今、そわそわしている。

 今、隣の家によりついている猫が気になっている。

 開かない窓辺でうずくまっているから、心の中で「大丈夫? ごはん食べる?」と尋ねたら「大丈夫じゃない。食べる」という返事が届いた。

 私はテレパスか。


 しかし、妄想とばかりも言い切れないのはここから。

「ごはんをあげるからこちらへおいで、いや、家にいれてはあげられないけれど、ごはんあげるから、そしたら縁の下で隠れてなさい」

 と心で念じると、その真白な猫は窓辺までにゃあにゃあ鳴きながらやってきて、スコちゃんと対面した。


 スコちゃんはカーテン越しに前脚を網戸にぽん、ぽん、と当てた。

 白猫は華奢なあごを開いてにゃあにゃあとお話している。

 猫の言葉はわからない。


 わからないけれども、猫は空気を読む生き物だ。

 私は視線を庭の草むらへ向けた。

「あっちよ。あっちにごはんおいておいたから、食べて。そして縁の下にこもってなさい」


 猫は私の視線の先を見つめて、ようやく鳴くのをやめ、草むらへと入っていった。

 そして、私はスコちゃんに尋ねた。

「あの子、飼ってもいい? 嫌じゃない? お友達になれそう?」

 するとスコちゃんは「いいよ。嫌じゃない。すでにお友達」という返事だった。


 私は隣の家に向かって心に念じた。

「女神、飼うべきですか」

「飼うべきよ」


 それでもう一度、庭の方へ目をやった。

 白猫は隣の家のデッキの下に身を忍ばせて、どうにか居心地よく過ごせないかと苦心していた。

「おいで、飼ってあげる。今日すぐではなくても少しの間だけ、うちで憩いなさい。クーラー効いているから。おいでおいで」


 すると、白猫は「飼ってくれるの? でも、お金持ちだから、嫌うでしょ?」なんていう。

「お金持ちじゃないけれど、なんとかお金を工面して養ってあげるから、おいで」

 と念じたら「工面?」と不思議そう。

「年金をやりくりして、おまえの食べる餌を……安い餌でも買い集めて、養ってあげるから」と私。


 問題は病院に連れて行って、検査したりワクチン接種してもらったり、なんなら不妊手術をほどこさねば飼い猫にできないということくらい。

 今までの倍、お金がかかる。

 が、飼えば今までの倍、幸せが待っている。


 多頭飼いなどしたことがないのだが、無理してでも飼う価値はある。

 真っ白な猫。

 あこがれの猫。


 縁起もいい、金眼の白猫。

 以前はあこがれだけで飼いたいと願ったこともある。

 しかし、白猫が間近まで近づいてきたとき、私はすでにスコちゃんを飼っていた。


 そのスコちゃんと相性がよさそうだし、どんな環境においても生き延びてきた、この子ならば、一緒にやっていけるだろう。

 母に要相談。

 真剣に。


 ケージを買ってきて、そこにとりあえず入ってもらおう。

 トイレのしつけもちゃんとして、外には二度と放さない。

 徹底すれば、できるはずだ。


 女神、助けてくれる?



【はい】



 感謝!

 できる! 私なら、きっと! ……神様!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る