第457話


「で、団長に何の用なんっすか?」


 道を案内するように前を歩いている第6師団のグレットは疲れたように言った。別に第2層から第1層にかけて坂になっているため、疲れたということではない。


 南地区まで行ったところで衝撃な者を目にし、すぐさま団長であるクストに連絡を取ろうとしたところで、これまたここにいるはずのないグローリア国の騎士であったライターリエーレ・ヴァーリシクにぶん殴られ、意識を飛ばしていたのだ。目を覚ましたところフラフラになりながら、本日担当していた西地区の詰め所に立ち寄り、団長に報告することがあるから中央に戻ると伝言して戻っているところだったのだ。

 そこで、己の兄で一族の当主であるヒューレクレトに小言を言われているところに、オルクスに掴まってしまったのだった。



「青狼に『鉄牙のマリア』に会う許可をもらいに行く。シェリーから青狼に許可をもらってからじゃないと駄目だと言われたからな」


 オルクスは疲れた様子のグレットとは対象的に飄々とした感じで話している。


「マリアさんっすか?そおっすね。いつも公爵夫人につきっきりなんで、団長の許可はいるっすね」


 団長であるクストが公爵夫人を溺愛している姿をよく目にしているグレットは遠い目をして答える。それなら、仕方がないことだと。


 グレットが案内という形をとり、第6師団の第1層内の詰め所にたどり着いた。そこで、グレットは応接室に二人を押し込めて、団長であるクストを呼んでくると言って去って行く。


 しかし、直ぐに部屋の扉が開き入ってきたのは青狼獣人のルジオーネだった。


「おや?珍しい組み合わせですね。団長にどのようなご用件ですかね」


 その言葉にグレイがまず先に冒険者ギルドから渡された小銭でも入っていそうな小袋をローテーブルの上に置いた。


「まず、これがギルドから渡されたものな」


「ああ、追加の魔武器ですか。受け取りのサインはどちらに?」


 それにはオルクスがニールの名が入った依頼書兼受領書をルジオーネに差し出す。


「実は数日前ギランに行っていたんだが、次元の悪魔の前に立たされてな。討伐しろって言われたんだよ」


 用紙を差し出しながらオルクスは愚痴のように、ルジオーネに今回この場に来ることになったきっかけを話し出した。


「は?いつの話ですか?いつぞやかもギラン共和国に『次元の悪魔』が出現したと言っていたのではないのですか?」


 サインをした用紙をオルクスに返しながらルジオーネは困惑したように言った。


「いつの話と言われても10日ほど前のことだ」


「それに誰に言われたのです?」


「「·····」」


 誰に言われたと聞かれても、ダンジョンマスターからと言ってもいいのだろうか。そもそもギラン共和国全土にあるダンジョンのダンジョンマスターが国を護っているだなんて話してもいいことなのだろうか。オルクスとグレイには判断できない。


「シド総帥閣下からにしといてもらえるか?これは多分勝手に話したら怒れるヤツだ」


 オルクスでもその分別はあったようだ。いや、恐らく散々今までやらかして、怒られた後なのだろう。


「それでな、元部下が『鉄牙のマリア』が一撃で次元の悪魔を倒していたと言っていたから教えてもらおうと思ってな」


「なんですか?『次元の悪魔』如きで手間取ったのですか?」


 討伐戦を生き残ったルジオーネからすれば、雑魚に当たる『次元の悪魔』如きでという感じなのだろう。


 だが、ただの力技では硬質な悪魔の皮膚を斬ることも適わないのだ。


「そう言われてしまえば、そうだな。まともに戦えたのがスーウェンだけだったしなぁ」


 エルフ族のスーウェンのみが次元の悪魔に対して攻撃を加えることができたと。その言葉に対して、ルジオーネは頭が痛いと言わんばかりに、こめかみを押さえている。


「最近の若い者はまともに剣を振ることもできないのですね」


 なんだか、年寄りくさい言葉がルジオーネから出てきた。恐らく若い者とは討伐戦後の者たちという意味合いだろう。


「はぁ、古参の者たちはいいのですが、今どきの若者は魔武器すらまともに使えないし、武器に振り回されていると言っていいでしょうね。獣人としても能力を引き出しきていない」


 愚痴が混じってきている。今現在ルジオーネがぶつかっている問題なのだろう。魔武器を与えたものの、剣に振り回されるばかりで、まともに扱えない。軍に入ったことに満足し、その獣人としての能力の向上に必要を感じておらず、今の現状に満足している部下の者たち。


「ああ、取り引きといきませんか?あなた達が戦った次元の悪魔の情報を提示してもらう代わりに、こちらはあなた達に獣人として戦うすべを教えましょう」


 ルジオーネは何かを考えた後、目の前の獣人二人に取り引きを持ちかけた。しかし、その提案にグレイが待ったをかける。


「ちょっと待て、それはこっちの方がメリットがありすぎないか?」


 確かにルジオーネにとって雑魚でしか無い『次元の悪魔』の情報と、グレイとオルクスの二人に戦い方を教えるというものは、取り引きと言うにはあまりにも釣り合っていない。


「いいえ、こちらとしては今の不出来な者たちにやる気を出させて貰えばいいのですから」


 なぜ、ここまで古参と討伐戦後の者たちとの間に差ができてしまったのか、これはやはり、黒狼クロードの影響が大きかったのだろうと推察される事柄だった。


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