第111話 神×神コンビの逆襲




 ~神楽 美架那side



 私は愛ちゃんのお父さんを逃がすため、ジャスピュアのピュア・ブルーに扮して戦っている。


 相手は『特殊詐欺』グループの板垣という腕と首に刺青タトゥーをした強面で同年代風の男だ。

 喧嘩慣れしているようだけど、アクション・ショーのヒロインと数々のバイトで鍛えた私の敵ではない。


 と、余裕ぶっている場合じゃないわ。


 転ばされた板垣は頭に血が上ったみたいで、腰元に隠していたサバイバルナイフを取り出した。

 強面がさらに凶暴になり、とても正気の沙汰ではない。

 ナイフの切っ先を私に向け、息荒く興奮している。


「ブッ殺してやるゥ!」


 板垣は襲い掛かり迫ってきた。


 私は一切動じず、両腕伸ばし奴に向ける。


「――ピュア・ビーム・シャワー!」


 私の手から黄土色の液体が飛び出し、板垣の顔面にヒットする。


 途端、


「ぎぃやあぁぁぁぁっ! なんだぁ、こりゃ!? 目がぁ! 目がぁ痛でぇ!? 開かねぇよぉぉぉっ!!!?」


 板垣は顔を押え悲鳴を上げる。


「私、愛用の痴漢撃退用の唐辛子入り催涙スプレーよ! 2、3時間は目が開かないわ!」


 過去、既に実践済みだから威力と効果は折り紙つきよ。


 板垣は悶え苦しみ、堪らず手に持っているサバイバルナイフを落とした。

 両腕でひたすら両目に付着した液体を拭っている。


 ――もう遅いわ、チェックメイトよ!


 私はチャンスと言わんばかりに駆け出す。


「必殺ゥ――ゴールデン・クラッシャー!」


 板垣の股間に向けて思いっきり前蹴りを食らわした。


 過去、天馬を含む数多くの男子達を葬ってきた必殺技だ。

 ※良い子は絶対に真似しちゃだめだよ(by 美架那)


「ぐぉぉぉぉぉ~~~――……」


 板垣は両目のダメージより、そっちのダメージの方が重要だったようで両手で股間を押さえ身悶える。


「私、やるからには徹底するタイプだからね!」


 最後のトドメにと、板垣の脳天に向けてアクション・ショーで身につけた『かかと落とし』をお見舞いしてやる。


「ぐふっ!」


 板垣は地面に倒れ動かなくなる。


 どうやら完全にノックアウトできたようだ。


 それから私は予め持っていた小道具用のガムテープと結束バンドで板垣を拘束する。

 これで初めて完全勝利と言えよう。


 うん、我ながら容赦ないわ。


 でも相手は『特殊詐欺』を働く犯罪者。


 これくらいの報いは当然ね。



 ――けど、最初に話を聞いた時。



 正直、愛ちゃんのお父さんこと『野牛島やごしま 直樹なおき』さんに、手を貸すことを躊躇したわ。


 だってもろ実行犯のリーダーだったんだもの。


 散々悪い事して今更かよって思うのが普通でしょ?


 特に私の父親も母に暴力を振るう最低男だったから、余計こういう身勝手な父親は赦せない。

 勝手にボコられて地獄に落ちればいいと思う。


 けど――


 神西くんが身体を張って凄く一生懸命に守って自首させようとしているのが伝わった。


 全ては愛ちゃんのために……。


 なんて純粋で優しい男の子なんだろう。


 そして、そんな愛ちゃんが羨ましい。


 ううん、彼女だけじゃない。


 しぃちゃんや麗ちゃんもそう。


 三人とも神西くんに、とても大切に守られている。


 周りの人達はやっかみながら色々言っているみたいだけど、私はそうは思わない。


 ――素敵な関係だと思う。


 私や天馬達のように互いの思惑や思想で一緒にいる間柄とは違う、心から互いを労り思いやる関係。


 だから協力してあげることに決めたの。


 少しでも神西くん達が幸せになれますようにってね。


 でも、やっぱり羨ましいな……。


 神西くんに、そこまで大切に想われる三人が――。



 ん?



 そう思っている内に、どうやら神西くんの方も決着がついたみたいね。


 あれ? 一体どっちが勝ったのかしら?






**********



 少しだけ遡る。


 俺はピュア・ピンクとして『菅野かんの 彰影あきかげ』っという大人の男と戦っていた。


 こいつは空手の有段者という情報通り、中々の手練れだと思う。


 人体の急所である正中線に向けて、精密に正拳突きを繰り出してくる。


 俺はステップを活用して回避し距離を置こうとするも、まるで磁石のように直線的な動きでついてくる。

 だがこうして動き回ることで、菅野の蹴り技を封じている形にもなっているようだ。


 けど、このまま逃げているわけにもいかない。


 そろそろ奴の拳速に目が慣れてきたので、俺は菅野が繰り出した正拳突きを躱してカウンターを浴びせる。


 狙いは得意の顎先へのストレート。


 しかし、手応えがまるでない。


 にもかかわらず、菅野は大きく身体をのけ反り倒れて行く。



 刹那――



 ガッ!



 俺の左頬に鞭のようにしなる強烈な何かが当たる。


 幸い直ぐに拳を引っ込めて体勢を整えていた状態だったのが良かったのか。

 完全にインパクトを受ける前に上半身を反らし、ダメージを軽減させることができた。


 それでも強力な平手打ちを食らったような威力はある。

 万一、当たり所が悪ければ完全に終わっていただろう。


「痛てぇ! な、なんだ今の!?」


 俺は菅野に視線を向けると、奴はしゃがんだ体勢で軽く屈伸運動をしている。


 ――蹴られた?


 倒れた振りして、カウンターの回し蹴りを放ったってのか!?


 俺のカウンターをさらに上を行くカウンターで!?


「やっぱ、ボクサーか? しかも反射神経がプロ並みだ……少なくても素人じゃないな、お前?」


 菅野はドヤ顔で薄く笑っている。


 クソッ……こいつ強い!


 直線的な攻撃ばかりかと思ったら、急にトリッキーな動きで不意をついてくる。


 これがリョウやシンが言う「ズルさ」ってやつか?


 こんな相手どう戦う?


 勝てるのか?



 ――だ、駄目だ!


 焦ったら駄目だ。


 気持ちを昂らせても常に頭は冷静でなければならない。


 下手に奴の挑発に乗ることはない。


 集中しろ。



 超集中状態ゾーンに入れ――……



 あの夏休みの『身体強化特訓』より、麗花に教えてもらった独自のイメージ法と腹式呼吸を行う。

 そうすることで俺は少しの時間だが、この状態に入ることができる。


 現に『王田 勇星』との戦いでも成功しているんだ。



「なんだ、こいつ? いきなり雰囲気を変えやがって……んなコスプレした野郎が説得力ねーぞ!」


 菅野はさっきと同様に踏み込み、俺の鼻先に向けて正拳突きを放ってくる。


 ――今度はしっかり攻撃の軌道が見える。


 俺も踏み込み、突きを躱してカウンターのフックを打つ。


 拳は菅野の顎先に当たったように見えるが、奴がわざと横倒れすることで回避されていた。

 今度はその倒れる反動を利用した『後ろ回し蹴り』が、俺の顔面に襲ってくる。



 が――



 ブン



 菅野が繰り出した『後ろ回し蹴り』が空を切る。


 瞬時に俺がしゃがみ込んだからだ。


「――なっ!?」


 気付けば、お互い同じ目線の高さになった。


「これで、俺の射程内だ――」


 俺は低姿勢のまま滑り込み、アッパーカットを放つ。



 ガゴン!



 菅野の顎先にクリーンヒットする。

 拳銃で撃ち抜かれたかのように白目を向いてドサッと地面へと倒れた。



 ――超集中状態ゾーンが解かれる。



「勝った……やばかった」


 俺もへたりと地面に倒れ込んでしまう。


 どうも集中力スイッチが切れると、しばらく身体に力が入らない。

 よくわからないけど、そういうもんだと割り切るしかないだろう。



「――神に、いえピュア・ピンク大丈夫?」


 神楽先輩が駆け付けてくれる。


 どうやら彼女も板垣に勝ったのか……女の子一人で凄げぇな。


 ちなみに板垣ともう一人の男はガムテープでぐるぐる巻きにされている。


「神楽先輩、怪我は?」


「見ての通り快勝よ。っていうか、ピュア・ブルーでしょ!?」


「もうその設定いいじゃないですか? とっとと着替えましょうよ!」


「待って、そこで倒れている奴をぐるぐる巻きにしてやるわ。万一復活されてもいいようにね。それから警察を呼ぶわよ」


「ああ、確かに……その方が安全ですね」


 俺は神楽先輩が持っているガムテープと結束バンドで、菅野を拘束する。


 さらに神楽先輩は油性ペンで菅原の額に『こいつは特殊詐欺です♡』っと、丸文字で書き込んでいた。


「神西くん、勝利記念に一緒に写真撮ろうよぉ! こいつらバックにして、ね?」


「ね、じゃないですよ! 俺にとって、こんな格好は黒歴史以外何者でもないんですからね! つーかとっとと警察呼びますよ!」


 こうして警察に連絡し、菅野達を放置して俺達は裏路地へと消える。




 着替えを済ませて出てきた頃には、既に警察が到着していた。


 丁度、菅野達を起き上がらせ連行する最中で、その腕には手錠がかけられている。


 俺と神楽先輩は顔バレしてないので、奴らの光景を眺めながら悠々と通り過ぎて行く。


 ――悪党共め、ざまぁ!


 俺は心の中で叫んでみた。


 神楽先輩も隣でニヤついていたので、きっとそう思っていたに違いない。






──────────────────


いつもお読み頂きありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。

皆様の応援を頂ければ気合入れて更新を頑張っていきたいです(#^^#)


これからもどうぞ応援のほどお願いいたします!<(_ _)>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る