第67話
校舎を出ると、ここの学生だろう少年達が敷地内を行き来している姿が見受けられた。シェリーはルークに会いたかったが、姉が顔を出すと迷惑になるかもしれいと思いグッと我慢をする。
そもそも何しに来たのかと問われてしまえば、正直に学園から出ていけと言われたなどと口が裂けても言えないことだった。
シェリーはカイルと共に来た道を戻っていく。
しかし、突然後ろから
「姉さんどうしたの!学園にいるなんて。」
シェリーを見つけて走って来たのか、肩で息をしている学生服姿のルークが後ろにいた。
「ルーちゃん、元気だった?お姉ちゃんすーっごく心配してたのよ。」
シェリーは後ろを振り向き満面の笑みでルークに近づく。
「カイルさんまで何かあったの?」
不安な表情を見せるルークに対してシェリーは笑顔のまま、ルークの頬に手を添え
「ルーちゃんがお世話になっているからね、寄付しに来たのよ。」
その言葉に何か気づいたルークは顔をうつ向け
「ごめん。僕のせいだよね。」
「ルーちゃん何も悪いことしてないでしょ?」
「でも。」
「学園に入る前にお姉ちゃん言ったよね。最小年齢で入学したら、何か言われるかもしれない。騎士の剣が使えていることに何か言われるかもしれない。魔導師として術式が使えることに何か言われるかもしれない。
でもこれはルーちゃんが努力した結果の証だから堂々としていなさいって、ルーちゃんはやりたい事をやればいいのよ。お姉ちゃんはそれを全力で応援するだけ。」
「うん。」
「今回の寄付も端金だからいいのよ。」
大量の高純度の魔石は端金とは表現しない。しかし、シェリーにとっては推しメンに課金する感じなのだろう。
「ありがとう、姉さん。」
そう笑顔で、ルークに言われるだけで、シェリーはデレデレである。
しかし、そこに割り入る声があった。
「おい、パシリ何勝手にどっか行ってんだ。」
声の方を見るとルークよりも年上の学生服を着た少年が立っていた。学生服には学年ごとにラインの色が違うが少年の学年を表す色はルークと同じ青色で今年入学した学生と思われた。しかし、シェリーは先程耳に入った言葉が気になった。パシリ・・・。
「わたしのルーちゃんをパシリに使うあんたは何様?」
シェリーが笑顔で少年に近づく。ルークは少年の危険を察知し、シェリーを止めようとするが
「姉さんちょっと待って。」
「ルーちゃん、お姉ちゃんはすこおしおはなしするだけだよー。」
シェリーの目が完全にイっていた。
「姉?全然似ていないブスだな。」
その言葉にルークとカイルが殺意を向ける。
「ひぃっ。」
腰を抜かしそうになる少年の胸ぐらをシェリーは掴み自分の目線に合わせる。
「で、どこのどなた様?」
「テュランティーノ・シーラン。だ、第一王子だ。」
「はん。第一王子様がわたしのルーちゃんをなぜパシリに使っているのですかね。」
シーラン王国の第一王子テュランティーノ・シーラン16歳。シーラン王国の王族の象徴でもある金髪碧眼の狐獣人だ。
はっきり言えば見た瞬間、狐獣人の金髪碧眼と言えばこの国の王族だとわかることなのだ。別のシェリーが王族の特徴を知らなかったわけではない。
ルークのためなら貴族だろうが王族だろうが喧嘩を売るのがシェリーである。
「第一王子である俺にこんなことをして、ただで済むと思うなよ。」
「第一王子の代わりなんて、いくらでもいるのですよお。第二王子だって、第三王子だっているのですから、16歳にもなって何も成していない、親の脛を齧っている王子なんて、いなくてもいいのではないのですかね。」
シェリーは王子の目を除き込むようにして心を抉る言葉を発する。騎士養成学園は13歳から入学資格が得られるのに彼は16歳だ。ということは3回落ちたことになる。
「うわ━━━━何やってんですか。」
シェリーと第一王子の間に一陣の風が駆け抜ける。シェリーの手から第一王子の姿が消え、新たに現れた男の脇に抱えられていた。
「ブライさんじゃないですか。よく、変わったところで会いますよね。」
その男は先程、学園長の前にいた。第4師団長のブライであった。
「俺は会いたくないがこれも仕事なんだ。」
「お疲れさまです。それで、そのクソ狐を渡してくださいませんか。」
「渡したら、大変なことになるだろ。おい、『銀爪のカイル』そこのラースの嬢ちゃんを止めてくれ。」
「ん?俺はシェリーの考えに賛成するよ。」
「ええ!ラースの嬢ちゃん、この件は俺に預けてもらえないだろうか。」
「え?それもう8回目ですよ。」
シェリーがどれだけ問題行動を起こしたか、わかる数だ。
「この前のウザうさぎもそうでしたよね。」
「おう。いやでもな、これでも第一王子なんだよ。」
これでも・・・。その言葉を聞いたテュランティーノ・シーランは項垂れる。
「はぁ。わかりました。必ずそっちで締めてください。」
「了解。」
そう言ってブライは消えた。
「王子勘弁してください。なんで、ラースに喧嘩を売るんですか。陛下からも忠告されていましたよね。ラースには手を出してはいけないと。」
「なに言っているんだ。ルークの氏はカークスだぞ。」
「王子もしかしてラースの目の事を知らないのですか。」
「なんだ?それは。」
「はぁ。そんなんだからラースの嬢ちゃんに、代わりはいるって言われてしまうのですよ。」
ブライはそう言って、第一王子にトドメを刺した。
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