第82話 再会の恐怖
「……やれやれ、ステフには困ったな」
今日はダリアと一緒にマリンズ王国へと出発する日。
出発前に、ステフとアザレンカを
納得したはずのステフが、やっぱりダリアと二人でマリンズ王国へ行くなんてズルい! 新婚旅行みたいじゃん! 私とだってまだ新婚旅行行ってないのに! と騒ぎ出したので、色々落ち着いたらノースルートへ新婚旅行に行こうと約束し、何とかステフを置いて行くことに成功した。
ちなみにノースルートは、爺様のいる北の隣国だ。
そう、面倒……じゃなくて、色々と名所とかを教えて貰えそうだから、ノースルートをステフとの新婚旅行先に選んだのだ。
決して、面倒臭いとか一応昔、行ったことあるから瞬間移動出来て楽だからとかそんなことは思っていません。
……まあ、正直ステフのわがままに関してはまださほど問題じゃない。
問題があるとすれば、ダリアだ。
マリンズ王国へ一緒に行く……ユリアさんとも会えるぞと伝えてから今日までずっとおかしなままだ。
元気も無いし、聞いてもはぐらかすし、嫌なら一緒に来なくても良いぞと言えば、怒るし。
どうしたもんだか。
「準備、終わったか? ……おお、キレイだな」
王宮にあるダリア専用の部屋へと入る。
すると、公務用の格好に着替えたダリアが待っていた。
きらびやかなアクセサリーと華やかなドレスに身を包む、この姿のダリアは久し振りに見る。
ダリアを狙っていた男たちに、シルバー・ヴィーナスこと銀の女神と呼ばれていただけあって、やはりキレイではある……が、表情は浮かないままだし、なんなら死んでいる。
「……行きましょうか」
「……うーん、やっぱ取り消すわ。いつもの表情豊かなダリアのほうが、可愛いしキレイだな。どんなに豪華なティアラをつけていようが、華やかなドレスを身にまとっていようが、表情が死んでいたら全く可愛くないしキレイに見えない」
「なっ……」
今のままのダリアをマリンズ王国に連れて行っても失礼なだけだし、何よりユリアさんも悲しむ。
だから、はっきりと言ってやった。
今の表情が死んでいるダリアは、可愛くないしキレイでもないと。
決して当時は幸せではなかったが、幸い俺はマリンズ王国に、令嬢と政略結婚のためのお見合いやステフの家であるミューレン家に行っているため、マリンズ王国の宮殿がある王都に瞬間移動で行けるので、まだ約束の時間まではある。
どうにかして、いつものダリアに戻さないと。
「……どうした? ユリアさんと会うのが怖いのか?」
単刀直入にダリアへ俺は聞いた。
マリンズ王国へ行くことよりも、ユリアさんと会うのが何故か嫌そうだったし。
決してダリアはユリアさんと仲が悪かったわけじゃないし、なんなら二人揃って第一王子の……ああ、第一王子だったジョーの悪口を言い合うくらいには仲良かった。
ダリアから時々出る毒舌はユリアさん譲りでもあるし。
だからこそ、会いたくなさそうにしているのはなぜなのか聞くしかなかった。
「当たり前よ……怖いに決まっているでしょ? ユリア姉様はきっと、私を恨んでいるはずだわ」
「……そうか? 絶対俺のほうが恨まれてるだろうし、再会したら色々言われるだろ」
ユリアさんが、マリンズ王国の第二王子フリード・マリンズと結婚させられたのは、次の王候補筆頭だったユリアさんを邪魔に思っていて、自分達の思い通りの傀儡に出来なさそうだからって理由で、ベッツ家を始めとした第一王子派の策略(実際はマリーナの手のひらの上で転がされていただけ)のせいだ。
だから、ダリアが恨まれるなんてことはないと思うし文句も言われないだろ。
絶対文句言われるの俺だよね。
そんなことは覚悟の上で行くわけだし、行くしかないわけだが。
「分かってないわ、プライス。今の私とユリア姉様の状況を比べれば分かるわ」
「だから……言われるのは俺だ……」
「私がユリア姉様の立場だったら! 文句を言わずにいられないもの! きっと、恨まずにいられないもの!」
……ダリアの目には涙が浮かんでいた。
「ユリア姉様は、好きな人とも結婚出来ず……好きでもない男と結婚させられ、その男の子を孕み、次の王となる権利を失った! でも、私はプライスと……好きな人とこれからもずっと一緒にイーグリットで過ごすことが出来て、更に次の王となることが決まってしまった! そんな立場の私が、全てを失ってしまったユリア姉様に、どんな顔をして会えばいいの!? どんな言葉をかけたらいいの!?」
「…………」
「無理よ……ユリア姉様と会うなんて……私がもしユリア姉様の立場で、今の私のような状態のユリア姉様に今更会いに来られてたとしても、きっと恨み言を言ってたわ! 私は好きな人と結婚出来ないのにって!」
……こりゃ重症だな。
ステフからユリアさんの結婚相手であるフリード・マリンズのことを聞かされていた時から、辛そうにしているなとは思っていたが、まさかここまで追い詰められていたとは。
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