第74話

 シェリーの魔力は殆ど使いきってしまったが、まだやることがある。『毒の水』。何に毒の水が入っていたのか確認しなければならない。


「シェリー大丈夫?」


 カイルが手を差し出してくれているが、ピクリと指先が動くぐらいで腕が上がらなかった。


「大丈夫じゃないみたいだね。」


 カイルはそう言ってシェリーを抱き上げた。横抱きである。


「少し休めば歩けます。」


「大丈夫だよ。」


 何が大丈夫なんだ?ため息がでる。


「先に水場を探してください。」


「水場?」


「村の状態を確認した時、蠱毒の壷というものでした。『毒の水を体内に含むことで、意識が混濁し、己以外を排除しようとする。そして、最後の一人には全てが授けられる。別名魔王の卵』と」


「魔王の卵!」


 グレイが思わず声を上げる。


「村全体は浄化したのですが、その毒の水がどうなっているかを確認しなければなりません。」


「それは私が調べて見ましょう。」


 スーウェンが地面に膝と手を付け、魔力を練り上げる。『探知』短いその言葉と共に魔力が地面を這うように広がった。シェリーのマップスキルと同じような物を魔導で構築のだろう。


「あっちの山の中腹に何かあります。」


 スーウェンが指した方向の山の中腹には確かに黒い固まりの様なものがみえる。カイルに横抱きにされながらシェリーは山の中腹を目指す。


「これか?」


 グレイが指した先には川の水が3メルの高さから落ちている滝壺があった。黒いヘドロが溜まった水底の様な水面にポコポコ泡が出ていた。


「そのようです。」


 シェリーは真理の目で見てみる。『蠱毒の源』間違いない。魔力は足りるだろうか。しかし、ここで始末をつけないといけない。地面に下ろして貰い滝壺に向けて手を翳す。


「『浄化の炎』」


 水面の表面は覆われたが、中の方まで届かないようだ。やはり、魔力が足りない。鞄からオリバー特性の魔力回復ドリンクを出す。本当は使いたくなかった。何が入っているかわからないが、効力は保証できる。しかし、この世のモノとは思えない程クソまずいのだ。せめて、丸薬ぐらいにして欲しい。


 シェリーは一気に飲み干し、水で流し込む、その味を経験済みなのか、カイルがかわいそうな子を見る目で見てくる。手の開閉を繰り返し、魔力がうまく練ることができるのを確認して、再度、滝壺に向かう。


「『浄化の炎』」


 今度は勢いよく滝壺を巡り中の蠱毒の源を全て白い炎で浄化した。

 シェリーは安堵のため息を吐く。滝壺には新たに上流から水が足されているが、その水が濁ることはなかった。


 そのあと、村に降りていったが、村の中はシェリーの浄化によりキレイな状態になっていた。そう、生きている人以外の人はいなくなっていたのだ。

 生きていた村人は6人だけで全てが男性だった。皆、満身創痍の状態で聖女候補が来るのを待ってられる状況ではなく、村人の意識が混濁していたので、怪しまれない程度に傷を直し、近くの町まで送ることになった。

 多分、本格的に何かしらの調査が入ることになるが、調べてもシェリーが全てを浄化したため、何も分からないだろう。


 六人の村人を誰かの家に置いてあった屋根がない荷馬車にのせ、スーウェンの騎獣に引かせる。スーウェンの騎獣は軍国主義のマルス帝国で購入したものだ。蜥蜴に翼の生えた竜トカゲという種類なので、力が強くマルス帝国などでは、馬車を引くのによく使われている。その竜トカゲに荷馬車を繋ぎ、6キロメルkm先の町まで運ぶのだ。

 来た道を戻るなか、道の端にキノコが生えそうなぐらい項垂れているオルクス・ガナートがいた。


「おい、大丈夫か?」


 グレイが近寄り声を掛けるが返事がない。シェリーは気にせずにそのまま通り過ぎるが、グレイに引き留められた。


「シェリー、こいつ置いて行くのか?」


「返事をしない生きているか、死んでいるか分からないモノを連れていけと?」


「生きているから!」


「そもそも、勝手に付いて来ただけなのですから、放置しても問題ないのでは?ああ、忘れていました。」


 シェリーはオルクスの前に立ち、赤黒い表紙の本を回収する。


「返してもらうのを忘れてました。動かない人より、怪我人を町に運ぶ方が優先されます。」


 正論だ。確かに正論なんだが、違う様な気がする。

 シェリーが立ち去ろうとしたとき、シェリーの手首をオルクスが掴んだ。


「これはなんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る