第86話 食事会

「イヅナそろそろ起きて」


「んっ……」


そろそろ2時間が経過するのでイヅナの肩を揺らして起こした。


「レイお兄様…?」


「そうだよ」


「んっ…あっ!ごめんなさいっ…」


「大丈夫だよ」


膝の上で眠ってしまったことに気がついて謝りだしたが俺としては可愛い子が寄りかかって寝てくれるなんて役得でしかないので問題ない。


「ごめんなさい……」


「大丈夫だって。それより夕食の場所に案内してくれないかな?」


「は、はいっ!!」


このままではいつまでも謝っていそうなので話題を変えた。それが成功したようで謝るのをやめて夕食の場所の案内に移った。



「こ、ここです…」


「ありがとう」


しかし夕食の場所に近付くにつれてイヅナの元気はなくなって上がっていた尻尾も下がってしまった。

しかしだからといって扉の前まで来て部屋に入らないでいるのはおかしいので扉を開いて中に入った。


「おぉ!やっと来たかレイ!待っていたゾ!!」


「悪い。待たせたみたいだな」


部屋には長机に何人かの獣人が席に着いていた。


「早く座れヨ!腹が減ったゾ!!」


「おう」


と言われて空いている席を見たらロウの隣の席が2つ空いているだけだった。どちらに座ろうか一瞬悩んだがイヅナがとことこっと歩いてロウの隣の席に座ったので俺が座るイスは1つになった。


「よしっ!じゃあ乾杯ッ!」


「「「「「乾杯っ!!」」」」」


俺が席に着くと俺がグラスを持つ暇もないくらいの速さで乾杯を始めた。ごめん…そんなにお腹すいてたのね。


「うまっ!」


みんなガツガツと机の上にある肉類を食べているので俺もつられて肉を食べたが凄く美味しかった。

なので俺も獣人達に負けないようなスピードでご飯を食べ始めた。



「ふぅ…食っタ…レイもちゃんと食ったカ?」


「あぁ…食ったよ…」


この食事会は机の上のご飯が全て無くなるまで無言で皆食べ続けた。


「お兄様?ほんとにこんな弱っちそうな奴に負けたのですk………」


20歳くらいの男の…なんかの獣人がそう言いきる前に言葉を止めた。何故かというとそいつの首のそばにナイフが投げられていて椅子の背もたれに刺さったからだ。


「おい…てめぇは俺が嘘をついていると言いたいのか?」


あ、俺が弱く見られたことに怒った訳じゃなくて自分の言ったことが疑われたことに怒ったのね。


「い、い、いいえ!そ、そ、そんな、こ、ことはあ、あり、ありません!」


どもりすぎだ…どんだけ兄であるロウのことが怖いんだよ…


「おいっ!レイ舐められてるみたいだから俺の時にやった気を出してやレ!!」


「わかったよ…」


ロウがそんなことをにやにやしながら言ってきた。正直俺もここまで舐められるのは気分が良くないので覇気を出した。


「「「「「っっ!!!?」」」」」


するとそこにいたロウと年配の獣人2人以外は尻尾がピンッ!となるほど驚いていた。

そしてロウにもういいか?と視線を送ると通じたのかロウが頷いたので覇気を出すのをやめた。


「あ、ごめんね」


隣のイヅナも周りと同様に驚いて眼をぱちくりしていたので謝って頭を撫でた。

するとふるふると頭を横に振って大丈夫とアピールしてくれた。

そして椅子を引く音がしたので見てみると男の獣人の5人が床に膝をつき始めた。


「我々はレイ様を侮っていました」


「「「「「大変申し訳ありません」」」」」


俺に弱そうと言った人が最初に話すと今度は全員で頭を下げて謝ってきた。どうなってるの?

何がおきてるのかよく分からずにロウに視線をやるとロウは笑って答えてくれた。


「獣人は力で上下関係が決まル。今の一瞬でどちらが上かをちゃんと把握出来たようだナ!」


なるほど…ん?となると1つ疑問に思うことがある。


「俺はお前に勝ったよな?」


「あア」


「俺の方がお前より強いよな?」


「今のところはナ」


「じゃあロウの態度はなぜ変わらない?」


「ん?それはお前は俺に服従を求めた訳じゃなくあくまで協力関係を求めタ。なら立場は同じはずだろロ?」


屁理屈だ…だが今さらこいつに敬語を使われるのも鳥肌が立ちそうなのでこのままでいいか。


「そしてそれより……」


「ん?ああ、あれカ」


そしてそんなことよりも気になるのがイヅナを含めた獣人の女性の5人が恍惚とした表情で俺の事を見ている。


「獣人の女は強い男に惹かれル…よかったナ?」


そんなことを言ってまたにやにやしている…くそ…ここまで計算に入れて覇気を使えって言ったなこいつ…


「まぁ落ち着いて明日の朝になればマシになってるだろうヨ。明日まで待てればナ」


おいおい!恐ろしいこと言うなよ!さすがにここまで飢えた肉食動物のように見られると怖いのだが…

そこでチラッとイヅナの方も見てみる。うん。イヅナはどんな時でもかわいいな…


「よし!今日は解散!また朝食の時ニ!あっ!レイは残れヨ!」


正直残れと言われてよかったと思った。だって部屋から出た瞬間に襲われそうなんだもん…


くいくいっ


袖を引っ張られた方を見るとイヅナが未だにうっとり…とした表情でこちらを見ている


『マスター…?』


『問題ないよ』


ナービに心配されるが問題なく意識はちゃんと保てている。


「イヅナまた明日」


「……」


そう言ってもしばらく見つめあったままだったがそのうちにコクンっと頷いてとことこと歩いて部屋から出ていった。


「「レイ様!!」」


イヅナを見送ると後ろから2人に声をかけられたので振り返った。


「「レイ様は武器は何をお使いになるのですか!?」」


12歳くらいの双子?と思わしき男の子達に話しかけれた。


「武器は一通りなんでも使えるよ」


「「すごい!!もしお暇がありましたら僕達に稽古を付けてくれませんか!?」」


「稽古ならロウに…あっ…そっか」


ロウは素手での戦闘に能力を全振りしたかのような戦闘スタイルだから武器を教えるには不向きなのか…


「いいよ。暇ならば教えてあげる」


「「ありがとうございます!!」」


そう言うと嬉しそうに部屋から出ていった。そしてその稽古の話は他の男の獣人たちは聞き耳を立てて聞いていたので稽古に混ざるかもしれない。



「早く出てケ!!」


そして喋りたそうにしていた女性の獣人たちが俺に話し出す前にロウがそう言ったため足早に部屋から出ていった。助かった……


ガチャガチャ


するとロウは部屋の扉の鍵を閉めた。

これで部屋に残っているのは俺とロウと年配の獣人2人の合わせて4人だけになった。



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