第94話 詩音と謎のデート
「デート? 週末、詩音と?」
次の日の朝。
教室に入った途端、詩音に誘われる。
「うん。前に約束してくれたしょ? デートしてくれるって~?」
「ああ……でも」
愛紗のことが頭に浮かんでしまう。
罪悪感とかじゃなく、既に約束しているからだ。
愛紗がお父さん会う時、俺も付き添うこと。
そうすることで、彼女も前向きに会うことができるんだ。
流石にこれだけは優先してあげなきゃと思う。
詩音なら説明すればわかってくれるけど、きっと俺だけに打ち明けてくれたことだから話すわけにはいかない。
「ちょっと待って……実は先約があるんだ。確認してからでいい?」
「え? 誰? まさか女ァ!?」
「そうだよ」
「サキ~!」
詩音はいきなりブチギレ、俺の両頬をつねってくる。
「痛てて! あ、愛紗だよ~! 前に約束したの知ってんじゃん!?」
「なーんだ、アイちゃんか……びっくりしたぁ」
幼馴染達には寛容な詩音だ。
「わかってくれたら、詩音さん……そろそろ指を離してくれません?」
「う~ん……サキの顔、面白いから、もう少しこうしてもいい? あ、ヒノッチ、写メ撮って~」
「おう、任せておけ」
「お前も任せておけじゃねーし! とっとと離せって言ってんだよぉ!」
それから、詩音に両頬をつままれたまま、リョウに写メを撮られる。
気付けば、シンや黒原まで呼ばれ画像に映っていた。
休み時間。
俺は愛紗のクラスに足を運んだ。
「サキくん、どうしたの?」
「少し話いい? 確認したいことがあって」
「いいよ」
人気のない場所に彼女を連れて行く。
つーか目立つ子だから、誰か彼かに見られている。
まぁ、会話が聞かれなければいいだろう。
「お父さんと会う日程とか決まった?」
「ううん、まだだよ。お母さんには、わたしが会ってもいいよって伝えているよ。勿論、サキくんが一緒にいてくれる条件でね……後はお父さんからの返答待ちかな?」
「そう……週末とかは?」
「今からじゃ、多分ないと思うよ。サキくんだって都合があるでしょ?」
「うん、実は詩音に誘われてね……俺的には愛紗との約束を優先したいんだ」
「サキくん……ありがとう。でも本当に正直だね。普通なら、そういう事は言わないのに」
「え? 俺、ズレてる?」
「うん……でもいい意味でね。だから信頼できるの」
愛紗は、にこっと微笑んでくれる。
言われてみれば「他の子に誘われている」なんて余計なことだったか?
けど、俺としては愛紗の約束と詩音の誘いも大切だ。
それにさっきの詩音の反応からも、あの幼馴染である三人間で下手な隠し事は必要ないのかなとも思えてしまう。
まぁ、個人のプライバシーは必要だけどね。
「わたしは大丈夫だよ、サキくん。詩音をよろしくね」
戸惑う俺に、愛紗は背中を押してくれる。
マジで天使だと思う。
正直に話して良かったかな?
それから。
「――っと、いうわけでいいよ、詩音」
「……なんか雑だけど。まぁ、いいかな。ありがとう~、サキ」
「んで、どこ行く?」
「あたしに付き添ってくれる形でいい?」
「いいよ、買い物か?」
「ん~……ちょっと違うかなぁ」
詩音は「にしし~、当日までお楽しみだよ~ん♪」っと得意の笑顔を向けた。
昼休み。
リョウが話し掛けてくる。
「サキ、そういやよぉ。耀平から聞いたけど、お前……あの『勇磨先輩』と揉めたんだって?」
流石、『情報屋の傭兵』だ。
そういうトラブルめいた情報の入手は早い。
「ああ。昨日、神楽先輩と『体育祭』の打合せの時にね……いきなり一方的に殴られそうになって、全部回避したけどな」
「そっか……俺は個人的にはあの人嫌いじゃないけどな。けど、ダチに手を上げるなら別だ。何かあったら言ってくれ」
嫌いじゃないか……俺は嫌いだけどね。
なんでも家柄もあり女子達にはモテるっぽいけど、俺からすればリョウやシンの方が余程男気があってカッコイイと思う。
「わかった、サンキュ。それより、リョウ――」
「ん?」
「その後、千夏さんとはどうなんだ?」
「……聞くなよ」
「え?」
「なんでもねぇ」
リョウはそっぽを向いてそれ以上何も答えようとしない。
え? えっ? えええーっ!?
何、この反応!?
あれ!? 修学旅行で手を握ったんじゃないのか!?
倦怠期、回避したんじゃないのか!?
一体何があったんだぁ、親友ッ!?
結局、それ以上、リョウから何も聞くことができなかった。
一緒にいたシンも当然知らないとのことだ。
週末のデート日。
待ち合わせ場所で、詩音と合流する。
いつもギャルっぽいセンスのいい服装だ。
けど、何か可笑しいぞ?
サングラスにマスクを着用している。
「詩音、どうした? 風邪でも引いたの?」
「……違うよ。完全スッピンだからねぇ」
スッピンだって? 確かにいつもは薄く化粧くらいはしていたか。
「寝坊でもしたの?」
「……違うよ。どうせ手直しされるから、しないだけ。行こ」
おまけに口調も『素』の時の彼女だ。
俺は詩音に腕を引っ張られる形で、急かされ歩かされる。
修学旅行の時のような甘々べったり感はほとんどない。
なんだろ? 一体、何処へ行かされるのだろうか?
そう思っていたら、ある大きな建物の前に辿り着いた。
「――撮影スタジオ?」
「そっ、これからバイトなんだ~」
「バイト? 前に言っていた読者モデルの?」
「そだよ。だからサキには一度、あたしのそういう姿を見てもらいたくて……あと、キミに会いたいって人もいたから」
「会いたい? 俺に? 誰が?」
「入ればわかるよ、行こ」
「ああ、うん……」
俺は詩音に促されるまま、スタジオの中に入った。
建物は広そうだが、人で密集している感じだった。
詩音は会うスタッフらしき人に愛想よく挨拶をして、メイク室に入る。
他のモデルと思われる女の子達と鏡の前で並んで座り、メイク担当のお姉さんにメイクを施される。
流石プロって感じも手つきで、詩音のくっきりとしたハーフ顔が見る見ると、より可愛く綺麗になっていく。
俺はどういうポジで待っていいかわからず、喧騒が溢れる中一人で佇みながら、ただ詩音だけを眺めていた。
「サキ、お待たせ、どう?」
詩音はメイクと着替えを終え、その姿を披露してくれる。
薄手のコートにロングスカートと普段の服装とは明らかに異なるスタイル。
なんていうか、凄く大人っぽくなった感じだ。
サイドテールの金髪はさらりとストレートに背中で揺られており、どこか品位と優雅さを醸し出している。
メイクもそれ仕様に合わせたのだろう。
「う、うん……とても綺麗だよ」
思わず本音をポロってしまう。
「へへへ、良かったぁ。そう言ってもらえると嬉しいよ。サキには沢山のあたしを見てもらいたいから……」
いつものギャルとは違う口調と微笑み。
その変貌に、より胸が高鳴ってきた。
あれから間もなくして、詩音は他のモデルの子達と一緒に撮影を始める。
俺は関係者と間違われたのか。その光景を間近で眺めることができた。
ころころと表情を変え姿形さえも変えていく、詩音。
いつも一緒にいるギャル風の彼女が本来の姿なのか?
それとも時折見せる『素』の感じが、そうなのか?
あるいは、目の前で色々な表情を見せている彼女が本当なのか?
何か幻想的な気持ちを抱いてしまう。
「サキーっ!」
詩音は俺に向けて手を振ってくれる。
最も輝いている笑顔を向けたままで。
そう。
一つだけ俺が言えること。
詩音はとても素敵な子だということだ。
外見だけじゃなく、内面も明るくて優しくて、そして心が強い。
ちょっぴり寂しがりやの焼き餅やきで、実は泣き虫でもある。
俺はそんな彼女に惹かれつつ、またどうして行きたいのか迷いつつあり……。
今は、この関係を大切に守っていきたい。
そう思っていた矢先――
「あら、キミ、神西くんじゃない?」
背後から、名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
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