第77話 派遣の理由
「……あ、ありがとうございます。お医者様から私を助けて下さったのは、お二人だとお聞きしました。本当にありがとうございます」
俺とダリアが部屋へ入ると、気付いたレビーがすぐにお礼を言ってきた。
……パッと見では精神には問題なさそうだが……まあ、彼女から聞けることは聞いておかなければならない。
「そういえば、お二人も私にお聞きしたいことがあると、お医者様から言われました。命の恩人のお二人のためなら何でも話します」
「……じゃあ、早速。まずは俺から聞かせて頂きます。マリンズ王国の目的は何ですか? 聖剣を使える人間をこの短期間に二人も派遣するなんて、何らかの目的が無いとそんなことしませんよね?」
ステフに加えて、レビー。
いくらマリンズ王国が聖剣を九本持っているとはいえ、この短期間で二本もイーグリットのために割くなんておかしい。
「……本来だったら、話すことは出来ませんが、どうやらお二人と私達の目的が一緒なのでお話します。実は、マリンズ王国の王家から魔剣の調査とイーグリットの魔剣量産計画をなんとしてでも阻止しろと命令されていたんです。かつてのマリンズ王国最強の勇者を魔剣で殺した魔法使い……マリーナ・ベッツの再来をマリンズ王国の王家はとても恐れているのです」
「……マリーナ・ベッツですか」
マリーナ・ベッツ。
あの女はライオネル王国の内通者だ。
恐らく魔剣量産計画をマリンズ王国へリークしたのはマリーナだろう。
今回の件でもし、イーグリット王国とマリンズ王国がいがみ合って、あわよくば戦争になったりすりゃライオネル王国が一番得をする。
「……マリーナがマリンズ王国にわざと計画をバラしたのね」
「ダリアも気付いたか。それでこうやってマリンズ王国の人間が来て、イーグリットが弱体化をすれば、ライオネル王国にとっては得だからな」
「滑稽ね、第一王子派は。マリーナの手のひらの上で踊らされていただけなのに、我々の背後にはマリンズ王国がいるなどと脅すなんて」
全くだ。
これで、正真正銘第一王子派は終わりだろう。
魔剣もほとんどダメ、仲間だと思っていたマリンズ王国も実は魔剣の調査と魔剣計画の阻止目的に近付いて来ただけだった訳だからな。
「ですが、失敗……いえ、私達は動くのが遅過ぎました。まさか、マリーナ・ベッツがライオネル王国の人間となったなんて。信じがたい話なのですが、本当なんですか?」
「ええ、まあ。イーグリットの人間で実験するだけ実験して、ライオネル王国へ行きましたよ」
「大賢者と慕われ、かつてイーグリットの英雄とまで言われたのに……何故……ライオネル王国の人間となったのでしょう?」
「…………」
「…………」
レビーの疑問に俺とダリアは黙るしかない。
マリーナ本人から裏切った理由を聞いているが、理由が理由なので話したくないというのが本音だが。
(「数十年、イーグリットに仕えて、命懸けでイーグリットを救ったこともあったのに、この年になってダリアちゃんかジョーに仕える事になるかもしれない? いやー無理。無理だったわ。耐えられない。私にだってプライドはあるもの」)
……うん、やっぱりマリーナが裏切った理由は他国の人間には話せねえな。
「あっ……すいません。そんなことお二人が分かるわけ無いですよね」
レビーは俺達の様子を見て察したのか、ごまかすように話題を変えた。
「そ、そういえば、私の聖剣ってどこにありますか?」
「え? ああ、訓練所に落ちたままですね。一応、イーグリットの聖剣使いが監視しています。他の誰かが触っても困るし、風の魔法が使える人間が手に入れようとしても困りますし」
「良かった……あの聖剣はマリンズ王家の物なので無くしたら怒られるどころじゃ済みません。近々、王家に返却する事を決めたのに、無くしたなんて言えないですから」
「返却?」
「はい。私は一向に
レビーは何か吹っ切れたように、話を続ける。
「私の前にも使用者がいましたが、もう百年以上あの聖剣の聖魔法を使える聖剣使いは現れていなくて……私も聖魔法を使えない聖剣使いの中の一人だったというだけの話です」
「……諦めるだなんて、今回の一件も関係しているのかしら?」
ダリアの心配する気持ちも分かる。
もし、今回の一件が決め手となったのであれば、イーグリットにも責任が無いとは言えないのだから。
「……無いと言ったら嘘になります。私は何も出来ずに惨敗しました。でも、聖剣使いを諦める決め手は死にかけた事ではなく、同じ聖剣使いであるプライスさんの戦っている姿を見て、ああ……私は向いてないなって……」
「…………」
「あ! すいません! 別にプライスさんのせいとかじゃなくて! 現実を知ったというか……そういうやつです! ほ、他にも聞きたい事ありましたよね? この話は終わりにして、そっちの話にしましょう!」
俺達に悔しさを悟られないように空元気に振る舞う彼女。
しかし、彼女の目は赤くなっていた。
だが、俺もダリアもそれには触れる事が出来なかった。
何も出来なかった事の悔しさは、俺達も痛いほど分かっているから。
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