第31話 弟子志望

俺様達は王都中心部にある王宮を去った後、追跡してきた兵士共をエメルの不可視魔法を使い、撒く事に成功した。


追跡を撒いた後、エメル達があらかじめ場所を聞いておいたグレイスが泊まる予定だった宿屋でグレイスと合流。


急遽、宿泊を取りやめたグレイスは宿屋の店主から少し不審に思われつつ、不可視化した俺様達と共に宿屋を後にすることになった。




そしてつい先ほど、不自然なほど無警戒だった王都の大門を抜けて現在はグレイスが住む南のルベリ村へと馬車を走らせていた。






「貴族街で大暴れしたって聞いたがよく無事だったな、アッシュさん」






「ん、あぁ、俺様からしたら大暴れって程の事でもない。魔王軍の魔人と比べればなんてことはない連中だったしな。まぁそれ以前の問題だったが」






王宮へと向かう際に俺様に剣を向けてきたドレアス軍の連中は数こそは多かったが、練度も低く、グレスデン王国のような魔法兵部隊も存在しないのでまるで子供のお遊びのようだった。


アレで世界最強などと言われているのだからやはりこの世界のレベルはかなり低いのだ。


その中ではレイの強さは一線を画しており、他の大国と渡りをつけて準備を整い次第舐めた態度を取ったドレアス王国を叩き潰すつもりでいる俺様としても対悪魔戦を想定した場合外せない戦力と考えている。






「まぁ剣聖はなかなか悪くない」






俺様がそう言うと、グレイスは呆れ顔を浮べながら俺様達が座っている荷台の方に振り向いた。






「そんなこと言えるのはアンタくらいだよ。アッシュさ……って誰だよ!? その子は!?」






グレイスは俺様と向かい合わせに座っているエメルとセラに挟まれている小さな子供へと目を向けそう叫び声ような問いかけに子供の頭を撫でまわしているセラが答えた。






「えへへ、可愛いでしょう? グレイスさん。可愛すぎるので攫ってきちゃいました」






「勘弁してくれよ。人身売買にまで俺を巻き込まないでくれ」






既に色んな事に加担してしまっている事を悟っている貧乏商人グレイスでも流石に人身売買には抵抗があるらしい。


確かに冗談で言っているつもりのセラの笑顔からは事件の匂いしか感じ取る事しかできないが、断じてこれはそんな事件性のある案件ではなく致し方ない理由があるのである。






「このまま親元に返したらあの馬鹿王子の事だ。何をするかわかったもんじゃないからな。あくまで緊急的避難だ」






俺がそう言うと、グレイスはようやくその子供の正体に気付いたのか納得したように呟いた。






「……あぁ、あの時の子供か。確かに危険だな。ルシード王子の事だから意地でも親から子供を取り上げて断罪することもありえる」






「まぁ実際、王城に連れて俺様相手に人質にしたクソ野郎だからな」






「……アッシュさんが王宮で何したかは聞きたくもないが、光景が目に浮かぶよ。あのルシード王子だからな。だが、どうするんだ? アンタらが面倒を見るのか?」






やむなく連れてきたガキだが、このまま親元に返すわけにはいかないので、どこか面倒を見てくれる所に預けるしかない。


まだどの国を目指すか決めていない俺様達だが、小さな子供を連れていくわけにはいかないのだ。




とりあえずグレイスの質問は保留することにして俺様は子供へと視線を向け話しかけた。






「おい、ガキ、名は? 何歳だ?」






「ケイン。12歳です」






これまで声を出さないようにセラに注意を受けていたケインは俺様の誰何にはっきりとした言葉でそう答えた。


あまり大きくなかったので10歳ほどだと思っていたが意外である。






「ケイン、こういう状況だからお前を親元に返すわけにはいかんのは分かるな? 参考までに聞くがお前はどうしたい?」






王都以外で信頼できる親族か知り合いがいるか確認するために俺様はそう尋ねたのだが、ケインはなぜか緋色の大きな瞳を輝かせながら想定外な事を言い出した。






「僕、アッシュさんみたいに強くなりたいです! 僕を弟子にしてください!」






いや、まぁ偉大過ぎる勇者である俺様に憧れてしまうのは分かるが今はそんなことを聞いているのではない。


今の状況分かってんのかこいつ? と思いつつ俺は再度ケインに問う。






「却下だ。ていうかそう言う事を聞いているのではなくてだな。王都以外で親族か知り合いだのはいないのかと聞いている」






「僕は王都から出たことがないので分かりません。それでどうしたら弟子にしてくれますか?」






……頑なだな。だが、残念。俺様は弟子は取らん主義だ。






俺様が心の中でそんな事を思っていると面白がっている表情のエメルと会話中もケインを撫でまわしているセラが口を挟んできた。






「いいじゃない。してあげなさいよ。弟子に」






「そうですよ。こんなに可愛いのですから」






そんな女共2人の援護を受けたケインは期待を膨らませた目で俺様を見る。


途中までは聞いていたグレイスも結果が決まったら教えてくれと言わんばかりに今は馬車の運転に集中していて我関せずと言った感じである。




強引に断る事もできるがこのまま問答を続けるのも面倒になった俺様はケインには分からないように達成不可能な適当な条件をつけて話を切り上げることした。






「分かった分かった。じゃあ明日中に魔法を1つでも習得することができたらその時は俺様の弟子にしてやる」






絶対とは言わないがほぼ不可能な条件だ。


才能があるやつでも1週間、普通なら1か月は魔法の習得には時間がかかると言われている。




そんなことも知らないのかケインは目を更に輝かせた。






「魔法? 剣聖様を倒した時と王子に使ったやつですか?」






「よく分かったな。アレも魔法の一種だが、お前には無理だ。まぁ初心者ならファイヤーボールか? 俺様は忙しいからエメルにでも教えてもらえ」






とりあえずケインの件は保留することにして俺様達はルベリ村へと向かうのだった。


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