ありんこアスと不思議な石

ありんこ

プロローグ

第1話 始まりの詩

「お父さんおかえり!!」


 家中に響く大きな声でそう言った少年は、目を輝かせて父を見上げた。


「ただいま弘幸ひろゆきいい子にしてたか?」


「うん僕ね今日お皿洗いしたよ」


 父親の言葉に答えた弘幸は、何かを待っている様でソワソワと落ち着かない。


「じゃあ、良い子の弘幸にはプレゼントをあげよう。8歳の誕生日おめでとう!」


 父親がニカッと笑うと、手に持っていた物を大げさに差し出して見せた。弘幸の大きな瞳には、白くて四角い箱が映っていた。箱に貼り付いた真っ赤なリボンがキラリと光り、中身への期待を一層膨らませた。


「丁寧に扱うんだぞ」


 父親の一言に、ずっと欲しいとねだっていたゲーム機だろうと確信し、キラキラさせた瞳をより一層輝かせた。


「うわーい、お父さんありがとう!」


 弘幸はプレゼントを父から奪うと、白い梱包紙をびりびり剥がしてフタを開けた。箱の中には、体長2センチ程の大きな蟻が1匹。1ミリほどの小さな白い卵を2つ、大切そうに抱えていた。


「はっはっは!気に入ったか弘幸!そいつはスペイン産クロナガアリの女王でな、

瞳の色が青い上に日本のクロナガアリより大きくて強いんだぞ!!」


 弘幸は有りを見たまま動かない。身体が少し震えている様だ。


「そうか、そうか!そんなに嬉しいか弘幸!お前は今はやりの昆虫アニメとか大好きだもんな」


 父親がケラケラと楽しそうに笑っていると、弘幸は勢いよく顔を上げて叫んだ。


「なんでこれなんだよ!?今時アリンコ1匹貰って喜ぶ小学生が何処にいるんだよ!?ゲームソフトとか買ってくるだろフツー!!」


弘幸は大声で叫ぶと、開いたままの玄関に向かって勢いよく飛び出していった。


「ひ…弘幸!?」


 父親の声に振り向きもせず道路に飛び出すと、家の向かい側にある公園の中へ走っていく。公園の隅にある桜の木の下で立ち止まると、四角い箱を思い切り地面にたたき付け、鈍い音が響き渡る。


「お父さんの…お父さんのバカヤロー!!」


弘幸の叫び声と共に、このお話は始まります。

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