第236話
シェリーたちは軍本部を出て、同じ敷地内にある第6師団の詰め所に向かう。その間もすれ違う軍の者たちからの様々な視線を受けることとなったが、シェリーは無視をして第6師団の詰め所にたどり着き、横に視線を向ける。
真新しい第5師団の建物が建てられていた。壊れたままでよかったのにと思いながら、扉をノックする。
「何の用だ。」
中から扉が開き、蛇人の兵が顔を出した。シェリーの顔を見て
「うぇ?ラース嬢ちゃん?」
思ってもみない人物が目の前にいることで、戸惑っているようだ。この人物も黒髪のシェリーを知っており、幾度か顔を合わせている兵である。
「お久しぶりです。今日はギルドの依頼で魔剣を100本持ってきたのですが、何処に出せばよろしいでしょうか?」
「それは聞いているけど、俺には対応無理ッス。団長!」
そう言って、扉を閉めて第6師団長を呼びに行った。何の対応が無理なのか。
過去に色々シェリーの被害にあったため自分では対処しきれないと判断したためであった。
程なくして中からうんざりとした表情の青黒い髪に三角の耳が生えた黒目の男性が出てきた。
「なんで、嬢ちゃんが持ってくるんだ。それも危険極まりない者たちを引き連れて」
呼び出された第6師団長のクストが文句を言ってきた。
「冒険者も人手が足りないのですよ。依頼の魔剣は何処に出せばいいのですか?」
「こっちだ。」
クストは中に入るように促し、前を歩き出した。
「魔剣ぐらいユーフィアさんに作ってもらえば良かったのではないのですか?わざわざ、冒険者ギルドに依頼しなくても」
今回の依頼に疑問があるシェリーはサリーにした質問をクストにもしてみた。前を歩くクストはちらりと後ろを振り返り、シェリーを睨みつける。
「ユーフィアが作るものがどんな物か知っていて聞いてきているだろ。」
それなりにユーフィアと付き合いがあるシェリーはもちろんユーフィアの魔武器がどういう物かは理解している。
「ええ。でも、ユーフィアさんは頼めば、どの様な魔武器を作ってくれますよね。量産型なら造作もなく。」
「確かに頼めば嬉々として、作ってくれるだろうが、俺が個人的にユーフィアに武器を作ってほしくないだけだ。あと、早急に魔剣が必要になったからだ。公的に手に入れるより、ニールに頼んだ方が早いからな。」
「オーウィルディア様の案件ですか?」
オーウィルディアがもたらした魔眼の悪魔が出現したという報告のことだろう。
「ああ、早急に人材を育成しなければならなくなったからな。せめて、量産型の魔剣ぐらい扱えるぐらいにしとかないと・・・この倉庫に出してくれ。」
石造りの部屋には多種多様の武器が整然と並べられていた。その部屋にシェリーは入り、腰に付けてある鞄から何かを包んだような形の小さな布を取り出した。それを石の床に置き、シェリーが『解除』と言葉を紡ぐと結ばれた布が解け、布地が大きく広がり中からは剣の山が現れた。魔剣が100本存在していた。
「サインはサリーさんからいただいているので大丈夫です。これで依頼完了で問題ないですね。」
「ああ、問題ない。」
物をクストに確認してもらいシェリーはさっさとここを立ち去ろうと思っているとグレイがクストの前までやってきた。
「少し聞いていいか?」
「何だ?」
「どうやったら強くなれるのか。」
グレイはクストにそう尋ねた。きっと陽子から言われたことが引っかかっているのだろう。
「強く?俺は強くなろうと思ったことはない。強くあらなければならなかった。生きる為に仲間を守る為に人々の暮らしを守る為に、ただそれだけだ。」
あの討伐戦を戦い、生き抜いてきた者の言葉だ。強くなろうとする時間などなく、強くある必要があったのだと。
その言葉を語るクストの姿がある人物と重なった。シェリーのスキルで会ったことのある黒の狼獣人。強い意志をその黒い目に宿している黒き獣。しかし、シェリーはいつも歪だと感じていた黒狼。
女神ナディアが、シド総帥が、あの謎の生命体が名を上げた者。
「そういうこと。色々おかしい事がこれで繋がった。」
シェリーは思わず言葉を漏らした。
「あ?何だ?嬢ちゃん、何がおかしいんだ?」
シェリーのその言葉にまるで自分のあり方を否定されたように感じたクストがシェリーを睨む。
クストに睨まれてもシェリーは怯むことなく名を紡ぐ。
「黒狼クロードはこの国にいましたか?」
「クロードは俺の爺様だ。」
直ぐにクストから答えが返ってきた。その答えを聞いたシェリーはグレイに向かって言う。
「グレイさん。残念ながら第6師団長さんの強さは変革者のクロードさんの影響を受けたことにより得られたものなので、参考にはなりませんよ。いえ、逆に参考になるのでしょうか。」
変革者の影響を強く受けたガレーネをラースに取り入れた女神ナディアの神威がそこにあるとすれば、これはグレイにとって必要なこと。
「なんで、嬢ちゃんから爺様の名が出てくるんだ。」
クストが不審な目をしながら聞いてきた。
「名前はここ最近知りましたが、お会いしたことがありましたので」
「嘘をつくな。爺様は討伐戦で命を落とした。嬢ちゃんは生まれていないじゃないか。」
「お会いしますか?」
シェリーは手を前にかかげる。魔力を帯びた手をクストの前に突き出した。
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