大ちゃんって呼ばせてよ 第2話
「……ちょ、待って」
「待ちません! 決めたから。そんでゆくゆく梅田家のお嫁さんにしてもらいます!」
「う……さすがに気ぃ早すぎじゃろ!」
「早くなんかないよ。ご家族からは公認もらってるし! この前泊まった時に!」
「家族より本人が先や! ちうか泊まった!? いつ、なんで」
「泊まりましたよ、二泊。しかも大吉くんのベッドで寝たし」
「はあ!?」
「ねえ、嫌ですか!? 私のこと!」
「えっ……」
そんなまっすぐ見つめられても困る。とても困る。
「だから……タイプ、ではない」
もちろん目は見れんかった。
「じゃあどんな人がタイプなの?」
「うーん……清楚系?」
「真逆じゃんか!」
「やから言うとるやろが」
ため息をついてアイスカフェオレを飲んだ。向かいのギャルの前にはよくわからんカタカナの長い名前の黒いタピオカだかが沈む甘ったるそうな飲み物が置かれている。
「そもそも俺なん、どこがええん?」
自慢やないけどこれまでモテたことなんかない。まあそれなりに彼女がいたことはあったけど、ここ最近はいろいろと忙しいのもあってほんまにそういう話はなかった。
まさかと思うけどドッキリとか詐欺とかそういう可能性もなくはない。そんくらい思うもん、こんなん。
「えー……顔?」
「はあ?」顔がええはずないじゃろ。
「大事にしてくれそう」
「ふわっとした理由やな」
「あそうだ、楽器、できるんですよね?」
「……まあ」
「トランペットを」
「……まあ」
「めっちゃ上手なんですよね?」
「いや、普通レベル」
「いや。桃音ちゃん情報だもん、嘘じゃないはず」
「……」
トランペットは……たしかに吹ける。中学からずっと吹奏楽部やし、大学ではサークルに加えてバンド活動とかもやりよる。別で楽団にも入ってて最近忙しい言うんはほぼほぼそれのせい。
「聴きたいです。見たい! 吹いてるところ」
「絶対いや」
「ええ、なんで?」
「……」
演奏や歌に魔力があるんはよく知っていた。周りにもそんな話がゴロゴロあったし、実際これまで自分が付き合った彼女もみんなそれで告白してきよったもんな。
──「ラッパ吹いてんのがカッコよくて」
決まり文句じゃ。けどそれは、ほんまの俺を見てくれてない。言うたら悪いけど、勝手に幻想抱いて、勝手に幻滅して去ってく、そんな感じ。俺かて相手と真剣に向き合おうと努力しよったち言うのに、ほんまにあいつら人の心を弄びよって……。
「楽器できるヤツと付き合いたい言うんならほか当たって」
「ああ、トラウマ持ち?」
「そんなんちゃうけど」
まあそんなもんやけど。
「私は違うよ。私はちゃんと大吉くんを見てるもん」
「『大吉くん』言うなって」
「ならなんて呼べばいいの?」
ちうか敬語どうした。まあ、ええけど。
「……
「梅吉? それは梅田 大吉だから?」
「そう。周りはほぼ全員それ呼びやし、俺自身もそれがいい」
「ええー、みんなと一緒?」
「一緒でええじゃろ、彼女でもないのに」
「なら彼女にしてくれたらいいのに」
「いや、せやから」
ほんまに、なんなんやこの子。
「うーん、なんでダメなの? この服装?」
「いや……」
自分を指さすその爪はどういう趣味か鮮やかな青色でギラギラとしていた。下手したら武器にもなりそうや。ああ、なるほど宇宙のイメージ……? 未知なる遭遇……。ああいや、あんまり身なりのことばっか言うても傷つけそうや。
「あ! ならこれから買いに行こうよ、清楚系の服!」
「え!?」
はあ? うそやん、正気か? なんでそうなる!
「大吉くんの好みの女の子に、なったげるよ私」
「いや……無理じゃろ」
「ん、失礼だね、なれるっての」
いや……服どうこう、ちうよりその、中身は変わらんやろうし、ね?
こうして半ば強引に、俺は服屋へと引っ張られた。え、どうなるんや、俺。
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