一章11 『ロン』
親分のウーソウの攻撃は、麻燐にあっさりと捌(さば)かれる。
もうこの頃になると俺は――多分、他の二人も――自分の身を守れる光円を出現させる筒子(ピンズ)と相手の捨て牌の効果を下げる西(シャー)、技を封じるイーソウ以外には何も期待しなくなっていた。
麻燐が立直(リーチ)後の、二枚目の牌を捨てる。
イーワン――火球を出現させ、敵にぶつける攻撃を発動できる。RPG風に言えばファイアーボールか。
萬子(マンズ)の中では一番弱い牌なのだが、麻燐に使わせると超強力な一撃に化けてしまう。柚衣はともかく、俺と山賊は攻撃される度(たび)に必死になって防いでいた。
今回は山賊の方に飛んでいったので助かった。もしかしたら蓄えている光円が一番多いからかもしれない。
「うぉっ、きっ、来たっすよ!?」
「まっ、守るでごわすッ、光円ッ!」
十四枚の光円が彼等の前に集まる。
ぶち当たった火球はまるでクッキーのごとく光円を食らっていく。
次々と光円は砕けていき、十四枚あった光円がたった二枚まで減らされる。
「あっ、危なかったっす……」
「こんな威力、は、反則っすよ……」
「ええいっ、気を抜くなでごわす! 戦いはまだ続いてるでごわすよッ!!」
なんだかんだ言って、まだ少し余裕がありそうだ。
少しほっとする。
次に俺が引いた牌はサンピンだった。
これは一応、麻燐に対する準安全牌である。
山賊の川にはサンピンがあり、手牌を作るのに鳴かれていないため必要ない可能性がある。
また麻燐の捨て牌にはローピン。
手牌を作るうえで基本の順子(シュンツ)は連続する三つの数字によって作られる。
立直をかける時は、両面(リャンメン)――4・5などの連続する二つの数字で未完成の順子を残して聴牌(テンパイ)させるのを好む人が多い。作りやすいうえに待ちを増やしやすいからだ。
となると今回のように6を捨てている場合、4・5と7・8の両面は候補から外れやすくなる。仮にその形で待っていても、フリテン――今回のケースでは自身の上がり牌が一枚でも川に捨てたものと被(かぶ)っている時、ロン上がりができなくなるということ――になるため、振り込む心配はない。
つまり6を順子に含む4・5の両面、3も安全牌の確率が高くなる。
ただ待ちには他にもペンチャン、シャンポン、カンチャンがあるから絶対に安全とは言い切れないが……。まあ、何か捨てないといけないのだから、安全牌がない以上、振り込む確率の低い牌を選ぶしかない。
俺はサンピンを切って川に流した。
光円が三枚出現し、十四枚になる。
次に狙われるのはきっと俺だろうな……と思うとゾッとした。
柚衣は安全牌であるチーソウ、山賊も一巡前に俺が捨てたリャンピンを切る。立直をかけた後に見逃した牌では上がれないため、麻燐がパーワンを捨てた後に切られた牌は、彼女に対しての安全牌になる。
また筒子を切ったため、山賊の光円が二枚追加され四枚になる。ただイーワン一枚で十二枚壊されるのだから、気休めにしかならないが……。
麻燐はローピンをツモ切り。まるでアテにしていない光円が六枚増える。
俺の手番が回ってきた。
ツモはウーソウだ。
染めに手が進むいい牌だ。親リーがかかっていなければ、喜んで歓迎できたことだろう。
ただできうることなら今は安全牌か、そうでなければ対々和(トイトイ)に使えるチューピンかパーソウがよかった。
ここで何を切るかだが、対々和の形を崩してチューピン、イーソウ、パーソウ、チューソウのどれかか、あるいは白かウーソウだ。
どれも通りそうだが一抹の危険を残す牌ばかりだ。もし和了(ホーラ)されるとしたらカンチャンかシャンポンだろうな、という気がする。つまり安牌(アンパイ)を読みにくい。
今更ながら、發を鳴いたことが悔やまれる。川に一枚並び手牌に二枚ある役牌は、回避に使うにはうってつけなのだが……。
悔やんでも仕方ない。それより今は選択だ。
降りるか、突っ張るか――。
このままウーソウを切って白が来るのを待ち、八を二枚切って聴牌、さらに白が来て上がれれば混老頭(ホンロウトウ)、対々和、鳴かなければ三暗刻(サンアンコウ)、役牌二翻(リャンハン)の8翻(パーハン)50符で16000の倍満だ。運よく麻燐に直撃すれば、その時点でノックアウトできて対局を終えられるかもしれない。
そのうえウーソウは安牌だ。二巡前に山賊が切っている。
……だがこの先、ローソウやスーソウが来て染めの流れが来ないとも限らない。
となるとチューソウを切るべきだが、対々和も……。
考えた末、俺は明らかに浮いている白を斬撃風で断ち切った
宙に牌が表示され――るやいなや。
「ロン」
和了(ホーラ)の声が、響いた……。
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