第20話 討伐部隊②

 そして翌日。


 俺達は早朝から出発準備を始めた。

 荷車へ物資の積み込みを行っていると、サクハがこちらに近付いてきた。


「カズトさん、お願いされていたものを持って参りました」


「おお、ありがとうございます」


 サクハは約束通り地図を準備してくれた。


 早速内容を確認したが、その地図の精細さにおれは驚かされた。

 さすが調査部隊と言ったところか。


「──どうでしょうか?」

 サクハは不安そうな声でたずねる。


「完璧です! これならしっかりと意志の統一ができます! ここまでのものをつくるには相当時間が掛かったでしょう?本当にありがとうございます」


「あ、え......い、いえ、そんな......」

 サクハは恐縮しつつも恥ずかしそうに俯いた。

 褒められることに慣れていなかったのであろうか。


「今日は俺と同じ部隊になりますね。よろしくお願いしますね」


「は、はい! そ、それでは失礼します」

 結局サクハは恐縮したまま去って行った。


 そうこうしているうちに最終会議の時間が迫ってきたため、俺は会議室へと移動した。


 --------


「ではこれより最終会議を始める。本日の作戦を頭に叩き込め」

 ヤクマがそう言うと、作戦内容の再確認を始めた。

 地図の効果も相まって、説明はスムーズに進んでいるようだ。討伐部隊の面々の理解度も高まっているようにみえる。


 作戦の要所を地図上に記入していく方法は、さながら図面を使って説明しているかのようで懐かしい思いもしていた。


 なんだか現場の朝礼みたいだな......。

 そう思うと何故だか落ち着いた気持ちになれた。


 その後のヤクマの話は落ち着いて聞くことができたのだが、俺は作戦よりも気になるものを見つけてしまった。

 壁際に見覚えのある人物がいることを。そしてその人物がこちらを睨んでいることを。


 あれは......もしかして......ファティマさん?


 周りの男性と比べ、圧倒的に低い身長に鋭く冷徹な目つき。それはまごうことなくファティマであった。


 そしてファティマはこちらを睨んでいた。

 だが俺には睨まれている理由が見当もつかなかった。


 そしてこうも見つめ、いや睨まれていると話に集中できるわけがなく、俺は会議に身が入らなくなってしまった。

 ──結局、そのまま会議の終了が告げられた。


「これにて最終会議を終了する。皆、準備に取り掛かれ!」


 ヤクマの号令に討伐部隊が呼応する。


「「「おおっ!!!」」」


 会議が終わると同時に、そそくさと外へ出ようとする俺であったが、案の定先回りされてしまった。


「カズマよ。逃げるということはわかっておるのだろうな?」

 そう話すファティマの声からは怒気すら感じられた。


「い、いえ。なんのことでしょうか?」

 ファティマが怒っているということはわかっていたが、何故怒っているのかは見当もついていなかった。


「なぜ討伐部隊のことを私に黙っていた? こんな面白そうな話を自分だけで独占しようとするとは! 許せんやつだ」


 俺はファティマの発言に理解が追いつかなかった。


 面白そう? どういうことだ?


 そう思っているとファティマが再び口を開いた。

「まあよい。だが次からは必ず声をかけるようにな。さすれば私がお主を守ってやろう」


「守る......?」


「うむ。お主がいなくなってしまってはつまらないからな」

 そういうファティマの顔は少しはにかんでいた。


 恥ずかしさを隠すようにファティマが続ける。

「それではクウネルのところへいくか。このあと用事があるのであろう?」


「え、何故それを......?」


「ああ、今回の話は全てクウネルから聞いたのだ。お主が何か企んでいるとな」

 なぜファティマが討伐部隊の話を知っていたのかの謎が解けた。


 あのキツネ男め......。

 内心そんなことを思いながら俺達はクウネルの店へと足を向けた。


 店に到着するや否やファティマが口を開いた。

「クウネル、いるか?」


「はいはいぃ」

 物陰からぬっと現れるクウネル。


「カズトがきたぞ」

 俺の言葉を代弁していくファティマ。


「あぁ、カズトさん。準備はバッチリですよぉ」

 クウネルはそう言うと店前の荷車を指して見せた。


 そこには大量の瀝青アスファルトと木材が積まれている。


 これだけあれば......。

 大量の物資を前にし、俺は作戦の成功をイメージしていた。


「発注通りですね。さすがです。それでは直に出発となりますので、警備員詰所前で準備をお願いします」


「かしこまりましたぁ。では移動を開始しますので、また後ほどぉ」


 クウネルはそう言うと使用人2人を呼び、それぞれを別の荷車の馭者を務めるよう指示を出していた。

 そして3人は荷車に乗り込みアイネルへ合図を送った。

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