第38話 王家の企み、絶望するセリーナ
力が、溢れてくる。
最初に聖剣を引き抜いた時も、クラウンホワイトを討伐した時も、聖剣を引き抜いたと同時に、体から何故か力が湧いてきた。
だが、今は湧いてくるという感覚じゃない。
溢れてきているんだ。
聖剣が、俺の怒りに呼応するかのように。
ダリアが他国とのコネ作りの道具としか見られていない事。
アザレンカを無能と蔑み、自分達の計画の邪魔だからと、死んで欲しいと願っていた事。
ステフに謝りもせず、ステフの気持ちを利用して自分達の言いなりにさせようとしている事。
他にも俺が、怒りたい事なんて沢山あるし、俺が腹立つ奴らなんて沢山いる。
クソババアは勿論、両親やセリーナ。
そして、第一王子派。
……いや、違うか。
怒りを通り越して、最早俺は呆れている。
だが、一つだけ心に決めた事がある。
必ず、コイツらの計画は潰す。
たとえ、家族を殺す事になっても。
……まあでも、一応最後の確認はしておくか。
コイツらも、俺が聖剣に選ばれたということを知っていれば、こんな計画を立てていなかったかもしれないし、もしかしたら自分達の非を認めて、計画を辞めようと考えたかもしれん。
俺も至らない点があったな。
聖剣に選ばれた時点で、さっさとコイツらに忠告をしておくべきだった。
先程まで、泣いたり諭したりするような事はあったが、あくまでも戦力はこちらが上で、有利なのは第一王子派。
それを信じて疑わなかったから、お袋や親父もあんな事を言ったのだろう。
諦めて、ダリアを連れて王都へ帰ってこいなどと。
次の王は第一王子で、何をしようとそれが覆る事は無いと。
女勇者のステフもいれば、聖剣という絶対なる切り札もある。
だから自分達の優位は揺るがないと思っていた。
だが、その切り札を俺達も使えるようになっていた。
その上、ダリアとアザレンカもいる。
お袋は、アザレンカが氷魔法の天才だと良く知っているだろうし、親父はダリアの強化魔法に、王国騎士団が幾度なく助けられた事を忘れている訳がない。
まあ、一番の誤算はこの二人の足手まといになっていると思っていた俺が聖剣を使えるということだろうな。
親父の口振りからして間違いないだろう。
そして、クソババアの青ざめた顔よ。
そんなはずはないと。
自分達の計画は完璧だったはずだと。
聖剣と勇者を追い出せば、何とかなると思っていたんだろう。
まさか、聖剣が俺を選ぶなんて考えもしなかったと言いたげな顔だ。
爺様は、何故か嬉しそうにしているが。
まあ、この計画に不満を持ってそうだったからな、これでまともな反対勢力が出来た訳だ。
「どうした? 俺達が聖剣を持っている事は把握していたんじゃないのか?」
明らかに焦っている事を隠せていない親父を煽るように聞いてみる。
「何故だ! お前が何故聖剣を使えるんだ!? セリーナやお前らの監視役からそんな報告は聞いていないぞ!」
「ロイ! 何を言ってるの! プライス達には秘密のはずでしょ!」
「あっ……」
親父とクソババアのやり取りのお陰で、本来知ることの無い情報を得られたな。
どうりで、自信満々でいた訳だ。
どいつもこいつも。
俺達に監視役を付けていたから、聖剣も俺達の行動も全て把握出来ていると勘違いしていたんだな。
しかも、ご丁寧にセリーナも監視役にしていたとは。
いざとなれば、俺達を始末させるつもりだったんだろうな。
まあ、一対一の剣のみを使った模擬戦とかだったら完敗だろうが、大して魔法を使えないセリーナなんか、殺し合いの何でもありの戦いなら、普通に魔法で勝てるけどね。
「それなら、知っているはずだよな? 敵は俺達三人だけじゃないって」
「お前が聖剣に選ばれたと分かったからラウンドフォレストの領主は、次の王に第二王女を選んだのか! クソ! 想定外だ!」
悔しそうに親父は、テーブルを殴る。
よっぽど悔しかったのか、拳から血が出て、テーブルクロスが心なしか血に染まる。
そんな親父を見てお袋も頭を抱える。
「……に、偽物よ! その聖剣! アンタが聖剣に選ばれる訳無いじゃない!」
「自分達の無能さを認められないからって、聖剣を偽物扱いとはな、クソババア? 聖火の餌食になる覚悟があるんだろうな?」
俺はクソババアへ聖剣の切先を向ける。
すると刃は聖火に包まれだし、今にも切先からは聖火が放たれそうな勢いだ。
「ヒイィィィ! ほ、本物じゃない! 先代勇者マルク・アザレンカが使っていた、火の聖剣じゃない! ど、どうするのロイ!」
「そんなの知らないよ! そもそもこの計画は母さんがやろうと言い出したんじゃないか! だから言ったんだ! リスクがあるって!」
それ、騎士王という身分の奴が言うセリフじゃねえだろ、親父。
どんだけ、あのクソババアは発言力あんだよ。
親父とクソババアのやり取りを見て、ますます呆れてしまった。
「マ、マリーナさん! 大賢者でしょ! 魔法で何とかしなさいよ!」
親父が頼りにならないと思ったのか、クソババアは、今度はお袋に何とかして貰おうとしている。
「いくら上級魔法でも、聖剣相手に効果があるわけ無いでしょう! それに私の得意魔法は氷です!」
至極当然の意見だ。
お袋が正しすぎる。
魔法でどうにかなるんだったら、聖剣を持つ勇者が恐れられる訳が無い。
しかも、火の聖剣と氷魔法が得意なお袋は相性最悪。
どうやったら止められると思ったのか。
「使えない嫁ね! 大賢者が聞いて呆れるわ!」
そんな事はお構いなしに、今度はお袋を使えないと非難する。
このクソババアはボケているのか?
「……るさいわよ」
「何! その顔は! 私に逆らおうっていうの!」
「うるさいって言ってるのよ! もう我慢の限界! こんな家出ていってやるわ! プライス! こんな奴ら好きにしなさい!」
「お、おい! お袋!」
「
お袋は捨て台詞を吐いて、魔法を使ってどこかへ消えてしまった。
色々、溜まっていたのは分かるけど、こんな状況でいなくなるなよ!
「本当に使えない嫁! ねえロイ! さっさとプライスを殺……」
「醜いぞ、婆さん」
「え? グホッ!?」
ずっと黙ったまま見ていた爺様が何かを呟いて立ったと思った時には、クソババアは爺様に顔を思い切り殴られ、吹っ飛んでいた。
それはもう、見事に。
「ロイ、婆さんを空いている部屋に運んでやれ。プライスと二人で話したいのじゃ」
「し、しかし!」
「何じゃ? ワシよりも強くなった気でいるのかロイ?」
「い、いえ」
爺様の指示で、虫の息状態のクソババアを抱えて、親父はダイニングから出ていく。
……爺様強いな、やっぱ。
親父と違って、魔法もある程度使えるし。
そういや、二年前俺が暴れた時も爺様に止められたっけな。
「全く、すまんのう……プライス」
俺に謝り、爺様は椅子にまた座る。
そして話を始める。
「プライス、残念じゃが計画はもう止められんのじゃ」
「そ、そんな! 何か方法は無いのかよ!」
「まあ、落ち着け。計画は止められんが、方法ならあるのじゃよ」
方法?
その方法は何だ?
あの腐った計画は止められなくても、何か方法があるのか?
「いいか、プライス!
「王の剣?」
「そうじゃ! 王の剣とはイーグリット王家に伝わる剣で、次の王に相応しい者を選ぶという! ……じゃが、残念ながら第一王女は選ばれなかったのじゃ……」
王の剣……そんなものが。
いや待て、ダリアからそんな代物があるなんて一回も聞いていないが?
それにしれっと第一王女が選ばれてないとか聞かされるし。
「後継者候補には王の剣の事は、伝えられないのじゃ。じゃから第二王女が知らないのも無理はないじゃろうな」
「なるほどな。じゃあその、王の剣に選ばれるにはどうしたら良いんだ?」
俺の心の内を察したのか、聞かされていなくて当然という感じで話が進む。
そして俺も、王の剣に選ばれる方法を爺様へ聞く。
「まず、選ばれるには、儀式をしなければならないのじゃ。その儀式を執り行う前に、イーグリット内のそれぞれの街の領主達からの推薦状が必要になるのじゃ。ロイの口振りからじゃと、ラウンドフォレストの領主から貰ったのじゃろう?」
……推薦状?
そういえば、旅の資金と一緒にグリーンさんの名前が入った紙があったな。
「イーグリットの街は、全部で十一ある。つまり、過半数の六つの街からの領主からの推薦状を貰って、初めて王都で王の剣に選ばれる為の儀式が出来るのじゃ」
となると、後五つの街からの領主からの推薦状を貰わなければいけないのか。
そして王の剣の儀式を行うと。
「……これはあくまで、ワシの勘じゃが、第一王子は王の剣に選ばれておらん。じゃから、ワシは計画に反対しとったんじゃ」
「……爺様、それは王の剣の話を聞いただけで俺も察している」
となると、王都でのんびりしている場合じゃねえな。
早く戻って、この事を二人に伝えなければならないし、何より第一王子派が推薦状を出させないように圧力を掛け始めるかもしれん。
それにステフの事もある。
「爺様、俺は急いで二人の元へ戻る。元気でな」
「セリーナ達には会わんのか?」
「気が変わった。そんな場合じゃねえ。ステフの事もあるし」
「それもそうじゃな、……すまんがステファニーはワシも止められんのじゃ。何故かボーンプラントから出たがらんのじゃよ」
爺様は怪訝そうな顔をしつつ、申し訳なさそうにする。
ボーンプラントから出たがらない?
あんな田舎の街に何があるんだ?
「ボーンプラントにいれば、プライスと会える気がする。と言って、一向に動こうとせんのじゃよ」
「アイツらが言っていた、ステフは言うことを聞こうとしないってのはそういう事か」
「そうじゃ。……プライス。ステファニーを頼むのじゃ。肉親がいなくなってしまったステファニーは変わってしまった。ステファニーを何とか出来るのは、プライスだけじゃ」
爺様は深く、何とかしてくれと言うように頭を下げる。
元騎士王という国の重鎮が、ここまでするんだ。
ステフを何とか出来るのは、同じく聖剣を持つ俺だけなんだ。
俺は聖剣を鞘に収め、二人の待つラウンドフォレストを帰るために魔法を詠唱する。
「分かったよ、爺様。必ずステフは何とかするから……
「頼んだぞ、プライス」
プライスがいなくなった後、バリーはダイニングで一人呟いた。
そして。
「隠れているのは、分かっとる。出て来たらどうなんじゃ?」
バリーの声に、怯えながら、そして顔を青くしながら、絶望の表情をしたセリーナがダイニングに入ってきたのだった。
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