第21話 観戦タイム
騎士やルシードと向かい合わせに座っているというのに誰もこちらに気付かない事に驚きを覚えつつもグレイスはアッシュの戦いを見守っていた。
とは言ってもアッシュの常軌を逸した強さに騎士達の戦意はかなり削がれ膠着状態に陥ってしまっていて、ほぼアッシュと王子ルシードの舌戦が繰り広げられているわけなのだが。
「大丈夫かよ。アッシュさん」
なんとなくどれくらいの声量ならば騎士に気付かれないか分かってきたグレイスは小さな声で呟くと、セラの奥に座っていたエメルがそれに答える。
「あいつ、口悪いからね。まぁいつものことよ」
ほんとこの人たち何者だよ!とグレイスは心の中で悲鳴を上げるが口には出さない。
普通は多少強いくらいの事では王族相手にあれほど大口が叩けるわけがない。
最早、グレイスはアッシュ達の事を異国どころか違う世界から来た人間なのではないかと自分でもありえないなと思う想像を膨らませてしまうのだが、実はそれが正解だという事には現時点では知りようもない事だった。
「あっ、なんか強そうなのが来たわね」
ちょっとテンションが上がった声でエメルがそんなことを言ったのでグレイスはエメルの視線の先を見た。
「って! 剣聖様!?」
「ちょっと、声大きいわよ」
路地から姿を現した白銀の仮面を被った騎士を見て、思わずグレイスは少し大きな声で上げてしまい、エメルから注意を受けるがそれでも言わずにはいれなかった。
「ダメだ。今すぐ逃げよう。剣聖様は世界最強の剣士。いくらアッシュさんでも勝てるわけがない」
「ふーん、アレが剣聖。確かに凄い魔力ね。本当にアレで魔法が使えないのかな? すっごい勢いで魔力垂れ流してらっしゃるけども」
「うーん、どうなのでしょうか? 魔力が凄くても魔法を使うのが苦手な方もいますし、それの究極系という感じではないでしょうか? それよりもなぜ仮面を被っているのでしょうか? 実は仮面を脱いだら凄い美男子とか?」
「いや、逆でしょ。不細工だから隠すんでしょ、普通は」
グレイスの忠告に一切耳を傾けないエメルたちは意味の分からない事を言い出すが、その言葉に緊張の様子は一切見られなかった。
グレイスは今すぐにでもこの場から逃げ出したいという衝動に駆られながらも女性2人を置いて逃げ出すわけにはいけないという謎の使命感からかその場で説得を続けることにした。
「いや、そんな話は今いいから逃げないと」
すると、そんなグレイスの言葉にエメルは「何言ってんの?」みたいな表情でグレイスを見返した。
「いやいや、剣聖の強さを確認できるいい機会じゃない。良い感じだったらスカウトしたいとこだしね」
「まぁ確かにいい機会ではありますよね。今の所、他に有力者もいないわけですし」
レイはドレアス王国の騎士団長であり、剣聖でもある。
そんな立場にあるレイをどんなの国のどんな組織がどれだけ金を積んだ所で引き抜けるわけがないのにエメルとセラはさも当然のようにそんなことを言う。
「いや、意味が分からないんだが?」
「まぁいずれ分かるわよ。今はどうせ信じてくれないだろうからあえて言わないけどね。今言えることはアッシュが負ける事はないし、アンタがポカでもしない限りアンタに危害が及ぶ事なんてないわ」
エメルはグレイスにそれだけ言うと、剣聖レイの力を見定めるべく目の前の戦いに集中することにした。
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