一年生編

01:如月信男は無個性(モブ)である。


 個性が渦巻くこの世界には二種類の人間がいる。持つものか、待たざるものか...前者はペキュラー、後者はモブという風な別れ方をして育てられた。ペキュラーは自身の個性にあわせた能力を見つけることができる。熱血系なら炎、冷淡なら氷のように感覚的なイメージと直結したあるいは他のものをコントロールする者もいる。



さて物語の主人公は後者モブであることを悩ましく思う高校一年生、如月 信男、通称モブ男。彼は生まれながらにしての天性のモブであると自覚している。だが、危惧することは無い。この世界では特にモブ=空気という訳ではない。なぜなら世界の総人口の半分くらいはモブなのだから。


モブ男は悩んでいた。教室でも目立つわけでもなく、可哀想な男だ。今の立ち位置に満足できず、悶々と過ごしているようだ。


 なら、私が仕方なく加担してもいいとも思う。 ん?今話してる私はだれかって? それは・・・




.............



学校が始まってはや一ヵ月。高校生になって俺、如月信男には友達が一人いる。


もちろん俺と同じくモブだ。彼の名は連廉。読めなかったのであった当初かられんれんと呼んでいる。彼も類まれにみるモブ顔メガネくんで僕と同じような趣味を持っていて、とても気が合うのだ。俺達は普通の生活を送ってきていた・・・はずだった。




今日も二人で同じように帰路へ。



「モブ男、今日、どうする?」


「いつも通り、れんれん家でスマブラっしょ」


「おけまる」



いつも通りの会話は全く変わらない。平日は毎日こんな感じで学校帰りれんれんの家でだらだらゲームをしたり、二人ともが好きなアニメを見たりして帰る。こんな風に友達の家に行って遊ぶことがもう日課のようになっている。この時間が一番好きだ。今日はれんれんと格闘ゲームをしながらフワフワした会話を続けていた。すると、彼の口からミサイルが放たれた。



「俺さ......なんか告られたんだよね」



カタカタと音を鳴らしていたゲームコントローラーが一瞬に凍りつく。コンマ数秒遅れて自分のキャラがK・Oされかけた情けない所でポーズした。



「は? 待ちたまえ、相棒。どういうことだい?」



「告白、されたの。女子に」



「いつ、どこで、何時何分、地球が何回廻ったんだ?」



「質問が多い。一つずつでおなしゃす」



「いいや、質問は今、拷問に変わっているんだぜ、相棒。哀しいけどな。早く答えなさい! いつなんだ?」



「ハァ、今日、お前と帰る前、俺、掃除だったから残ってたんじゃん? そんときくらい」



「誰だね、相手は?」



「知らん」



知らんは無いぞむらじくんよ。いくらクラスの半数以上覚えていない君だったとしても、だ。知らないでは済まないぞ?普通。


いくら聞いても相手の名前は教えてくれることも、思い出すそぶりも見せない。しかたなく、諦めて俺は仮にその人をA子さんと呼称し、話を進めた。



「それで、だね。A子さんはどうして君の事を、その、好きになったのかな?」



新米の圧迫面接官のような尋問は引き続き、連廉を問い詰める。



「その子、どうやら黒縁眼鏡男子が好きだったらしい。顔もまあまあ好みなので一目ぼれしたらしい」



はい、外見至上主義です。ありがとうございます。だが、むらじくんの良いところは、そこで彼女に断ったところである。この男はまっすぐな性格というか舞いあがらない性格なのだろう。だが、その事は俺をひどく傷つかせた。至極勝手なまでに傷ついた。



だって、俺はもてたいのだから!! 


恋愛の一つや二つ、駆け引きの一つや二つやってもバチは当たんないでしょ!それさえ友人、しかもそんなのに、縁がなさそうな真横にいるこいつに先を越されたのだから。



俺は負け越したゲームを適当に切りあげ、気持ち上の空で帰宅したのだった。



彼の家から帰るいつもの道もなんだか、色あせて感じた。



帰宅してから一階から聞こえる母の言葉もテレビを見ながら俺を呼ぶ妹にも生返事で返して二階へ上がり、自室へと戻る。




自室のベットで横たわる。音もなく、ただ、空虚に過ごす。まるで禅僧の座禅の時間くらい静かだ。



空虚はオレをむなしくさせた。


聞こえないようにベットで暴れ倒し、顔にまくらをあて、叫び倒す。



「あああ! なんで俺にはそういうの無いの? モテたいっていう物欲センサー働き過ぎ? なんであいつちょっと甘酸っぱい青春送ってんだよ! なんでかなぁー!!」



『お取り込み中、いいかな? お困りのようだね?』



誰だ? 俺に直接脳に語りかけるようなしゃべりをするのは!



『やっぱり、君 如月信男だね? はじめまして、神様です❤』



目の前にいる清廉潔白な衣装を身にまとい、かわいらしい笑顔を振りまく少女は、物音を立てずに不法侵入し、挙句神だというイタイ子だ。自称神さまは俺の勉強用のイスに背もたれを前にして座ってくるくる回っていた。


 関わりたくはないが、僕は紳士だ。



「か、神様が何のようですか? モブの様な僕に。暇なんですか?」



神さまは見れば見るほど、いたいけな少女だ。少女は肘をつきため息交じりに



『君は覚えてないと思うけど、私の所にお賽銭くれたから、なんか律儀だなって思って、君のお願い一つだけ叶えてあげる♪』



そうか、よくわからん。 そんなに急かさないでくれ。とりあえずこの少女に話しをしよう。



「いや、あなたが神様なんて言われても信じられませんし、不法侵入ですよ?」



『心配しなくて大丈夫だよ! あなたの願いは分かってるから!』



話聞いてないなこの天然そうな顔つきは......。押し切る彼女がそう言うと純白の姿がより一層白く、強くなっていった。

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