第1話 力の在りか 09
(承前)
「てめぇかァ、このくそガキがァァ……!」
ロイディの放った弦針の刺さった腕をもう片方の腕で押さえながら、やってきたロイディを凝視する。
この一撃で男は頭に血が上り、いかにも冷静さを欠いて見える。
「お前はお呼びじゃねぇんだよ、デクノボウ」
「んだとォコラァ!」
言葉での挑発に、いかにもな反応。
「偉そうに説教してたくせに今の状況把握もまともにできてない。ルールの番人気取りが笑わせるぜ」
「おいガキぃ……てめえが何者だろうがなあ……ここで俺たち『ダンプ・スタンプ』に逆らって無事で済むルールはねえんだよ……わかるかァ?」
「やるのか? ………おい、いいんだな?」
ロイディの視線は対峙している男に向いていない。
つまり、発した言葉も、男に向けてのものではなく。
「ガキが何様のつもりだコラァ !!」
男が傷ついた腕と反対の腕を振り上げる。素人を脅すには効果的な動作なのだろう。
ロイディにとっては溜め息を吐く余裕ができる。
そしてさらに呼吸を合わせ、相手を迎撃する余裕を生む。
先ほどはタイミングを合わせた投擲だったが、近接した攻撃に対しても要領は同じ。
男の左腕の大振りに対して自分が何時、何処に位置すべきか。
相手の力を無効化できる最低限の動作は。
相手の力を最大限利用してこちらの攻撃力に転換するには。
男の体型や予備動作を入力情報とし、その後の攻撃動作を予測。
こちらが動作する直前まで情報入力と予測の修正を繰り返し。
「らぁッッ!!」
男が吠えている。
ロイディは身を屈ませつつ駆動装甲を当てた右腕を、男の腕の内側へ滑り込ませるように伸ばす。
男の腕を外側に反らせ、体勢を崩す。
大柄な男の懐に入り込み。
倒れ込んでくるその体の首筋に滑らせた駆動装甲の尖頭部を当てる。
「ぶぐくっ」
言葉にならない呻き声が男の喉から漏れるや、振り抜いた腕に自分自身が振り回されたようによろめき、そのまま地面に倒れ混む。
ロイディはそのすぐそばに立って男の方を見てもいない。
周囲のだれもが言葉を失い、ロイディが行った一瞬の行為に目を見開いていた。
ロイディはそんな周囲の視線には何の興味もない風に、後ろに縮こまっていた少年少女に声をかける。
「怖いだろ?」
少年も少女も瞬間、きょとんとするが、ぎこちなく首を縦に振る。
「もうちょっとはやく怖さに気がつくべきだったな。こいつらのやり方はダサいけど、残念ながら言ってることも間違ってない」
二人の頭の中に疑問符が浮かんでいるのが表情からはっきりとわかる。
「どこにでもルールはある、ってことさ。ここのようなクソみたいな場所にも、クソみたいだけどルールはある。人が集まると人のためのルールができるし、世界には世界の、人のちっぽけなルールとはスケールが違うルールがある」
「ルール……」呟いたのは少女のほう。
ルールという言葉に込められたロイディの真意をはかろうとして、か。
「ルールは力だ。俺たちを縛る力でもあるけど、ルールを理解すれば逆に俺たちの力になる」
「力に……?」
今度は少年のほうだった。
「そう。どこにでも力は働いてる。自分が使える力は何か、自分に攻めてくる力は何か、知らずに動くのは命知らずだ。子供の甘えも許されない」
「うぅ……ッ」
少女が俯く。唇を噛みしめ、嗚咽を上げるのを堪えている。
「……どうすれば力が手に入るんだよっ! 俺には、おれには何にもっ……」
地面に手を付き叫ぶ少年にロイディはその手を取って立ち上がらせる。
「俺だって大して力はねぇよ」
「でも……」
崩れ落ちたまま動かない大男のほうを見やる少年。
「………こんなのはさ、大したことじゃないよ。下らない、ちっぽけな力だ」
溜め息をつく。
「そうだった。待ってな」
ロイディは男のいるほうに向き直って近づき、
「いるんだろ? おまえらどういうつもりだ? いつからまたこんなやり方を始めた? それとも千年祭でおまえらも羽目を外したってのか!」
周囲を囲む人々のさらに向こうに言い放った。
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