第33話 愛しさ余って憎さ百倍

ユメコは、ツカサの告白を聞いていた。



レイが突然目の前から消えた後、

ユメコは慌ててエビル達に連絡を取り、

コロシアムの事を聞いて駆けつけたのだ。



辿り着いた時にはすでに、

ツカサのチームは決勝戦を迎えていた。


各異世界の表現者たちが上げる歓声で、

会場には熱が立ち籠めている……


命が危ないと感じた時は助けに入りたいのだが、

戦闘中のフィールドには見えない壁があり、

そこに割って入る事は出来ない。


ユメコは透明な壁へ添える手に力を込めながら、

レイとツカサ(と知らない男)の戦いを見守っていた。


しかし先程まで深刻だった眼差しは、

ツカサの想いを聞いて、すっかり放心状態である……



「司書が物語の主人公に恋をするなんて、

 ロマンチックじゃありませんか」



ヒジリは可笑しそうにクスクスと笑っているが、

目の前でユメコに告白をされたエビルは、

複雑な父親の表情を浮かべていた。


ユメコは当然ながら、もの凄い赤面をしている……



しかしそれは、

コロシアムの中央にいるハテシナユメコも同じだった。


顔を真っ赤にして、微動だに出来ていない。

これはツカサの勝利だろうか……



「……あ〜ぁ!

 いいですよねぇ、勇者さまがいる人は。

 私には、守ってくれる人なんていない……」



後方で戦いを見守るだけだったクラムが、

ゆっくりと歩を進めた。


そしてハテシナユメコを背で庇いながら、

ツカサの目の前に立つ。


さすがのツカサも、

クラムに斬りかかるのは抵抗があるらしい……


戸惑っているツカサの表情を、

クラムが上目遣いで覗き込んだ。



「……ねぇ、私の勇者さまになってくれませんか?」


「はぁ?何言って……」



ツカサが真意を尋ねようとした瞬間。


クラムはツカサの身体に腕を回し、

思いっきり抱きついていた……


突然の出来事に、

観客からもどよめきが起きる。



「ちょっ……離せよ!!」


「ごめんなさい、告白に泥を塗っちゃいましたね♪」



ツカサに容赦無く引き剥がされると、

クラムは舌を出しながら、あっさりと身を引いた。


クラムが下がった事により、

その背に庇われていたハテシナユメコが再び先陣となる。


現れたその姿からは、ただならぬ気配を感じた……



「ユメコ……?」



声がする方向を、

ハテシナユメコは殺意の篭った眼差しで睨みつける。


そして次の瞬間には、

恐ろしい速度でツカサに切り掛かっていた。


その素早さは、先程と比ではない……!!


疾風の如きハテシナユメコの一撃で、

ツカサの剣は軽やかに弾かれてしまう。



「おい、いきなりどうしたんだよ!」



ツカサは非難の声をあげながらも、

両手で盾を構えて、何とかハテシナユメコの猛攻を防いでいた。


しかし剣を失ったツカサに、

攻撃へと転ずる力は残されていない……


万事休すである。



「おや、これは勝負ありですかね」


「うむ。

 あの状態になったユメコに、勝てる相手がいるとは思えない……」



エビルはそんな会話をヒジリと交わしながらも、

隣にいるユメコの様子が、心配でならなかった。


本物のユメコは流石に暴れ出したりはしないものの、

怒りを沈めようと静かに肩を震わせている……


赤面したりショックを受けたり、忙しい少女だ。



しかし抑えられているだけ、

まだハテシナユメコよりはマシだろう。


ハテシナユメコの怒りは留まる事を知らず、

ツカサたちを全員切り倒してしまいそうな勢いである。



「ふふふっ☆

 女の怖さ、たーっぷり味わって下さいね!」



クラムの表情は、いつだってとびきりキュートだ……


しかしその奥に潜む敵意は、底が見えなかった。

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