爪と赦し

 昨日だったか、おとといだったか。

 部屋の床の上にぽちっと落ちていた真珠色の爪。

 なぜ爪とわかるかというと、猫を長年飼ってきているから。


 猫の爪は指の奥の方から新たな爪が生えてくると、古い角質がポロリととれるのだ。

 脱皮するみたいに。

 で、指先にそれをつまんで、しばし放心。


 これ、とっておこうかな、と。

 根本はギザギザになってはいるが、光沢がきれいだ。

 しかし捨てた。


 そんなことで感慨にふけっていたら、時間がいくらあっても足りない。

 猫とは長い付き合いになるのだ。

 爪なんか取っておいても仕方がないだろう、そう思った。



 しかし、今日は月曜日。

 中国では週の初めとして、爪を切るのに適した曜日とされている。

 自分の爪は切った。


 相棒はというと、かまってやらなかったせいか、長いすでふて寝しているところをばっちり観察。

 背もたれから前脚を突き出しているから、チャンスと思い、爪切りを出してきた。

 ちょっと切りにくい。


 こちらへ向かって伸びている爪を切るのは簡単そうだが、向こうへ伸びている爪を切るのは大変なのだ。

 なかなか鋭くとがっているから、少し深めに、ぱちん!

 とやったら、ああ、大変だ! ぽちり、と血がにじんできた。


 ああ、ああ! 私ときたら愛猫の爪一つまともに切れない! 深爪をした。

 かわいそうなことをした! おお、赦しておくれ。

 申し訳なかった! 申し訳ない! 痛かったろうに。


 しばらく切り取ったそれを握り締め、後悔にさいなまれたが、やはりあきらめる以外になく、私はやけにカーブがきいているその爪を、そっと棚の上に置いた。

 なぜだか捨てきれず、心の傷として取っておくことになった。

 神様!

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