第26話 硝子をつくりたい②

 ミズイガハラへ戻った俺は、最後の材料を準備し始めた。


 この材料は手間だけはかかるものの、街中で完結するので楽と言えば楽だ。


 俺はまず、その辺りに生えている草や落ちている木の枝をひたすらに集めた。

 そして、集めた草木を燃やす。植物の灰や炭が最後の材料のキーアイテムなのだ。


 こうして出来た灰や炭を今度は鍋に入れ、煮詰めていく。煮詰めることで灰や炭に含まれる成分を抽出していく。


 今回必要とするのはこの成分だ。


 ある程度煮詰めた所で灰や炭などの不純物を取り除く。漉し器コシキでもあればいいのだが、そんなものはないため、地道な手作業となる。


 もういいか......。

 さすがに面倒になった俺は、大まかに目立つ不純物を取り除いた時点で作業を終えた。


 あとは煮詰めた水分が蒸発し切るまで天日干しをすれば完成となる。


 これで材料は揃った。次は材料を溶かす炉の準備に取り掛かる。

 基本はアレクの牧場でつくった燻製窯のつくりを応用することにした。


 変更点としては、炉の内部に材料を溶かすための受け台を設置し、炉の裏側には溶かした材料を排出するための拳大の穴を設け、その穴から地面付近まで溶解物を流し落とすための経路も設置した。


 一度つくっていることもあり、順調に作業が進んでいく。


 今回は高さが必要ではないため、なんとか一日でつくることができた。


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 そして翌日も硝子づくりの準備を進める。

 最後の準備としては炉で溶かした硝子を板状に成形する道具をつくる。


 と言っても、炉から流れ出た硝子を受けて平らに均すナラスだけではあるが。


 受けるものとしては、鉄板であれば加熱された硝子で燃えることもなく、かつ平滑性が高いため最適だ。

 しかし残念なことに、この世界では鉄を平らにする技術はない。


 そこで今回は鉄平石テッペイセキを利用することにした。

 密度の低い一部のものを除いた石材は、表面を研磨してあげることで、非常に高い平滑度を示す。

 これは石材の密度が非常に高く、内部に空隙クウゲキが少ないことに起因している。

 表面の平滑度が低いと、溶けた硝子が凸凹に食いついてしまい剥がれなくなってしまう。そのため、平滑度は最重要な要素であると言えよう。


 そうして俺は何枚もの鉄平石テッペイセキの表面を研磨していった。

 しかし、地味ながらも存外に疲れる作業であり、結局この日は研磨だけで終わってしまった。


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 翌日も引き続き硝子づくりの準備を進めていく。


 この日の最初の作業としては、炉への火入れを行った。材料を溶かし、硝子にするためには炉の温度を1500度を超えるほどに保たなくてはならない。この世界でそこまでの高温に至らしめるには、相応の時間がかかるであろう。


 準備自体はあと半日もあれば十分終わるであろうことから、先んじて炉を温めておく選択をした。


 そして次は昨日研磨した複数枚の鉄平石テッペイセキ瀝青アスファルトを利用し一枚の大判となるように接着していく。

 繋ぎ目には鉄平石テッペイセキの小さな破片を詰め込みながら瀝青アスファルトで繋ぎ合わせる。

 そして繋ぎ目の凹凸がなくなるよう、更に研磨を加える。


 受け材はこれで完成だ。


 あとは平らに均すナラスための道具だが、これも鉄平石テッペイセキを研磨をしたもので充分であろう。

 ただ、鉄平石テッペイセキの辺を当てながら均すナラスことになるため、辺もよく研磨して直線に近くなるように加工した。


 これで全ての準備が整った。

 炉の温度のほうも丁度良くなってきたように思える。


 俺ははやる気持ちを抑えつつ、材料を丁寧に混ぜ合わせた。

 特に砂漠の砂や鍾乳石は粗ければ粗いほど溶けにくく、失敗の元となる。そのため、この二つは徹底的に細かくすり潰しておく。


 そしてついに材料を投入する時がきた。

 炉の蓋を開け、受け台へと材料を投入する。炉内は非常に高温であり、素手での投入は困難なため、ここでは小さなトンボの様な道具を利用した。


 そして即座に蓋を閉める。

 材料がしっかりと溶け切るまでにはそれなりの時間が掛かるであろう。

 だが、その間も火力を維持しなくてはならない。


 そのため、ここからは火力の様子をみながら薪や瀝青アスファルトを随時投入していく地道な作業となった。


 ──火番を始めて二時間ほど経ったであろうか。ちょうど飽きが出始めたころ、レイミが俺を訪ねてやってきた。


 なにやら硝子が何であるのか気になっていたようだ。


「これが硝子なの!?」

 レイミは驚いた様子で溶融炉を指している。

 なにやら盛大な勘違いをしているようだ。


「いえ、これは硝子の材料を溶かすための炉で、硝子の元がこの中に入ってるんですよ。レイミさんと取りに行った砂漠の砂もこの中に入ってます」

 俺はそう言うと、炉の蓋を開けてみせた。


「へー! よくわからないけどすごいね!!」

 そう言うレイミの顔はとぼけた顔をしており、何もわかっていないだろうことは明白であった。


「そろそろかな? ちょっと見ててください」

 俺はそう言うと、溶融炉背面の排出口を開けてみせた。

 すると排出口からは溶融された赤熱色の硝子が、ものすごい熱気を放ちながらゆっくりゆっくりと流れ出す。

 それはまるで溶かした鉄のごとくどろっとしていた。


 すかさず俺は小さなトンボ型の道具を使い、鉄平石テッペイセキの受けへと急いでかき出す。

 ここからは時間との勝負だ。悠長にしているとすぐに固まってしまう。


 隣で「おおー」「すごい」と反応しているレイミには目もくれず、一心不乱に没頭した。


 受けにかき出した硝子を準備した鉄平石テッペイセキを利用し、平らに均してナラシテいく。厚すぎず薄すぎず、6ミリメートル程度の厚さを目標にした。


 結局今回の一度の溶融で、大きさにして50センチメートル大の板状の硝子をつくることが出来た。


「これが硝子??」

 レイミが物珍しげに硝子を覗き込む。

 硝子から放たれる熱気からか、若干腰が引けているようでもあった。


「ええ、これが硝子です。でも今のままじゃ使いにくいので、しっかりと冷めてから最後の仕上げをします。今日のところはここまでですね」


「そっかー。残念! 明日はお仕事で見にこれないんだー! でも何となくわかったからいっか!」

 レイミはそう言うと帰り支度を始めた。


「それじゃあまたね!」


 この日の作業はここまでで終わりとなった。

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