第44話 ジャパリパークの守護者達


「相変わらず不思議な感覚だ。夢の中の筈なのに、どうにも夢とは思えない」


「まぁ、これだけ意識がハッキリしてるとね」


俺と妻の目の前にそびえ立つのは、巨大なサンドスターの塊と、そこに張られた傷一つないフィルター。俺達がいるのは、キョウシュウエリアにあるサンドスター火山が再現された夢の中だ


「あれ?パパとママ?」

「ほんとだ!おーい!」


手を振っているトウヤと、ぴょんぴょんと跳ねてるシュリ。ちゃんと合流できてよかった。パタパタと駆けてくる2人を、しっかり受け止めてぐるりと一回転


「これ、あのお山のだよね?」


「そうだな。ただここは、夢の中のサンドスター火山なんだ」


「夢の中?」


「そう、夢の中。俺達は今、皆で同じ夢を見ているんだよ」


「えー!?そんなことできるのー!?」

「すっごーい!ふしぎだねー!」


⋯正直、不思議という感想で終わってくれて良かったと思ってる。深く聞かれても、納得できるようなこと言える自信なかったからな⋯


「さて⋯と。トウヤ、シュリ。2人に手伝ってほしいことがあるんだ」


「お手伝い?」

「なにやるのー?」


「サンドスターを形作るんだけど⋯2人にはまだ難しい話だから、とりあえずパパの教えた通りにやってみてくれないか?」


「うん!」

「わかったー!」


⋯我が子ながら、ちょっと素直すぎて少し心配になるな。この年頃の子ってこんな感じだったっけ。自分がどうだったかなぁ⋯それは今どうでもいいか


手を合わせ、意識を集中。指はくっつけたままで、掌だけを徐々に開く。その両手の間に生まれた細いサンドスターを伸ばしつつ、糸のように右手でぐるぐると左手に巻き付けていく


「⋯こんなもんかな。トウヤ、この糸を持って、この石版の前に立って」


「糸?こう?ここ?」


「そうそう、そこ。で、トウヤはここで待機。シュリは別のところね」


「はーい!」


糸をまた伸ばしながら歩き、今度は別の石版の所へ。妻を待機させ、また次のポイントに行き、シュリを待機させる。そして最後に、俺が石版の前に立つ。これで準備完了だ


「皆、聞こえてる?」


「わっ!パパの声!」

「おにぃの声も聞こえた!」


「このサンドスターを通じて、だな」


「その通り。これで合図を送るよ。せーのって言ったら、掌を石版に思いっきり押し付けてくれ」


あまりにも簡素で、雑にも思える方法。現実はこの方法では駄目だが、夢の中であるここではこれで問題ない。何故なら、今からすることは前準備なのだから


「3⋯2⋯1⋯せーのっ!」


「えーい!」

「とりゃー!」


「ハァッ!」


トウヤも、シュリも、妻も、気合いを入れてくれている。俺も気合いを入れて、自身の奥底に眠るサンドスターの因子を掘り起こす。そうすれば、糸を通じて他の3人にも影響が出てくるはずだ


きっと何処かに、きっかけはあったのかもしれない。しかしそれは、閉じられていた蓋が少しだけズレただけの、ほんの些細な出来事だったのだろう


その蓋が大きくズレたのは、おそらく2人が起こした初めての野生解放の日。そして決定打となったのが今回の事件。ハンターセルからあの場の全員を護ろうとしたことで、完全に蓋が外れ、それは表に現れることが出来た


「なんか出てきた!なにこれ!?」

「パパどうしたらいいの!?」


「そのままでいい!そのまま手を添え続けるんだ!」


「了解した⋯!」


2人が表に現れたことで、俺と妻の内にいるもう2人も目覚めた。どうやらその考えは正しかったようだ。俺達の身体からも、件のサンドスターが順調に引っ張り出されているのがその証拠だ


そして、輝きは石版へと集まっていき、元の姿へと戻っていく


「⋯全く、何が『扱いたいなら更に精進せよ』だよ。別々になって、見つからないようにしてたくせにさ」


久しぶりに会えた彼女達に対し、つい口から出てしまったぼやき。でも、これくらいの文句ならバチは当たらないだろ?


「コウ、これで⋯」


「うん。これで、ようやく会える」


「ねぇパパ、僕このフレンズ見たことある!」

「私も!でもなんだっけ?」


「この人達は『四神』。ジャパリパークをずっと護ってくれているとても凄いフレンズで、2人を助けてくれた子達だよ。2人共、お手伝いありがとな」


四神。それがトウヤとシュリの⋯そして、俺達夫婦の内に眠っていたフレンズの正体。トウヤにはセイリュウ、シュリにはビャッコ、妻にはゲンブ、俺にはスザク。1人に1人、綺麗に分かれていた


他の3人にサンドスターの因子が丸ごと渡り、それぞれの奥底で眠りについた。スザクの力もそれに影響され、同じ様なことが起こった。俺が四神の力を使えなかった理由は、だいたいこんな所だろうか


石版の上に浮き立つ彼女達を、1人ずつ見て回り状態を確認する。瞳は閉じたまま、ピクリとも動く気配はない。それもそうだ。やったことは彼女達の復活ではなく、俺達の身体から切り離しただけなのだから



――――ただ、たった1人だけ、俺達と視線を交える者がいた



「⋯おはようございます、目覚めた感覚はどうですか?」


「⋯悪くないわね」


「「しゃべったー!?」」


四神の1人、セイリュウだけは意識があった。誰かは起きそうだなと予想はしていたから、特に驚きはしなかった。彼女は顔に手を当て、周囲と俺達を交互に見た後、納得したように頷いた


「本番は明日?」


「はい。もう少しだけ待っててください」


「そう」


質問も、返事も、端的に。しかし、今はそれで十分だ


「長いは無用ね。頼んだわよ?」


「任せてください。では」


「あっ、待って!」


トウヤの一言で、俺とセイリュウさんは手を合わせるのを止める。何か伝えたいことがあるのだろうか?


「あの、助けてくれて、ありがとうございました!」


「⋯フフッ、礼には及ばないわ。私こそ、今まで一緒にいてくれてありがとう。それと⋯あの時のあなた、とってもカッコよかったわよ」


真っ直ぐなお礼にセイリュウさんが微笑み、褒められたトウヤも笑顔で返す。真似してシュリもお礼を言って、俺達も2人で頭を下げた


「⋯さて、そろそろ帰るか。トウヤ、シュリ、目を閉じて」


彼女が言った通り長いは無用だ。ポン、と手を頭に添えて、トウヤとシュリをそれぞれの夢へと送る。残った俺と妻、そして彼女が視線を交わす


「良い子達ね」


「でしょう?俺達の自慢です」

「そして、私達の宝だ」


「将来が楽しみだわ。⋯じゃあ改めて、また明日」


「ええ、また明日」

「会えるのを楽しみにしているぞ」


セイリュウさんの手を取ると、彼女はサンドスターとなり、俺の身体へと還っていく。他の3人も同様にしたところで、ここですることは全て終了だ


「それじゃあ、朝にね」


「ああ。朝食のリクエストはあるか?」


「んー⋯目玉焼きと、味噌汁で。具材は任せるよ」


「了解した」


軽いやりとりをして、俺達もまたお互いの夢へと戻っていく。去り際にサンドスター火山へと振り返り、俺は気合いを入れ直すのだった




⏰️ ⏰️ ⏰️ ⏰️ ⏰️




「いってきます」


「いってらっしゃい。気を付けてな」


子ども達がまだ寝ている早朝。山へ飛び立つ夫を、見えなくなるまで見送る。私が見送る前に出発したこともあったなと、少しだけ昔を思い出した


「おはようございます、キングコブラ様」


「ハシブトガラスか。おはよう、泊まりに来たのか?」


「いえ。彼女達と祝杯の準備をしに来ました」


「⋯なるほど。酒に釣られたか?ツチノコ」


「ハッ、別にそれだけじゃねぇよ」


入れ替わるように訪れた友人。後ろを見れば、2人以外にもギンギツネとキタキツネ、そしてタヌキの姿があった。誰が指示をしたのか、誰に対しての祝杯かは、言われなくても理解できた


「あいつ⋯いや、あいつらか。今日1日は確実に騒ぎ続けるぞ」


「たまには良いのではないでしょうか。それほどまでに、今日という日は特別な日になるのですから」


「ああ、私もそう思う。⋯では、早速協力してもらうとしよう」


コウは必ず、四神を連れて帰ってくる。皆もそう信じている。だから私も、ここからはそれを見越して準備を進めよう


「盛大に祝ってやるとしよう。王として、な」




――――――――――




「⋯なんだか、懐かしいですね」


目的地であるサンドスター火山。そこに張られた結界を抜けると、7人もの先客が俺を出迎えてくれた。懐かしいと言ったのは、あの日起きた、この場所での決戦を思い出したから


「確かに、この面子だとそう感じるわね」

「あの時も貴方がいて、私達がいて、貴女達がいましたね」


「もう10年以上経つんだね〜」

「時の流れとは早いものだ」

「⋯わたくしは、まだ『ボク』でしたけどね」


「それもまた、遠い昔の話だ」

「今ではもうどうでも良いことじゃな」


リル、ヨル、ヘル⋯俺の姉さん達。

キュウビキツネ、オイナリサマ、ヤタガラス、ヤマタノオロチ⋯馴染みのある守護けもの達。

このメンバーで、この場所で、やることはたった1つだけ


「予定通り、私達が四神を起こす役割を担います。コウ、例のサンドスターを」


「⋯っと。はい、これを。彼女達をよろしくお願い致します」


「任せなさい」


やり方は夢とほとんど同じだが、四神を起こすには、相応のサンドスターとそれを操る技量が必要だ。妻と子ども達にそれをやらせるのは、あまりにもに負担が大きく危険すぎた


守護けものであれば、その問題は簡単にクリアできる。だから一度、負担のない夢の中で彼女達のサンドスターを取り出して回収し、現実で彼女達に渡し、改めて復活を試みる⋯それが今回の計画だった


「コウ、をお願いしますね」


「ええ。2人で帰ってきますよ」


代わりに俺は、新たな任務を受け持った。四神の他にもう1人、迎えに行かなきゃいけない子がいるからだ


「貴女達はその間、セルリアンの対処をお願いします」


「りょーかい!」

「任せろ」

「承りましたわ」


結界がある以上、セルリアンはこの場へ侵入することは許されない。それなのに対処をお願いしたのは、フィルターに穴を開けた影響で火口から噴き出すセルリウム、及びサンドスター・ロウから、セルリアンが生まれる可能性が高いからだ


役割は決めた。準備は出来た。後は、力の限りやるだけ


「じゃあ⋯行ってくる!」


夢と同じくサンドスターの糸を作り、4人と自分に括り付け、フィルターの真上と移動する。そして勢いをつけ、フィルターに突っ込み、火口の奥へと進む。振り向く必要はない。俺はただ皆を信じて、真っ直ぐ降りていくだけだ


「この程度で⋯止められると思うな!」


時折飛来する、黒の脅威を撃退していく。少しでも外の負担が減るように、少しでも邪魔が入らないように



そして――――



「⋯ここに来るのも久しぶりだ。元気そうですね、『セーバル』さん?」


「⋯元気だよ。それはもう、ずっとね」


迎えに行かなければいけない子、それはセーバルさん。彼女は昔、セルリウムの過剰な噴出を抑える為に、人柱としてこの場所に眠りについた


だけど、もうその必要はない。四神がここを離れても、フィルターを安定させる術を得た。だから彼女が外に出ても、セルリウムの噴出はかなり抑えられる。彼女達はもう、何物にも縛られなくて良いんだ


「ねぇ、私、受け入れてもらえるかな?」


「勿論。前例ヘル姉さんがいますので。それでも不安ですか?」


「正直言うと⋯ね。私はあの子と違って、見た目がセルリアンであることに変わりはないから」


彼女の今の雰囲気は、昔と違って元になったサーバルさんみたいだ。しかし、姿形は昔と変わっていないため、一目見ただけではセルリアンと勘違いする子は出てくるだろう


「貴女が護ったパークは、フレンズは、見た目が違うというだけで受け入れない、なんてことは絶対にありません」


キメラである俺がそうだったように。敵だったヘル姉さんがそうだったように。受け入れられて、友達になれる。彼女は『フレンズ型のセルリアン』ではなく、『セルリアンの性質を持ったフレンズ』だからだ


だから大丈夫、ジャパリパークは君の居場所だ


「それでも不安になる時があったなら、俺や守護けものに遠慮なく相談してください。俺達はずっと、貴女の味方です」


「⋯うん。ありがとうコウ、おかげで行けそうだよ」


すっと立ち上がった彼女の表情は、どこか晴々としていた。そんな彼女の手を取り、翼を広げて共に飛ぶ。セルリウムが追いつけない程の速さを出せば、あっという間に地上へ帰還だ


降り立ち、顔を合わせ、そして言葉を紡ぐ


「⋯おかえりなさい、セーバル」


「オイナリサマ⋯皆⋯!ただいま!」


真っ先に出迎えてくれたのは、慈愛に満ちたオイナリサマ。それに続く、安堵と歓喜に包まれたこの場と面々。抱き締めて、抱き締められて。セーバルさんは全身で喜びを噛み締めて、全員と再会の抱擁を交わしている


「おかえりなさい、セイリュウさん、ビャッコさん、スザクさん、ゲンブさん。どうですか?今の気分は」


「そうねぇ⋯。フフッ、最高の気分だわ」


セイリュウさんの言葉に、他の3人も笑って頷く。こうして全員と顔を合わせるのは、本当にいつぶりだろうか。目頭が熱くなるが、溢れそうな感情をどうにか耐える


「フィルター、安定していますね。これなら定期的に様子を見に来るだけで問題ないでしょう」


「このやしろのおかげね。本当によくやったわ、コウ」


「俺だけではありません。皆のおかげですよ」


「⋯そうだな。パークに生きる者全てのおかげだ」


皆が、貴女達の復活を願ったから。皆が、貴女達の幸せを想ったから。だから今、願いが現実のものとなっている。こんな奇跡を起こせたのは、皆がいてくれたからなんだ


「では、ろっじに向かうとするかのぅ。宴の準備が完了しているじゃろうからな!」

「ふむ⋯ペパプはいるのか?」

「どうだろうな?いなかったら、それは後の楽しみに取っておけ」


「積もる話もあるだろう。ゆっくりしていくといい」

「そうじゃな。お主ら三姉妹のことも含めて、な」

「あら、長くなりますわよ?」


「強い子はいるけど、ちからくらべは後日にしなさいよ?」

「分かってるって!その前にリハビリもしたいしさ!付き合ってくれるだろ?」

「勿論!でも、手加減はしないからね!」


各々が、この先を楽しみに過ごせる。未来を考えて歩むことができる。当たり前のようで、難しかったこと。そんなことを話した記憶も、いつかの思い出話になるのだろう


「私達も行きましょうか」

「そうね。コウ、貴方達家族のこと、たくさん聞かせてね?」

「ええ。せっかくなので、家族皆で話しましょうか」


後に続いて。並んで、ゆっくりと歩いていく。待ち焦がれていた光景を、パークの全てを感じながら


さぁ帰ろう、我が家に。そして祝おう。今日という、最高に特別な記念日を、皆と一緒に

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