第79話 風の聖剣
(
……
確かにダリアが上級魔法である三位一体を覚えようとしているのは事実だけどさ。
俺は上級魔法を覚えられるほど魔法の才能が無いし。
ステフは雷属性魔法、アザレンカは氷属性魔法しか上級魔法は使えない。
そうなると必然的に三位一体を覚えられる魔法の才能があるのは、ダリアしかいないからな。
(彼女がその魔法を使えるようになれば、キミと雷、そして氷の聖剣使いの
……そこなんだよな。
俺とステフ、ステフとアザレンカの聖魔法は融合出来るが、俺とアザレンカの聖魔法は融合出来ないっぽいんだよな。
(
……ですよね。
だと思ったよ。
そんな甘い話がある訳ねえって思ってたよ。
(そこで
……拾えって言われてもな。
風の聖剣はマリンズ王国の物だし……。
色々と面倒臭そうなんだよな。
(うん! ボクを拾えば多分メチャクチャ面倒臭いことになるよ! でもね……その代わりにそんなのが気にならないほどのリターンをキミに与えよう)
……分からない。
分からないな、風の聖剣。
何故お前はそこまでして、俺の剣となろうとするんだ?
探そうと思えば、いつかは風の聖剣に相応しい聖剣使いに出会えるだろ。
(キミも自分を過小評価するの好きだねえ……お母さんやお姉ちゃんが強過ぎて、劣等感を感じているのかい? それなら、大丈夫さ。キミは聖剣に選ばれた。彼女達は、聖剣に選ばれなかった。だからこそ、その劣等感から魔剣なんて物を作り出したんだから)
あの二人が俺に劣等感だと?
いやいやまさか……そんな訳が……。
(いや、あるかもしれんな。少なくともお前の母親だった女……かつての大賢者は昔、我に選ばれずとても悔しがっていたぞ。今となっては、選ばなかった我の目は正しかったようだがな)
(彼女達二人も氷属性魔法が大得意だったみたいだから、火の聖剣とは相性が悪いよねえ……まあ……彼女達の場合は、氷の聖剣にすら選ばれないだろうけどね。適性があるとかそれ以前かな)
マリーナにそんな過去があったなんて知らなかったな。
……聖剣には一体、あの二人の何が見えていたのだろう。
それが俺達は見えていなかったから二人を止められなかったわけだが。
(さあ、もう良いかな? さっさと拾ってよ。今は刀身剥き出しだけど、キミが拾ってくれれば勝手に鞘が再生してくれて、刀身も剥き出しじゃなくなるから安全だよ?)
風の聖剣は俺にそう伝えると光りだした。
うおっ……この光……あの時と同じだ。
火の聖剣を抜いた時と……。
(あ、そうそう。最後に一つだけ聞きたいな。キミの夢って何かな?)
夢……? 夢だと?
ったく……何で聖剣で色々と求める物が違うんだよ……。
火の聖剣は目的、雷の聖剣は望み、氷の聖剣は願い、そして風の聖剣は夢と来やがった。
夢……夢か……。
……ダリアがイーグリットの女王になって、平和なイーグリット王国がまた帰ってきたら良いかな。
それで今度こそ俺は、ちゃんとした家族を作りたい。
温かくて、お互いを尊敬し合える家族をな。
(いいね……その夢、素敵だよ。他の人から見たらそんな簡単な夢……って思うかもしれないけど、キミの場合は、結構その夢を叶えるのは難しそうだからね。……うん、その夢が叶えられるようにボクも力を与えるよ!)
そう俺に風の聖剣は伝えた。
もう風の聖剣と火の聖剣の声は聞こえない。
言いたいことは全て話した。
後は、俺がどうするか……だな。
俺に早く拾えと言わんばかりに、風の聖剣はずっと光り続けている。
覚悟はもう決めた。
拾わなきゃ勝てないかもしれない。
ただ、拾えば勝てるようになるかもしれない。
拾う理由はそれだけで十分だ。
風の聖剣の柄を掴んで、拾い上げた。
その直後、聖剣の刀身が更に強い光に包まれる。
流石に眩しすぎて、目を開けていられなかったので、目を閉じた。
くっ……何だ……この……光……。
目を閉じているはずなのに、光を……感じる。
……収まったか?
目を開けて聖剣をまた見る。
風の聖剣が鞘に収まっていた。
……これが、俺を選んだって事なのか。
さてさて、選ばれたのは良いが……果たして風の聖剣でも聖魔法を使えるかどうか……。
後……レビーになんて説明しよう。
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