必死さにハムスターが頬袋に詰め込む姿が重なった。
ムフフと笑いながら私は彼に餌をつけてもらった釣り竿を振り上げ、そして針は青い海へとポトンと沈んでいく。
「何匹釣れるかなぁ」
楽しみだなと小さな声で呟くと、その言葉を拾ったのでろう子供らはあまり釣れないと思うよと私に助言をしてくれた。
「どうして釣れないの?」
「だって今日は晴れてるもん。 魚達に針がばれちゃうって兄さん達が言ってた」
「成る程、魚にも警戒心ってものがあるんだねぇ」
もしかしたら釣れないのかと肩を落とすも、私や彼らの思想とは思考とは打って変わって竿の先はグンと海の方へとしなった。
「え!? まじか!」
いまさっき釣れないと助言されたのに釣れたのかと勢いよく竿をあげればそこには小ぶりな魚が食らいついていて、鱗が太陽の光を反射してキラリと光る。初めて自分の手で魚を釣ったという感動で私の胸はドキドキと脈打ち、そして引き寄せた魚はより美しく見えた。
たとえその魚に目が四つあろうとも。海老のようやな手足が生えていようとも。
「少年! 私はやったよ、さぁ次の餌をつけてくれ!」
針に食らいついた魚を桶に移し替え少年に声をかければ目を見開いて驚いており、そして恨めしそうに私の釣った魚を見つめた。
一度目をそらし舌打をした彼は先ほどのようの私の針に餌となる虫をつけ、私はそれを確認してもう一度海へと針を沈める。するとどうだろうか、私の竿はまたしても海に引っ張られているようにしなるのだ。
「きたんじゃね! これきたんじゃね!」
上機嫌に竿をあげれば先ほどと同じような魚がまたもや釣れており、釣れないのではないかという心配が嘘のように消えていく。
入れ食いだと少年に再度餌をつけてもらい海へと投げ入れれば、面白いように魚は釣れ、そして私の釣りは餌がなる無くまでの十数分で間で終了したのである。
「……なんで、お前ばっかりっ!」
二つの桶で悠々と泳ぐ魚を見た少年は憎らしそうに私を睨み、そして幼い少女とその他二名も羨ましそうに魚達を眺めている。
数にして二十三匹、みなあの四つ目の足あり魚だが誰も食べられないも言わないので食べられる魚であることには違いないのだろう。
「ーーーーお魚」
「いいなぁ……」
グゥという音とともに少女らは呟き、その悲しそうな声音に私はほんの僅かながら同情心が芽生えてきた。
もし私と彼らの立場が逆で、彼らが大漁で私が全く釣れていなかったらそれはとても辛い。
すぐ隣で面白いように釣れているといのに、私には食いつきがないなんて面白くない。
そう考えてしまうと、少なからず私は釣れなかった彼らに同情してしてしまったのである。
「ーー少年、もしよかったら私と取引をしない?」
「取引ぃ? ンだよそれ」
「いやはや、私もこんなに釣れると思ってなくてね。もしよかったら半分ほど五ダイムで買わない?」
十匹も入れば庭の住人にも祖父にもエリボリス夫妻にもお裾分け出来るし、彼らに十二匹分けたあえても四人で割り切れる。それにいくら扉を使えるとしても桶を二つ抱えてギルドまで戻るのは体力を使うし、半分の重さに出来れば疲れなくて済む。
みんなが海の魚が気に入ったなら今後も定期的に釣りに来てもいいし、初めからそこまで大漁に持っていくと釣れなかった時に食い意地のはったもの達に睨まれる心配だってあるのだ。
それ故に今回は大漁だったよと一人一匹で配るのが丁度いい。
「で、どう?」
ニッコリと笑って問いかければ幼い子達は喜び笑うが、彼だけは奥歯を噛み締め、手に力を込めていた。
「ーーーーんな金ねぇよ!」
大声で叫び私を憎々しく睨みつける彼に私はキョトンとした顔を向け、そしてお金ならあるじゃないかと私はお財布から小銅貨十枚を手渡した。
「これは餌をつけてくれた代金十ダイム。私から魚を買うのならそこから五ダイムくれればいい。どうする? 買う、買わない?」
ニヤリと笑らって腕を組みどうするのと問いかければ、少しばかり少年は悩むそぶりを見せるも欲しいと素直に声に出した。
その言葉に私はすぐに反応し、彼らのなにも入っていない桶に十二匹の魚を入れ替えたのである。
「はい、半分。五ダイムで売った!」
「買った!」
彼は私の差し出した手に小銅貨を五枚のせ、そして歪んでいた顔を笑顔に変えたのだ。
「ーーねぇちゃん、また釣りするなら餌付けてやってもいいぜ?」
その言葉には期待の意味も込められていて、彼からすればいい仕事あり尚且つ魚をも手に入れられる仕事だと認識されたようだ。
無論、毎回大漁だとは約束できないし半分も売ることは出来ないだろう。
けれども彼らからしたら私はいい金づるとみなされているに違いない。
「んー、じゃあ三日後も此処で会おう。その時も頼むよ」
金づるとみなされようがなんだろうが、虫を触るよりよっぽどマシだ。それにとった魚を分けた与えれば幾ばくかのお金も返ってくるし、毎回誰かに頼む手間が省ける。
「んじゃ、三日後だからな! ぜってぇだかんな! 忘れるなよ!」
「ハイハイ」
何度も何度も私に確認をとる少年の髪を撫でてみれば、キシキシとしたザラザラとした髪が指に絡まり、やはり髪も体も洗えてないんだろうなと実感する。
私は本当に恵まれていたようだ。
弟のアルノーは魔法を使って水も出せればお湯にもでき、祖父は私達が食うに困らぬように狩りをした。一度死にかけたこともあったが私が今の私に変わり、そしてスヴェンとともに稼ぎ頭になることができたのだ。
私は恵まれている。
どうしようもなく恵まれている。
それを誰かのために、人のために、国のために、世界のために使おうとなんて思っちゃいないけど、やはり神には感謝するべきだ。
「神よ、あなたに感謝します」
嫌がる少年の髪をグリグリと撫で回しながらもそういえば周りキョトンとし、そして私を真似て神よ感謝しますと笑って祈る。
その姿が愛くるしくて愛くるしくて、私はロリとショタに目覚めてしまったのではないかと思い悩んだほどだ。
この想いを行動に移せるのならば、とりあえずアルノーに抱き、大好きだと愛でたい。
私にとって至高のショタはアルノーなのだから。
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