幸せの重さ

 どれだけうっとおしいのだろう、自分は。

 生きていてよかった、そう思う先から生の重さを感じている。

 生きているのがつらいこともある。


 告白するが、これでも家族内で一番の若手だ。

 未だに子供もいない。

 これからも独りだろう。


 さみしい、と思ったことはなかった。

 無理やり思おうと努めたことはある。

 こんな人生、つらいだけじゃないかとか、孤独なんだからもっと悲壮でもいいのではとか。


 しかし、私には母がいるし、ペットもいるから何の疑問もなく生きてきた。

 それではいけないのだろうか? なにか欠けているのだろうか? そんなことは、ある? ない?

 わからないのだ。


 心が満ち足りていれば幸せなはずなのだが、ダイエットなどをして空腹に耐えているとそれも吹き飛ぶ。

 生きるために食べるのだよな? 食べるために生きているのか?

 それもわからなくなってきた。


 ダイエットはハードだが、これで数値が改善するのならと敢行した。

 少し後悔している。

 おかげで小説が全くといっていいほどかけんかった。


 知り合いの小説にも華々しいとはいえないレビューを送り付けてしまい、ちょっぴり申し訳ない。

 全ては断食のせいなのだ。

 母がもう飽きたという、コロナのニュースでシリアスになっている。


 ワクチンが開発されたのか? 回復した人の血漿を取り出してどうこうといっていた。

 それならば、僥倖。

 しかし、パラリンピック出場者は、万が一にも罹患するわけにいかないと半年も家にこもっていたそうだ。


 まあ、私はここ何年かずっとおうち警備だけれども。

 こんな時代が来るとは思わなかった。

 2020年には全てがガラリと変わるとは聞いていたが、こういう変わりようはないんじゃないかと驚いている。


 神様にもどうにもできない。

 これはわたくしの行動力がないせいとは言われないだろう。

 行動力がないせいで、罹患せずに済んでいると言っていいくらいだ。


 だれも、誰かのせいにはできない。

 そういうものだ、病気って。

 あ、災害もね。


 今回の件で無事だったからといって、老いや病から完全に免れたというわけじゃない。

 今年もがん検診のお知らせが来た。

 母は今年はコロナで距離感が大切だし行かないかもと言っていた。


 私はお知らせが来るようになってからというもの、義務のように思って毎年張り切って時間を作ってきたが。

 そんなものか。

 こんなものなのだなあ。


 すきっ腹のせいか、妙にわびしい。

 年をとると、便秘がちになり、屁ばかりでるようになる。

 ひげは生えるし白髪は増える。


 皮膚はしみができるし、かみそり負けでかさぶただらけになるし、美しさなどかけらもない。

 生まれついての容貌が、たるんできているし、筋肉も衰えてきている。

 家から出ないのがいいのか、悪いのか、わからなくなってきている。


 年齢不詳の童顔の中で、切れ長の二重だけが光を持っていたというのに、最近よどんでいる。

 夢も希望もない。

 こんな感じで小説が書けるだろうか? いや、もう駄目だろう。


 最近猫と遊んでばかりいる。

 以前に買ったねこじゃらしで、じゃらしながら歩いたり、床に猫を転ばしたりして楽しい。

 幸せと言えばそれくらいだ。


 ってー、こんな話ばかりしても、重たいだろ! と、自分にツッコむ元気くらいは出そうか。

 自分の生と老いとを克明に記憶してしまうあたり、頭が良いのも考え物だ。

 おっと、だれも自分一人が偉いと言っているのじゃないぜ、年老いただけという話だ。


 今日はもう、くたびれた。

 明日はおかゆを作って食べたい。

 虫歯の治療にも行かねばならない。


 将来はあるのかないのかわからないが、あるなら入れ歯をすることになるのではないかな。

 親知らずを抜いてからというもの、歯磨きで歯肉がただれるのだ。

 やりきれない。


 ああ、生きているって、老いるってことなんだなあ。

 それでも幸せの大きさ、重みを抱えてるんだな。

 今、幸せなのだな。

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