魔王を倒した俺様にはゴージャスかつ優雅な生活が待っていたはずだったのに「異世界を救え」と女神に異世界転移させられた。俺様一人飛ばされるのもなんか癪なので他の奴らも巻き込むことにする
コメッコ
第1話 ラストバトル?
気付くと俺様はどこまでも続く草原のど真ん中にいた。
「……なんだここは?」
ついさっきまで俺様は仲間と共に魔王城にいたはずだった。
だというのにいきなり見知らぬ草原に放り込まれたというのだから世界最強の勇者である俺様でも驚きの声を上げたのは当然の反応と言えるだろう。
俺様——勇者アッシュは15歳という若さで勇者に選ばれ、戦士ガイン、賢者エメル、聖女セラと共に魔王討伐の旅に出た。
それからたったの2年。
長年、歴代の勇者の誰もが成し得なかった魔王討伐を成し遂げてしまったのだ。
そんな大偉業を成してしまったのはつい先ほどの事。
流石に魔王というだけあってそれなりの強さを持っていたが、俺の前ではそんなものは何の役にも立たず、さっくりとトドメを刺してやった。
あとは凱旋して世界を救った英雄として俺は優雅かつゴージャスな生活を送るはずだったというのに。
「どこじゃここはー!?」
俺様が叫んでも誰もそれに答えない。
待て待て。冷静に考えろ。
そして俺は仲間の賢者エメルが1年ほど前、魔獣巣くう古代遺跡ダンジョンで言っていた事を思い出す。
『古代魔法【転移門】。これが使えるようになれば大儲……いや、魔王討伐の役に立つはず!』
それは賢者エメルが古代遺跡ダンジョンで見つけた古文書を見て言った言葉だった。
その後、エメルは旅を続けながら古代魔法【転移門】の研究を続けたが、結局エメルは【転移門】の使用はおろかその古文書の解読にすら至らなかった。。
だが、もし俺様が倒した魔王が【転移門】を使用することが可能だったとしたら。
「まさかあの野郎、死ぬ間際の腹いせに俺様を……」
俺様は絶対確実に魔王に止めを刺したはずだった。
そんな確信はあるが、俺は【転移門】という魔法について、対象をどこかに転移させる魔法という以外の知識を持たない。
魔法を使用して数秒後に発動するタイプの魔法なのかもしれないし、実は魔王にトドメを刺したつもりだったが、まだ生きていた可能性も0とは言い切れない。
事実として今、俺は見たこともない草原にいる。
「なんで俺様なんだ?」
あの場には俺様以外にガインもエメルもセラもいた。
だというのにこのだだっ広い草原にいるのは俺様ただ一人。
確かに魔王にトドメを刺したのは俺様だが、戦士であるガインも賢者であるエメルだって攻撃に参加していたというのになぜ俺様なのだ?
「俺様じゃなくガインを飛ばせよぉぉぉ!」
「凄いこと言うね、君」
「……今度こそくたばれ! 魔王ぉぉぉ!」
俺様の心からのシャウトに反応したように不意に背後から声が聞こえて、反射的に俺様は振り返りざまに声の主に斬りかかる。
俺様の背後を取ったのは実に見事だったが、詰めが甘かったな。
魔王なら魔王らしく不意打ちを食らわせれば多少の手傷程度なら負わせることができたかもしれないというのに。
そんなことを思う最中俺様は重大な問題に気づく。
……って、あっ。
ここから帰る方法を聞いてねえ。
そんなことを思うが俺様の剣はもう止まらない。
俺様の剣は吸い込まれるように魔王の小さな体に必殺の威力で迫る。
……って女の子?
振り向きざまに俺の視界に捉えられたのは俺が知る体長3mの色黒巨大2本角の筋骨隆々魔王の姿ではなく、俺よりも若い140cm程の小さな金髪の美少女だった。
だが、そんな衝撃よりも更なる強い衝撃が次の瞬間、俺様を襲う事になった。
キィーン!
「な……に……?」
必殺の一撃だったはずの俺様の剣を小さな少女はどこに隠し持っていたのか自分の身長程もある剣でいとも簡単にはじき返したのだ。
反射神経どうこう以前の問題である。
どう考えても目の前の少女の細腕では俺様の剣の重さに耐えられるわけがない。
だが、よくよく考えればおかしな話ではないなと思いなおす。
俺様をここに転移させる事ができたのはあの場では魔王ただ一人だった。
つまり目の前にいるのは。
「やっぱ生きてやがったな! 魔王! 死ぃねぇぇぇ!」
「いやー、違うんだけどもね」
否定の言葉が聞こえた気がしたが、気にせず俺様は幻惑魔法で金髪美少女に化けた魔王に更に斬りかかる。
必殺の一撃を目にも止まらぬ速さで次々と俺様は小さな魔王へと叩きこんでやる。
これだけで俺様は偉そうで態度のデカい魔王軍四天王A~D(名前など憶えていない)をも瞬殺で屠ってきた。
流石に万全の魔王は瞬殺とはいかなかったわけだが、死にかけの魔王ならこれで充分のはずだった。
しかし——。
あれ? なんかこいつ強くなってねぇか?
小さな魔王は俺様の剣を俺様以上の動きで全て受け止めていた。
万全の状態ですらなんとか凌いでいた俺様の剣をだ。
小さな魔王は俺様の剣を防ぎつつ、「ちょっと待って。落ち着こう。ね」などとほざいているが、魔王のいう事など聞く俺様ではない。
とはいえこのままなぜか強くなった魔王第2形態と戦っていても埒が明かないのは確かだ。
だから俺様は魔王城の戦いでは使わずに終わった奥の手を使う事にした。
「今度こそくたばれ! 聖光烈刃斬!」
距離を取った俺様が振りかぶった聖剣から俺様の身長をも遥かに超える巨大な光の刃が放たれ、小さな魔王へと迫った。
だが、小さな魔王は巨大な光の刃を前に避ける素振りどころか剣を構える素振りすらない。
まぁ剣を構えたところで剣ごと真っ二つだがな。
俺は勝利を確信する。
「……って、やべ」
半殺しにして帰還方法を聞きだすつもりだったのにまたもつい熱くなってしまった……。
いくら魔王が第2形態になって強くなったと言ってもアレを喰らって生存など絶望的だ。
だが、そんな俺の後悔を笑い飛ばすかのように、俺の【聖光刃斬】は小さな魔王の身体に触れた瞬間——。
「……は?」
俺の【聖光刃斬】は文字通り、何事もなかったかのように消失した。
小さな魔王の防御力が俺の【聖光刃斬】の攻撃力を上回りダメージを与えられなかったとかそういう感じではない。
何度も言うが、小さな魔王に体に触れた瞬間消え失せたのである。
結果としてそこで俺様は目の前にいる美少女は俺様達が倒した魔王などではなかったことにようやく気付いた。
俺様が倒した魔王が幻惑魔法で化けているとか第2形態に移行したとかそんなレベルの存在ではない事はもう既に明らかなのだから。
「誰だ? 貴様は」
俺様が誰何してやると少女はこれまでの戦いなどなかったかのような笑みを浮かべ答えた。
「ようやく大人しくなったね。私は始まりの女神、リティスリティア。今日は君にお願いがあってここに来てもらったの」
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