第154話 追いつめらえた偽悪役令嬢




 ~壱角 勇魁side



 コンコン


 タイミングが良いのか悪いのか。

 誰かがドアをノックする。


 僕はガウンを羽織り、「どうぞ」と返事をすると、使用人がタブレットを持って入ってきた。


「――勇魁坊ちゃま。鳥羽とば様と勇岬ゆうさき様から連絡が来ております」


「堅勇と茶近から? わかった」


 使用人からタブレットを受け取り、すぐに部屋から出て行った。


 僕は言葉を発せず、亜夢に見えない所でいるように身振り手振りで合図する。

 流石は双子の妹だけあり、それだけで亜夢は無言で的確に動いた。


 タブレット画面に映っている、二人の顔を見比べる。


「どうした?」


『ユウちゃんこそ、その顔の傷どうしたのよ? 随分とボコボコじゃん?」


 茶近が聞いてくる。


「……別に、『触らぬ火神』と一戦交えただけさ」


『火野 良毅か? まさか、勇魁にそこまで傷を負わせるなんて……噂通りのバケモノだな」


 堅勇が溜息を漏らしている。

 こいつも火野に対して一目置いているからな。


『つーか、なんで火野とやり合ってんの? 神西はどうしたんだよ?』


「それは……」


 仕方ないので、僕はこれまでの経緯を説明した。



 それから……。



『はははッ! 十八番オハコの手口がバレたら、もう駄目だね、ユウちゃんは!』


 茶近は無邪気な声を上げ笑い出す。


「なんだと?」


『だってぇ、そうじゃん! きっと神西はミカナにチクるぜぇ! そうなったら、いくらなんでもアウトだろ!? 天ちゃんよりもヤベェよ! マイナス100万ポイントくらいは減点じゃね!? 何せ双子の妹に成り代わる変態仮面なんだからよぉ! アーッ、ハハハッ!!!』


 露骨に僕を嘲笑う、茶近。

 これがこいつの本性だ。


 ムカつく奴だが、今の僕の心境はキレる気力と余裕すらない。


 全てこいつの言う通りだからな。


『いい加減にしないか、茶近! 勇魁だけの問題じゃないだろ!?」


『ケンユ、どういうことだよ?』


『勇魁の素行がバレるってことは、協力して手引きしているボク達の存在もバレるってことだ。つまり共倒れする可能性もある』


「あくまで知られているのは僕の正体だけだ。何があっても、二人が協力してくれていたことは言うつもりはない。そこは約束しよう……」


『その口振りだと、キミは神西と決着をつけるつもりかい?』


「必然的にそうなる……後には退けない。たとえ火野が相手でもな」


『火野だけじゃねぇ。王田家の浅野も出てくるぞ……あいつこそ打撃だけじゃねぇからな』


「暗器使いだろ? 知ってるよ。僕はジークンドーを彼に教える代わりに、それらを彼から学んでいるからね」


 茶近、堅勇……いずれお前達と戦うことを想定してな。


『そこまで覚悟してくれているなら、ボクからは何も言わないよ。神西は目障りだ……善悪関係なくね。勇魁が始末してくれるなら、それに越したことはない』


『自分の尻は自分で拭く。それが男だぜ、ユウちゃん』


「わかっている……もう切るぞ」


 僕はタブレットのスイッチを切った。


「ふぅ……クズ共が、簡単に言いやがって」


 ようやく出てきた愚痴と捨て台詞。


 事実上、こいつらに見限られたようなもんだな。


 僕とて最初っから、この二人に何も期待していない。


 はっきり言って信頼度は天馬以下だ。


 まだ天馬の方が単純でいい……。


 あいつが僕を裏切ったことなんて一度もないからな。


 ………クソッ。


 今更、天馬のことを考えるのはやめよう。

 僕は奴をずっと利用してきたんだ。



「……お兄様」


 傍で聞いていた亜夢が声を掛けてくる。


「これでわかったろ、亜夢。もう引き返せない所まで来ている。僕の未来のためにも神西君を……――」


 僕は言葉を詰まらせる。


「お兄様?」


 亜夢に声を掛けられるが何も言葉が出てこない。


 ……本当にそれでいいのか?


 頭の中では決定していても、心の奥では戸惑いがある。


 ――何故、亜夢に入れ替わってまで『正義』を貫こうとしているんだ?


 自問自答しながら原点に戻る。


 そもそも僕が『正義』にこだわるようになったきっかけは、小学生の頃に亜夢がイジメられていたことが発端だ。


 双子の兄なのに、まるで気づいてあげられなかった……。


 しかもイジメていた奴らも全員が富裕層であり、教師も悪戯に介入ができなかったらしい。


 だが天馬が転校して来て、亜夢を守ってくれたことで表沙汰になり、そこで初めて教師だけでなく校長までもが躍起になって動いた。

 何せ、天下の『勇磨財閥』の御曹司を巻き込んでいるのだから、もう放置というわけにはいかない。


 今振り返れば、所詮は「財力」だろって鼻で笑ってしまうが……。


 でも当時の僕は、そんな天馬がカッコ良くヒーローに見えて仕方なかった。


 ――同時に嫉妬もする。


 財力には「権力」も付くものだ。


 自分の家も裕福だが、天馬ほどの絶対はない。


 ましてや『王田家』のように権力でねじ伏せる力もない。


 僕が理想の力を持っているのにもかかわらず、天馬本人はそれを活かすどころか無駄にしている。

 何故なら、『勇磨家』にせよ『王田家』にせよ、あの家系そのものは日本が生んだただの寄生虫のような一族に過ぎないからだ。


 それを知ることで、僕は失望に苛まれる。


 さらに、この日本では未成年がどんなに悪さを働こうと、大抵は法的に守られて警察沙汰になろうと有耶無耶にされるのがオチだ。

 よくテレビで理屈ばかりこねる、なんちゃら委員会だってそうだろ?


 大人や法が守れないのなら、自分がやるしかない。


 目には目を歯には歯を――表向きで裁けなければ裏で裁けばいい。


 それから格闘技を学び、今のジークンドーに至る。


 二度と亜夢に害虫が近づかないよう、彼女に成りすまし、『悪役令嬢』として裁く。


 陰湿のイジメには同じことして報いを受けさせる。

 無論、暴力にはそれ以上の暴力だ。


 初めは視界に映る範囲での『粛清』だったが、茶近と堅勇と出会うことでよりエスカレートし、気づけば街全体で範囲が広がっていた。


 時には三人の私情で『粛清』することも含まれている。


 あのアイドル男もその一人。それと神西君だな。


 そして高校に入学し美架那に出会い、その容赦のない自分の正義を貫く強さに惚れてしまう。

 彼女となら『正義』を共有できると思った。


 勿論、僕が亜夢に成り代わって活動しているなんて言えない。

 ……内心では正しいことだと思ってないからだ。


 本当は、ただの自己欺瞞による正義――。


 でも亜夢に成り代わることで、僕は天馬よりもミカナのプライベートを知ることもできた。

 本当は悪い事だと知りつつも、僕の中で『神楽 美架那』っという存在が大きくなってしまったんだ。


 ――だから、神西君の口を封じなければならない。


 僕とミカナのこれからの為にも、彼を『善』だの『悪』だのこだわっている場合じゃない筈……しかし迷いもある



 ピロリン♪



 スマホからの着信音。


 天馬からLINEメールが送られてきたようだ。


 僕はその内容を確認する。



>今日、神西に柔道技で挑み見事に負けてしまった

 これをきっかけに美架那を諦めようと思った……

 だが恋愛道の師匠と出会い、なんとか踏みとどまることにした

 これからは、あくまで俺の力だけで美架那をサポートしていこうと思う

 我が心の師匠に感謝だぜ



 なるほど……今日の神西君、動きが悪いと思ったら既に天馬とやり合った後だったのか。

 ってか、「恋愛道の師匠」って誰?

 

 しかし、天馬の奴。

 何か変わったような気がする。


 前は、ただのわがままな親の七光りだった癖に……。


 神西君と戦ったことで、何か吹っ切れた潔さがあるような――



 ピロリン♪



 今度は神西からLINEが来た。

 そういや遊園地の時、彼と交換したんだっけな。


 僕はその内容を確認する。



 フッ。



 思わず微笑を浮かべた。


「まさか、本人からデートのお誘いがあるとはな――」






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