第57話

「兄上と血が繋がっていなかったなんて。」


 兄として慕っていた存在が全くの赤の他人だったことにショックを表すグレイ。


「魔人とはすごい力を持ってるね。一番上の兄上を思い出したよ。」


 それは、セイルーン竜王国の第一王子だろうか。


「姉上は一体何をしたんだ。」


 姉の仕出かしたことはことのほか大きいと想像して頭を抱えるスーウェン。


 三者三様の行動を取っているなか、シェリーは立ち上がり、スーウェンの前に立つ。シェリーが近づいて来たことに、顔を上げるスーウェン。シェリーはスーウェンの額に指を置き。


「『呪術浄化』」


 シェリーが唱えるとスーウェンの額にあった青い石が粉雪のように消え去った。


「用は済んだので、シャーレン精霊王国にさっさと帰ってください。」


 愕然とするスーウェン。


「ご主人様に捨てられるのですか?」


「何を言っているのです。元々、あなたを買ったお金はラース家から出たものですし、用が済んだので家に帰って下さいと言っているのです。グレイさんもこれからラース家のことで色々ありそうですから、もうついて来ないでくださいね。」


 スーウェンの次にグレイまで言われさっきまで悩み事が一気に吹っ飛び椅子をひっくり返しながら立ち上がりシェリーのところに転がるように行く。


「俺も捨てられるのか。」


「グレイさんはもともと拾っていません。このまま、ラース家に残ってください。」


 打ちひしがれるグレイ。そこにカイルがシェリーに言う。


「さっき大公閣下が聖女ビアンカの子供でディアの名前がつく子供を跡取りとするって言っていたけどシェリーも入るんじゃない?」


「その件は問題ありません。5年前に閣下を訪ね。

私とルーちゃんにディアの名前をもらって継承権は放棄をしています。ピンクの目はラース家特有だと知って問題が起こらない内に対処しています。」


「さすがにシェリーだね。ルーク絡みだと対応が早いね。」


「というわけで、わたしはシーラン王国に帰ります。」


「シェリーお願いだ。捨てないで」

「ご主人様捨てないでください。」


 シェリーは二人に懇願されるが


「人聞きが悪い。」


 といって、虫けらを見るような目で二人をみる。


「いや、番の威力ってのはすごいな。プライドの塊といっていい、金狼族とエルフ族が懇願しているなんて。」


 そう言って入ってきたのは第一公子のギルバートであった。

 ギルバートが部屋に入って来たことでグレイが戸惑いをみせオロオロし始めた。


「ああ、もしかしてグレイ知ってしまったのか。見れば父上の血が入っていないのはわかってしまうことなのだが、いつまで兄上と慕ってくれるのがと思っていたんだが、案外わからないものなのかな?」


「わたしは5年前すぐに分かりましたよ。継承権を放棄しないと面倒なことになりそうだなと思いましたし。」


「そうだよね。」


 ギルバートは薄い青い髪に紫の目、エルフ族に見られる寒色系の色合いである。ラース家特有の赤みのある色合いが全くないのだ。


 グレイでさえ、金狼族の特徴は出ているが、髪も目も赤みが強く出ている。


「取り合えず、放浪の旅に出ていた叔父上を呼びも「長居は無用なので失礼します。」だ・・・。」


 シェリーはギルバートの言葉を遮り、出ていこうとする。慌てて三人も着いていこうとしていると


「私の可愛いシェリー。」


 という声と共に視界が塞がれ拘束された。

視界が塞がれたのは厚い肉壁でふさがれ、筋肉という名の腕に抱かれていた。


「っふ」


  スキル『聖人の正拳』。下から捻り込むようにアッパーをくらわし、顎にヒットする。


「いいパンチだわ。ぐっふ。」


 シェリーのスクリューアッパーをくらい膝から崩れる男がいた。


「「叔父上」」


 ギルバートとグレイが助け起こす。助け起こされた男は薄いピンクの髪にピンクの瞳の40歳位の大男だった。


「シェリーちゃん相変わらず凄まじい攻撃力だわ。」


 なぜか女言葉だ。


「お久しぶりです。オーウィルディア・ラース様」


「いやだ。そんな他人行儀でウィルおじさまでもオーちゃんでもいいわよ。」


 シェリーの目が段々据わってきた。

 この男オーウィルディア・ラースはビアンカルディア・コジマの双子の兄である。30年前の討伐隊に加わり聖女ビアンカとは別の遊撃隊に所属していた猛者だ。

 魔王討伐後は冒険者としてあちらこちらに放浪していた。そんなときであるシェリーとオーウィルディアがであったのは。


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