第471話
ユールクスに嫌味のような呼び方をされたシェリーは大きくため息をはき出す。
「はぁー。繰り返しになりますが、私は必要だと思えば魔眼を使います。しかし、一つの戦い方に拘りすぎると、それが封じられてしまえば、ただの屍になる未来しかありません」
「屍か。しかし、神の目と言っていい魔眼を誰が封じるというのか?クククッ」
ユールクスはシェリーの言葉がおかしいと言わんばかりに笑い出す。確かに、女神ナディアが与えた力だ。女神の血と力を受け継いだラースの一族の者が普通の人族より勝ることは当たり前だが、そもそも神の血と力を持っている種族など、この世界には他に存在しない。そして、悪魔の持つ魔眼よりもラースの魔眼の方が強力だというのが一般的な常識だ。
ならば、いったい誰がラースの魔眼を封じることができるのいうのだろう。もし、その様なことが実際に起こったとすれば、それはラースの一族の者か、神如き力を持った何者か、神と呼ばれるモノだろう。
「一つ聞きたいのですが····」
笑っているユールクスに遠慮しながら、声をかける者がいた。リオンである。
「先程言っていたことは本当でしょうか?魔眼の力で操られれば最大限の力が引き出されるということです」
そう、ユールクスは言っていた魔眼で操ることで操った者の力を最大限に引き出すことができると。しかし、ダンジョンから出ることが出来ないユールクスがなぜその事を知っているのだろうか。
「ああ、討伐戦後に聞いた話であるがな」
ユールクスは聞いたと言っているが、このギラン共和国全土がユールクスのダンジョンである。いや、西の端にあるエルト以外はということが正確だろう。
そのユールクスが聞いたというのは、恐らく人々の噂話のことではないのだろうか。
「最終戦に参加した者が話していたが、ラースの二人の魔眼の力で操られたことにより、魔王を倒せたと。腹を切り裂かれようが、足がもげようが、腕が潰されようが、皆が戦い続けたと言っていた。己の力に耐えきれず武器の方が先に壊れてしまったと、普段ならあんな力を出せるものではない、流石ラースの魔眼だとな」
「ちっ!」
シェリーはその言葉に舌打ち返す。
そもそもだ。ラース公国を侵略しようと侵攻してきた暴君レイアルティス王の逸話からしてもおかしい話だったのだ。全国民が魔眼に操られ暴君レイアルティス王からの侵略を阻止したという話だ。
一般人が鍛え上げられた兵士を相手になどできるはずなどない。剣を持ったことのない者たちがまともに剣など振れるはずはないのだ。だが、昔話では暴君レイアルティス王を戦いから引かせるまでに至ったのだ。
それはそうだろう。普通であれば四肢の損傷で、戦意を無くし戦える状態でない国民が、自分たちの命を狙ってくるのだ。戦意を無くしてしまうのはどちらの方か。それはレイアルティス王の方だったのだ。『国を守る為にここまでの事を民に課すのか』と。
そして、ユールクスの説明に不快感を示したシェリーだが、シェリーが闘いにおいて魔眼を使うことはあった。それはもちろん猛将プラエフェクト将軍ただ一人だけだ。理由は以前シェリー自身が言っていたとおり聖女の心を蔑ろにした猛将プラエフェクト将軍への嫌がらせだった。
それもまた、死して世界の記憶から構成された存在のため、正確には生きた人ではない。
なにが、シェリーをそこまで魔眼に対して抵抗感をもたせるのか。それは先程ユールクスが言った言葉に原因がある。討伐戦の最終戦だ。
戦えない者まで戦わせる魔眼。その事により何が起こるか。魔眼から解放されれば、死する者が出てくることは勿論のこと、回復できないまでの傷を負う者も出てくるのだ。シェリーがばあやと慕うマルゴのように魔力が通る魔脈が傷付けば簡単には治癒することはできないのであった。
普通ではない異常な状態で戦い続けるということは、体に異常をきたしながらも、戦うのだ。それは魔脈回路も焼き切れるだろう。
「···それは戦いと呼べるものだったのか?」
ユールクスの言葉を聞いたリオンは、その戦況を想像してしまい、若干顔色が悪いようだ。
戦い。いや、彼らは生き残る事など考えてはいなかっただろう。ここで、魔の王を倒すことができなければ、己の家族が、友人が、恋人が、国が、生き残る未来が無くなることに等しかったのだ。
だから、戦いとは呼べるものではなかっただろう。強敵に立ち向かう羽虫の気分だったに違いない。
青狼クストが言っていた『俺たちは強くあらねばならなかった』と。
重い言葉だ。とても、とても重い言葉だ。
強くあることが求められたのだ。
「さぁ、我は実際にその場にいたわけではないので、わからない。だが、魔眼で力が引き出されることは本当だろう?ラースの姫君」
ユールクスはニヤリと笑いながら、シェリーに問いかける。ラースの魔眼は女神の神眼だ。神の力によって力を引き出され、戦わせる神兵と化す力。
神人であるラースの兵と成る力なのだ。
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