第84話 二人は王宮へ

 「……ああ、そうか。そうだよな」


 約束の時間までには一時間ほどある。

 しかし、目的地であるマリンズ国王がいる王宮までは少し歩くので、ダリアを連れて早めに瞬間移動テレポーテーションでマリンズ王国へと来ていた。


 だが、この国に来て早速、俺はテンションが下がっていた。


 俺が瞬間移動で転移して着いたのは、かつてステフが住んでいた家、つまりミューレン家があった場所……のはずだった。


 ……そりゃそうだよな。

 ミューレン家は没落したんだ。

 ベッツ家が助けていればなんとかなっていたのかもしれないが、没落した貴族の令嬢などなんの価値も無い! って切り捨てるように婚約破棄したんだもんな。


 俺がどんなに周りを見渡しても、かつてステフと沢山の楽しい思い出を作った場所はなかった。


 既にミューレン家は取り壊されていて、別な貴族の豪華な屋敷が建っていた。


 「……ユリアさんがいるマリンズ王宮へ行くか。あんまりここには居たくない」

 「……ええ」

 「少し歩くけど平気か? 全く、迎えすら無いってマリンズ王国にイーグリット舐められ過ぎだ。俺は良いとして、ダリアはダメだろ」

 「……ええ、そうね」

 「折角、ダリアが公務用のアクセサリーとドレスで来てやってんのにな? マリンズ王国へ来たら、王宮までは徒歩で来いって、頭おかしいんじゃねえか?」

 「……本当ね」

 「……行くか」


 二人揃って暗い気持ちで、マリンズ王宮へと歩き始める。


 ダリアの表情は死んだままだ。

 ユリアさんと今更会ったところで、罵詈雑言を浴びせられるだけとしか思っていないからだろう。

 そんなダリアを見ていると、こっちまで元気が無くなってくる。


 もちろん、ステフとの思い出の場所が、跡形もなく無くなってしまっていたというのも、影響しているけど。





 ◇





 「……つ、疲れた……」

 「……ええ、そうね」

 「……ええ、そうね……じゃねーよ! なんでマリンズ王国でダリアが超有名人になってんだよ! しかも、イーグリット王国の次の女王だ! って見ず知らずの子供に指差されるレベルとかどうなってんだよ! おかげで音速ソニックを使いまくって王宮まで来るハメになったじゃねーか!」


 息を切らしながら、俺はマリンズ王宮の門の前でギャーギャー騒いでいた。

 門番達はそんな俺を怪訝な顔で見ている。


 ダリアが公務用のドレスを着ているので、観光客などが多い大通りは避け、遠回りにはなってしまうが、野次馬などが集まらなそうなので、マリンズ王国の貴族の屋敷や家や別荘などが集まる高級住宅街を通って行こうとしたのだが……。


 人がわらわら集まるわ集まるわ。


 (「イーグリットの次の女王様だ!」)

 (「握手してくれ!」) 

 (「王に会いに行かれるのですか!?」)

 (「可愛い〜! 娘に欲しいわあ!」)

 (「ちょっと奥さん! 今話題の人よ!」)


 ……と、なんやかんやあったので。

 結局、ダリアをお姫様抱っこしながら、音速を使いまくって王宮ここの前まで来ましたよ……。

 あー……疲れた……。

 久し振りにダリアの強化魔法なしで魔法を連発したせいだな。


 「騒々しい! ここをどこだと思って騒いでいる!」


 門番の一人が、怒りながら駆け寄ってくる。

 どこだと思っているかだって?

 そりゃ、マリンズ王宮だろ?

 と言いたいところだが、今の俺はイーグリット王国の使者扱いなので、大人しく謝っておく。


 ……皮肉たっぷりにな!


 「あーすいませんね! マリンズ王国の方々がウチの王女様にあまりにも群がるもんだから、ここに来るまで大変でね! だから、愚痴の一つでも言いたくなったんですよ! 声が大きくて申し訳ない!」

 「……王女だと? あっ! ……これは失礼しました! 第二王子の奥様であるユリア様の妹で、次期イーグリット王国女王のダリア・イーグリット様! 申し訳ありません……王都の民が失礼をしたようで……」


 ダリアに気づくと、門番は慌てて跪きながら謝罪をする。

 ……いや、苦労したのはダリアじゃなくて、俺なんですけど。


 「……大丈夫よ。横にいた彼が、野次馬達を避けながらここまで連れて来てくれたから」


 ダリアは、先程までの死んだままの表情から更に一段階暗くなった状態で答える。

 ユリア様の妹……というのに引っかかったのだろう。

 

 もう少しで、ユリアさんに会える。

 ……いや、会わなければいけなくなるというのが、今のダリアの心情なのだから。


 「……一体、何の騒ぎだ」

 「あっ……バウアー様!」


 門番……では無さそうな人間が、今度はやってくる。

 声を掛けられた門番が即座に跪く辺り、目の前にやって来た白髪ではあるが、俺達と同い年ぐらいの男は相当な身分の人間なのだろう。


 ……ん?

 そういえば、ステフが言っていたな。

 髪の毛は真っ白だけど、年齢は二十一歳で俺達と年が近い奴が、マリンズ王国の第一王子で勇者でもあると。

 あっ……もしかして。


 「バウアー……バウアー・マリンズ……。マリンズ王国第一王子で勇者の……」

 「……いかにも、自分はバウアー・マリンズだが……イーグリットの使者は随分と失礼なんだな? 他国の王子を面と向かって呼び捨てにするとは?」

 「…………」


 はい俺、早速やらかしました。

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